第8話 リーネとの出会い
アウルベア達をソフィが手懐けた後、一行はギルドに戻ってきた。
早速そのままの足でソフィはギルドマスターである『ディラック』の部屋に通されると『アウルベア』の一件の報酬であった、
これによりソフィは
「これで君はこのギルドのEランク冒険者だ。Eランクまでのクエストは一通り受けられるようになったし、一つ上のDランクのクエストも条件付きで受けられる。それとこれは討伐をしたわけではないが、問題解消になったという事で、ギルドからアウルベア討伐の報奨金として『白金貨』を贈呈する」
目の前のテーブルに質が良いのが、一目で分かるような一際大きな金貨の『白金貨』が器の上に乗せられた状態でソフィの目の前に置かれた。
「おお!! すまぬな、有難く受け取るとするぞ『ディラック』!」
喜色満面でソフィは『白金貨』を受け取って懐にしまう。
ソフィが『白金貨』を懐にしまったのを確認してディラックは口を開いた。
「ところで、ソフィ君はこれからどうするのかね?」
それはこの町の冒険者として今後もこの町に居座ってくれるのかと、暗に聞いているのだった。
「うむ。その事だが、実は我は最近この地域に来たばかりでな? とりあえずは生活が出来る程度に稼ぎたいと思っている為、当面はこのギルドのクエストを受けて報酬を得たいと思っておる」
その言葉を聞いたディラックは、ほっと胸を撫でおろした。
「そうかそうか! 君ならば魔物と戦うことの多いクエストも難なくこなせるだろうし、あらゆるクエストもこなせるだろうな」
「そうだといいのだがな。さて、我は露店に
「ああ、そういえば君は『
ディラックがそう言うと、ソフィは初めてあの果実の名前を知ったのだった。
そしてソフィはディラックに感謝の言葉を告げた後、そのままギルドマスターの部屋を後にしたのだが、ソフィがギルドのロビーに到着すると突然騒がしかったギルドの中が静寂に包まれた。
その場にいる者達が一斉にソフィのほうを見ている。
ソフィはその様子に眉を寄せて、何事かと口を開こうとしたが、その瞬間に多くの人間がソフィの元に詰め掛けてくるのだった。
「お、お前が冒険者ギルドに所属して早々に『
「この『グラン』の町の冒険者ギルド始まって以来、最短でEランクになったって本当?」
「『両斧使いのジャック』に絡まれて、返り討ちにしたってマジかよ?」
十歳ほどの子供の身長しかないソフィは、自分の二倍くらいの背が高い大人たちに詰め寄られて興奮混じりに質問を投げかけられる。
「ええい! 何なのだお主たちは!?」
ソフィは大勢の冒険者達に取り囲まれてしまい、進行方向を妨害された為に振り払うように必死に手で払いのけようとする。
何故こんなに注目されているか不思議に思ったが、ふと掲示板を見るとソフィの似顔絵が大々的に映し出された紙が、クエスト等を知らせる掲示板に貼ってあったのが目に入った。
何とそのギルドの掲示板には――。
――『ギルド期待の新人冒険者ソフィ。初日に絡んできたEランク冒険者パーティを難なく撃破し僅か数日でギルドC指定魔物『アウルベア』を手懐けて、あっさりとEランクになる!』
このような見出しでいつ描かれたのか『ソフィ』が、多くのアウルベアを跪かせている
まるで現物写真をそのまま絵にしたような出来で立派に描かれており、クエストを調べようとこの掲示板に近寄れば、誰もが目に入る程であった。
「ふふふ! よく似てるでしょう! 私が描いたんだよ? この私がね!」
筆の先端をこちらに向けて自慢気な顔を浮かべて笑う少女が、掲示板の絵を見たソフィに声を掛けてくるのだった。
「お主がこの絵を描いたのか?」
「はい、そうよ! 私は絵を描きながら世界を旅しているリーネ」
リーネと名乗った少女はニコニコと笑いながら返事をするが、その手は今も器用にソフィの絵を描いている。
「何故、我の名を知っておる? というか、勝手に絵を描くでない!」
鼻歌交じりに嬉しそうに絵を描いていた『リーネ』という絵描きの冒険者は、ソフィに窘められて少し気まずそうに笑いながらも、描き上げたばかりの一枚の絵をソフィに差し出してくるのであった。
