第200話 始祖龍キーリと魔王レア

 ターティス大陸にあるキーリの作った大広間に、総勢四千の龍達が集められていた。


 龍族の始祖キーリが龍族の長だが、その側近として十体の龍が『キーリ』の周りに立っている。


「いいか? お前たちの気持ちも分かるが、今は魔王レアと絶対に争うなよ?」


 キーリの言葉に多くの龍族が眉を寄せたが渋々と頷く。


 キーリはこの大広間で魔王レアとの契約によって、大陸の半分と自分達が復活することが出来た事を伝えた。


 そして最後に過去のレアとの戦争で失った多くの同胞達の仇である魔王レアと、今すぐに対立をするなと釘を刺したところであった。


 しかしキーリの言葉に異論があるのか、一体の龍族が口を開いた。


「キーリ様ともあろう御方が、えらく弱気な言葉ですね?」


 男の龍族は不敵にも始祖龍キーリにそう告げた。


 ――その男の名は『レキオン』。


 一番最後にキーリの側近になる事を許された龍族であった。


 【種族:龍族 名前:レキオン(通常形態)

 魔力値:177万 戦力値:5100万 所属:ターティス】。


 側近の中でも突出した戦力値を持っており、形態変化や戦力値のコントロールも出来る才能ある龍族であった。まだまだ若いが戦力値だけでいえば、キーリに次いでNo.2である。


「レキオン、調子に乗るなよ?」


 キーリの横に並び立つ側近、古参の龍族の『ディラルク』が、レキオンを諫めるように声を出した。


「構わん。俺もレアと再び戦わなければ、レキオンと同じ気持ちだっただろうからな」


 見た目が幼女のキーリは横長のソファーの上に胡坐をかいて座り、男口調で喋るのだった。


(※口調は男だが、キーリはれっきとした女性である)


「だが、今のアイツは戦争前とは比べ物にならん。今あいつと再び戦争を起こせば、俺たちは滅ぼされるだろうな」


 キーリの言葉にレキオンもディラルクも耳を疑った。


 見た目が幼女であってもキーリは、この場に居るレキオンを含めた


 キーリは通常形態でさえも、魔族でいうところの『真なる魔王』階級を遥かに凌ぐ。


 過去の時代に龍族が『リラリオ』で神に近い種族と呼ばれていたのは、始祖龍であるこの『キーリ』がいたからこその呼称だった。


 そしてこの『リラリオ』で原初の『魔王』とされるレアはそんなキーリ達と戦ったが、滅ぼす事を諦めて三千年前にキーリ達を大陸ごと封印したのだった。


 その時でさえ『魔王』レアの戦力値はおよそ4億程あり、立派に『大魔王』の領域に立っていた。


 そんな魔王が滅ぼす事を諦めた要因となったキーリが、今戦えば自分を含めて龍族が滅ぼされると断言するのだから、現在の魔王レアの力は推して知るべしだろう。


「我々が封印されている間に、彼女に一体何があったのでしょうか?」


 同じくキーリの側近で巨体の『ミルフェン』が、眉を寄せながら口を開く。


「それは分からないが、アイツは俺の『龍呼ドラゴン・レスピレイ』をまともに受けてピンピンしていやがったからな。戦前のアイツはあれで死にかけてた事から見ても、別人のように強くなっていると見て間違いはないだろうよ」


 『龍呼ドラゴン・レスピレイ』とは自らの体の一部を代償とする事で、対象に想像を絶する苦しみを与えるという始祖龍キーリの技法である。


 もしもの話だが魔王レアがこの世界に居なければ魔族達が台頭する事もなく、別の種族が龍族と戦い、そしてこの龍族がこれまでの『リラリオ』の歴史通りに、このリラリオの世界の調停を行っていただろう。


 それ程までにレアという魔王の存在は、のだった。


「成程。キーリ様の扱う『龍呼ドラゴン・レスピレイ』でも抑えられないのであれば我々ではどうにもならぬな」


 キーリの放つ『龍呼ドラゴン・レスピレイ』は、魔族でいう魔瞳『紅い目スカーレット・アイ』や『金色の目ゴールド・アイ』のように段階がある龍族の技法である。


 (『龍呼ドラゴン・レスピレイ』には四段階あり、一段階目で敵を金縛りにする事が出来る。これが使えるようになってようやく戦場へ立つことが許される。言わば元服のようなものである。『上位魔族』くらいであれば動きを止められる為に、紅い目スカーレット・アイよりも強力である。


 そして二段階目。敵を操ったり意識を失わせたりさせることが出来る。多くの龍族がこの段階まで扱えることが出来てそしてここが最終段階となる。魔族でいうところの魔王の規模の『金色の目ゴールド・アイ』に相当する。


 そして第三段階目。ここからは龍族の中でも限られた者達のみが扱える神の如き技法になる。かけられる相手は自分の戦力値を下回る者に限定されるが、自分を対象とされた呪いや魔力低下させる魔法などをその術者へ跳ね返したり、移すことが出来る。これこそが龍族を最強の種族へと押し上げた要因である。


 ――そして、始祖龍『キーリ』のみが扱える技法の第四段階目。『龍呼ドラゴン・レスピレイ』の最終段階。


 レアとの戦争で発動されたキーリの『龍呼ドラゴン・レスピレイ』は即座に『大魔王』の領域にいたレアをも地に伏せさせる事に成功させた程の威力を有していた。


 あと一歩というところで『レア』の決死の魔法によってキーリ達は封印されてしまったが、レアの判断が少しでも遅れていたならば『リラリオ』の時代は大きく変わっていただろう)。


「だからまぁ今は癪だがアイツの言う事をきいてやるしかねえな」


 キーリは最後に見せたレアの『金色の目ゴールド・アイ』を思い出して、溜息混じりに言った。


「それで魔王レアが告げた言葉が、我々にある者の力を測れと言ったのですか?」


 古参の龍族『ディラルク』がそう言うとキーリは頷いた。


「俺も詳しくは分からねぇが、あいつが言うにはそいつも別世界から来た魔王らしいぞ」


 その言葉に龍族達は目を丸くして驚いた。


「それは魔族の王であった『レア』のように、別の世界から転移してきたという事ですか?」


「そう言う事だろうな。俺が生まれた時代にはそんな奴らはいなかったからな」


 それから少しの間、龍族達は物思いに耽っていたが、キーリが今後の指針を示した。


「そいつらは、元々レアがいた大陸にいるらしい。ひとまず魔王階級クラスの魔族を?」


「分かりました、誰に向かわせますか?」


 側近の一人がそう言うとキーリは笑った。


鹿? あの魔王が力を測ってこいって言ったんだぞ? 最低でも戦力値数億は持ってるんだろうよ。俺は若い奴らでどうこうできるとは思わねぇな」


 そう言うとキーリはソファーから降りて、伸びをしたり体を動かし始めた。


「俺が直接行ってやろう。『ディラルク』『レキオン』てめぇらもついてこい。 『ミルフェン』、お前はこの大陸を守れ。他の奴らは『ミルフェン』の指示に従え」


 彼女がそう言うと『レキオン』『ディラルク』『ミルフェン』を含めた全龍族が龍族を束ねるキーリ王に恭しく頭を垂れた。


「よし、行くぞお前ら。さっさとそいつの力を測って、レアから俺達の大陸を取り戻すぞ」


 そういってキーリが魔力を込めて大陸から遥か高い空へ転移すると、レキオンとディラルクも追従するかの如く転移をして追いかける。


 そして三体の龍族が本来の姿であるに変わったかと思うと、高速で『ヴェルマー』大陸に向かって飛んでいくのだった。

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