第85話 ラルグ魔国の支配者
ラルフとリーネに事情を話して、エルザの話を三人で聞く事になった。
「それでは続きを頼む」
ソフィの言葉にエルザは頷き、口を開き始めた。
「そもそもの話なのだが『ヴェルマー』大陸というのを知っている者はいるか?」
ソフィはもちろんの事、リーネも首を振る。
「
ラルフがそう言うとエルザはその通りだと頷いた。
「魔国を統治している者も国民も皆人間ではなく、魔物もしくは魔族という国だ」
エルザの言葉にソフィは、感心したかのように目を輝かせる。
「そのヴェルマー大陸には現在、大きく分けて三つの魔国が存在していてな、それぞれの王が他の魔国を飲み込もうと日々睨み合っている状況なのだ」
「それは魔国同士で戦争をしているという事か?」
ソフィの言葉にエルザは再度頷いてみせる。
「その通りだ。自らが全魔族の王と自負している者達が魔国を治めているのだから、まぁ当然なのだけれど、それぞれの王が大陸を支配して『
(国を支配する事が『魔王』に繋がるという意味だろうか? いや、この世界では魔族が一国の王を務めるという事で『魔王』と呼ぶのかもしれぬな……)
ソフィはここが『リラリオ』の世界だという事を考えて、自分達の世界とはまた異なる魔族達の間での『
「魔国ってどこも野蛮な国なのね……」
リーネがぽつりとそういうと、エルザはフッと笑みを浮かべた。
「ヴェルマー大陸に存在する魔国出身の魔族は血の気が多い。特に三国の中でも『シーマ』が率いるラルグの魔族は戦闘を好む者が多く、三国は拮抗状態だが国力で言えばその三国の中では
そしてここからが問題だと、いわんばかりにエルザは溜息を吐いた。
「我々もそのラルグに所属していたのだが、レルバノン様が謀反を起こされたのだ」
「謀反? 何故そのような事を?」
「シーマ様が治めていた街を
レルバノンは人間達の社会でいえば、広大な領土を持つ大貴族という立ち位置だったようだ。
ヴェルマー大陸の支配階級クラスは、ミールガルド大陸の貴族階級で比較すれば、一番下がディルグで男爵。
二番目がトールスで子爵であり、三番目がクーティアで伯爵。
上から二番目がビデスで侯爵となり、そして最上位に位置する者がフィクスで公爵と呼ばれているらしい。
「レルバノン様は多くの街や村を統治する『フィクス』という最上位の階級を持ち、ラルグ魔国王であるシーマ様の側近だったのだが、レルバノン様の一つ下の階級、ビデスの階級を持つ『ゴルガー』がレルバノン様を陥れる為に、レルバノン様の部下を洗脳して街を襲わせたのだ」
忌々しいという思いが伝わってくる程に、エルザの顔が憤怒の表情に変わっていく。
「全てゴルガーの狙い通りに事は動き、街は燃やされて民は殺された。当然シーマ様は激昂して、レルバノン様を呼び出して事の説明を求められた。
勿論レルバノン様はそんな事をさせる筈がないと弁解したのだが、それまでにゴルガーがレルバノンは謀反を企てていると日頃から吹聴していたことが噂となり、その噂を聞いていたシーマ様は、レルバノン様を信用しなかった。
そして事実としてレルバノン様の部下が、街を燃やしたという結果が残り、レルバノン様はシーマ様から命を狙われてラルグ魔国を追いやられた」
「部下を洗脳されたという事だが、その部下に弁明させる事は出来なかったのか?」
「直接街を襲わせた者達であるレルバノン様の部下達は、目的を果たさせた後にゴルガーの部隊に襲撃されて、直属のレルバノン様の持つ組織『
「そんな、酷い……!」
「つまりその『ゴルガー』とかいう者が原因で、お前達は大陸を出る事になったという事か」
ソフィの言葉に『エルザ』は、その通りだと強く頷く。
「レルバノン様が居なくなった後、ゴルガーの奴はビデスから格上げされて、現在はレルバノン様の代わりにフィクスとなってシーマ様の側近になってる筈よ」
「そのゴルガーという者の単独だったのか、そもそも周到に仕組まれていたのか、どちらにせよ酷い話ですね」
リーネもラルフも、ゴルガーがろくでもない者だといわんばかりであった。
「それでこの大陸に来た後に、人間の町を襲っていた理由は?」
「それは、
目を伏せながら、エルザは口を開く。
「このままやられたままでいいのか? ゴルガーを恨むのならばこの大陸の人間や魔物達を利用して、こちらも兵隊を作ってやり返すべきだと」
「なるほど、お主と戦った我は不思議だったのだ。こんな策略を先導してやるような奴ではないというのは思っておったのでな」
エルザの馬鹿正直な戦い方や、その性格を見たソフィは姑息な事を好んでやるようには、見えなかったのであった。
「私もレルバノン様も当初はこの作戦に頷きはしなかったが、スフィア殿がトントン拍子で話を進めていき、気が付けば錬金術師の人間を組織に引き入れて、日増しに魔物や人間の兵隊が増えていき、いつの間にか今回の作戦に乗せられていたのだ。我々も途中から止めるか悩んだが、こちらから攻める事はしないまでも、西側からの猛攻を防ぐ為にも兵は必要だと考えさせられて、もうその時は止められなかった……」
どうやら全てそのスフィアが、影で動いていたらしい。
「ふむ、まあよい」
そう言うとソフィは、ラルフとリーネの方を見る。
「我はこの者達の護衛を引き受けようと思うのだが、お主たちはどうする?」
ソフィはエルザの話を聞いた上でそう決断したらしい。
「私はソフィが決めた事だったら文句はないわよ。そのゴルガーっていう奴も気に入らないしね!」
リーネの言葉を聞いて、ソフィは頷いた。
「お主はどうだ?」
ソフィがラルフを見ると、微笑みを浮かべて口を開いた。
「ソフィ様の決めた事でしたら、私は付き従うのみです」
エルザはラルフを見て少しだけラルフに
ラルフのソフィを見る目が信頼や忠誠を越えて、崇拝に近いモノを孕んでいるのを見た為であった。
(私もレルバノン様に対する思いは、このラルフという者と同じだ。主の為に喜んで命を差し出す。こういった者を従えられるソフィは、やはり尊敬に値する存在だ!)
図らずもソフィは、エルザの信頼を得るのだった。
「ソフィ、ラルフ殿、リーネ殿、恩に着る」
エルザが頭を深々と下げて、感謝の礼をするのであった。
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