第152話 ヴェルトマーとの出会い8

「はっ……!?」


 ラティオは『レイズ』魔国にある医務室で目が覚めた。


 どうやら彼は『近接近衛部隊』副長のテレーゼに、医務室へと運び込まれた様子であった。


「お目覚めみたいね?」


「お、お前……」


 ラティオが声をするほうに顔を向けるとそこには、彼の親友である『魔法部隊』隊長の『リーゼ』が看病を行ってくれていた。


「その様子だと負けたみたいだけど、あまり傷がないという事はそこまで酷くはやられなかったみたいね?」


 ラティオはリーゼにそう言われた事で『ヴェルトマー』にやられる前の事を思い出す。


「傷が少ないのは当然だ。俺は手加減どころか……、全く相手にされずにたった一発、ビンタみたいな事をされて情けなくもそのまま気絶させられたのだからな……」


 流石にその『ラティオ』の言葉は予想外だったのか『リーゼ』も目を丸くする。


「えっ? ちょっと待ちなさい。ヴェルトマーあの子に魔法でやられたのではないの?」


 ラティオの方も訝しそうに、リーゼを見た後に首を横に振る。


「魔法何て一度も使われなかったぞ? それどころか俺が力任せに全力で振り切った『紅の剣』をあっさりと親指と人差し指で軽く摘まんで、そのまま軽く捻り折ってみせたんだ。あいつは魔法使いじゃないぞ? 相当に力有る近接戦士の筈だと思うぞ」


「ば、馬鹿な事を言わないで! あの子はのよ? げ、現にあの子の魔法で入隊試験の監督をした時に、私は吹っ飛ばされて意識を失わされたんだもの」


 流石にラティオは、リーゼのその言葉に耳を疑った。


 レイズ魔国のNo.2である『リーゼ・フィクス』は、誰もが認める魔法のスペシャリストであり、この国で一番『魔力』があると言われる『セレス』女王でさえ『リーゼ』の結界と魔法障壁まほうしょうへきを同時に破壊するという芸当は出来ない筈である。


「じゃあ、……?」


 ……

 ……

 ……


 ヴェルトマーは別に力を誇示したいわけではなかったが、いつの間にかこの国のほぼ全ての幹部にその力を認められる事となった。


 そしてラティオとの戦闘から三日が過ぎ、再度作戦の軍議が行われた。


 この時にはもう『ヴェルトマー』に表立って逆らう者は一人も居なくなっていた。


「じゃあこのレルバノンとかいうのが居る所には私が向かうから、他の者達で首都と城を守りなさい? 以上」


「あ……ああ、分かった。い、言う通りにしようじゃないか」


 作戦も何もあったものじゃなかったが、今やセレス女王以外に『ヴェルトマー』に表立って反論する者は居ない。


 当然ヴェルトマーの事もあったが、今は『ラルグ』魔国の『レルバノン』をどうにかすることが大切だという事もあり、ヴェルトマーが何とかして見せるというのであれば逆らわずにやってもらおうという流れになりつつあった。


 もしこれで口だけであったなら、その時に改めて軍議を開けばいい。


 幹部達もそう考えるようになっていった。


「奴らは前回の我々の拠点を落とした事でかなり油断をしている筈だ。まずは我ら『近接近衛部隊』が囮になるから、ヴェルトマーは背後からとびきりの『魔法』を頼むぞ」


 ラティオがそう言うと『ヴェルトマー』がと言いだしそうな表情で眉を寄せていた。


「ねぇ? アンタちゃんと私の話を聞いていた? レルバノンの所へは私が行くって言っているんですけど」


 ラティオはそのヴェルトマーの言葉に、たじろぎながらもここは引き下がらない。


「お、お前は魔法使いなのだろう? レルバノンは大鎌を持つ優秀な近接戦士だぞ!」


 ラティオの意見は最もであった。


 魔法使いが前線に出て、近接戦士に挑む事などこれまで聞いた事がない。


「ああ、そういう判断なのね? 気にしなくてもいいわよ。一定以上の戦力を持つようになれば、魔法何ていうのは前衛も後衛も関係なんてなくなるから」


「「「はぁっ!?」」」


 今度はその場にいる者達が『』と言いたげな表情を『ヴェルトマー』に対して浮かべる事になった。


「一対一の殺し合いの最中に安全な場所なんてあるわけないでしょ? どういう状況になっても自分の力を100%出せないようでは意味がないって言ってるのよ」


 そう説明されても誰も理解が追い付かなかった。


 それならば魔法使いは全員、前線に出て殴り合うのが普通という事になってしまう。


 ――という問題が浮上する。


「まぁ、私には前衛はつけなくていいわよ? だっけ? 前に戦った貴方なら分かると思うけど」


 自分より遥か年下だと思わしきヴェルトマーに、君づけされる事には少し抵抗はあるが、言っている内容に間違いはないために何も言えない。


 いくら前衛が前衛がと説明したところで、その前衛より強い魔法使いがいるのだから説き伏せる事が出来る筈がないのであった。


「ヴェルトマー? あなた本当に一人で行くつもりなの?」


 見るに見かねた『セレス』女王が遂にヴェルトマー達の会話に口を挟んだ。


「ええ、女王様。レルバノンっていう魔族は相当に優秀なのでしょう? だったら私一人で行きますよ」


 思案顔をしていたセレス女王だったが、やがては仕方が無いとばかりにヴェルトマーに頷きを見せた。


「そう。分かりました。だけどヴェルトマー? 危ないと思ったら直ぐに戻っていらっしゃい。決して無理をする必要はないからね?」


 そう言ってセレス女王は『ヴェルトマー』に笑顔を向ける。


 まるでヴェルトマーを我が子のように、大事に親身に考えてくれているようであった。


(へえ? このセレスって『魔族』は流石になだけはあるじゃない)


 内心でセレス女王の株をあげた『ヴェルトマー』だった。ヴェルトマーもセレス女王に負けないくらいに長年生きてはきている。


 そんな彼女から見ても『セレス』女王は出来た女性だと認められた。


 この女性だからこそ『レイズ』魔国はのだと理解出来る程に。


「お任せください! それじゃあ噂のレルバノン君とやらの顔を拝みに行きますかねぇ」


 こうして最後の軍議は終わりそれぞれの幹部達も、自分の持ち場につくために『レイズ』魔国の王城を離れるのであった。


 ――そして『鮮血のレルバノン』は次の拠点落としの場所を『レイズ』魔国の首都『シティアス』に決めるのだった。

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