第60話 新たな指名依頼

「それにしてもソフィ君がまだ勲章ランクDというのが信じられぬな」


 対抗戦であれだけの試合をして見せたソフィであれば、勲章ランクBもしくはAであっても何もおかしくはない。


「そうか? まぁ我は慌ててランクを上げなくとも良いと思っているのでな。日にレグランの実が食べられる程度を稼げればそれでよいのだ」


 あまりにソフィの欲のない返答に『リルキンス』は苦笑いを浮かべ始める。


「しかし君ほどの実力者であれば冒険者として、生きていく事も可能だろうにな」


 リルキンスはソフィを見ながら溜息を吐いたかと思うと、と静かに呟くのだった。


 そして計測の準備を終えた職員達が、再び部屋に入ってきてソフィ達の前に顔を見せる。


「盗賊の持っていた金品と盗賊の引き渡し料諸々合わせて、ソフィ様達のパーティへの支払額は、金貨二枚と銀貨四枚。そしてギルドクエストの達成として、金貨一枚と勲章ポイントが25P付与させて頂きました。


 ミナトの護衛達成報酬よりも、盗賊たちの討伐料の方が報酬額が大きかった。


 その事をソフィが考えていると察したリルキンスが口を開く。


「盗賊討伐の後は出来るだけ殺さずに、ギルドに引き渡してくれないか? ギルドとしても助かるし、冒険者に対しても支払額が多くなるのでお互いに損はない筈だ」


「成程、だが盗賊なんてギルドの役に立つのか?」


 詳しくギルドの内情などを知らない者であれば、当然の疑問をソフィは口に出すのだった。


「捕らえた盗賊は同業の盗賊達の情報を持っている可能性が高くてな。まぁそれ以外にも色々と役に立つのだ」


 リルキンスは色々の部分については説明をしなかった。


「まぁ、ポイントがいらないというのであればギルドに渡さなくても、奴隷商に売る冒険者もいるがな」


 ギルドに引き渡すよりも、奴隷商に売り飛ばしたほうが金になるらしい。


「最近は盗賊狩りを生業として、生活している冒険者がいるくらいだからな」


 盗賊に襲われる心配が減るので一般人としては助かるだろうが、ギルドとしては引き渡してもらったほうがありがたいようで盗賊狩りの存在は、あまり嬉しいものでもないらしい。


 ひとまずソフィ達はミナトの護衛依頼を達成して、ポイントと報酬を受け取るのだった。


 ソフィ 勲章ランクD 1785P/30000P

 ラルフ 勲章ランクG(F) 1525P/1000P

 リーネ 勲章ランクB 1525P/100000P


 勲章ランクのランクアップの上限Pは、勲章ランクが高くなればなるほどに上がっていく。


 かけだしのランク帯のGやFは、割とすぐにランクアップできるが、EやDともなると毎日真面目にクエストを受けたとしても、数か月から数年かかるのが一般的である。


 通常のクエストは5Pから50Pくらいまでが多く、ギルド指定の魔物討伐依頼等が比較的ポイントが高い。そして指名依頼ともなると難易度にもよるが、一回で1000Pや、それ以上のポイントという事も珍しくはない。


 ギルド長からの指名依頼ともなれば、前回のソフィの時のようにEからDへの一発昇格もあり得るのだった。


 報酬を受け取ってソフィ達が『グラン』に戻ろうかという話をし始めた頃、慌ててリルキンスが口を開く。


「待ってくれ! ソフィ君たちに一刻を争う程に、重要なクエストを頼みたいのだ!」


 ソフィは別に他に用事もないので、話を聞いてみることにした。


「ひとまず、座ってもらえるだろうか」


 再びソフィたちを椅子に座らせて、話を始めた。


「実はステンシアの町で今、危険な『薬草』が流行っているのだ」


 ――ステンシアの町でが流行っている。


 そう言われて真っ先に、この『ステンシア』の町までの護衛を雇ってきた商人の存在を思い出すソフィ達であった。

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