「はい、どうぞ。受け取って欲しいな!」
屈託のない笑みで似顔絵の描かれた紙を渡されて、ソフィは仕方なく受け取る。
「うーむ、お主は確かに絵の才能はあるようだが」
浮かび上がって見える立体的な描写をした似顔絵は、怒ろうとしていたソフィの気が削がれる程度には、
「しかしだな? お前はあの場に居なかったと思うが、この貼りだされている絵はいつ描いたのだ?」
もしあの場に隠れて絵を描いていたとするならば、この女の子はソフィですら気づかせない程の力を持っているのかもしれないとばかりに、警戒をするソフィであった。
「あはは、それは何故でしょうね? 世の中には知らない事のほうが幸せだということもあるの」
そう言った後、リーネはもうソフィに対して用は済んだとばかりに、次の瞬間には絵描きの少女は、そのまま忽然と姿を消したのだった。
「なんだと?」
ソフィは次の瞬間、自身の魔力回路に魔力を通して、その魔力で先程の少女の魔力を『
『
「む、かなりの速度でこの場から離れて行っているな。このまま別れても構わぬが、謎を謎のままにしておくのは気持ちが悪いところだ」
そう考えたソフィは絵描きの少女を追いかける事に決めた。
完全に無視をしていたソフィだったが、まだベラベラとソフィに話し掛けてきていた者達を払いのけて、そのままギルドから出てリーネを追いかけるソフィであった。
「ほう? この速度は確かにただの人間ではないだろうな。しかしそれならば余計に謎は深まるばかりだ。一度しっかりと説明させるとしようか」
そう言うとソフィは冒険者ギルドから出た後、絵描きの少女リーネを追いかけるのだった。
……
……
……
彼女は屋根の上に移動したあたりから『術』を解いていた。
「ふふふ! あのソフィって子可愛かったなあ。今度また急にあの子の前に現れて、驚かせてあげようかなぁ」
少女は年下好きで可愛い男の子が大好きだった。
とくに線が細く少しばかり生意気な年下が好みな彼女にとって、ソフィはまさに彼女の理想通りの少年だったようである。
【リーネ 冒険者ランクB 職業:絵描き ???】
そして街の外れにある一軒家に到着すると、リーネは家の鍵を取り出した。
どうやらここが彼女の家であるらしく、口笛を吹きながら家に入ろうとする。
しかし、家に入る前にポンと肩を置かれた直後、反射的にリーネは右手で弓の鏃のような大きさの鋭利な刃物を取り出すと、そのまま流れるような所作で後ろに高速で投げた。
「クックック! やはりお主はただの絵描きではあるまい?」
「ええッ! えっ!?」
まさか避けられると思っていなかったリーネは慌てて振り返る。
そしてそこで攻撃に対してではなく、居ない筈の人間が居た事に再度驚愕する。
そこにはギルドで確かに撒いた筈である『ソフィ』が立っていたのであった。
「な、どうやってここに!? と、というかどうやって私を見つけられたのよ!」
リーネは確かにギルドの建物内で姿を晦まして、そのまま誰にも追いつけない程の速度で屋根の上を移動して、追ってこられないように確実なルートを使った。
それなのにまさかこんなにも簡単に見つけられるとは思っておらず、驚愕した目でソフィを見るのであった。
「何、少しばかりお前の魔力を感知して追尾したのだ」
アウルベアを従えているところを見ていたリーネは、ある程度はソフィの凄さは知っていたが、まさかここまで異常だとは思わなかった。
「き、君は何者? 『魔力』を感知ってそんな事を可能とする『勲章ランクE』の魔法使いなんて聞いた事がないわ」
「まぁそんな事はどうでもいいだろう。それより何故お前は我から逃げたのだ? 白状して我の問いに答えよ」
リーネはもう逃げられないと観念して、素直に白状したのだった。
「うーん。まぁ別に君を驚かせようと思っただけで、別に何も目的があったわけじゃないんだけど」
リーネは年下の子供を見るとからかいたくなる性格の持ち主で、今までも街人の小さな男の子を揶揄ってきたのであった。
「今朝、あなたが冒険者ギルドからギルドマスターを連れて出てきたところを見たから、何だろうと思ってついていっただけだったんだけど、そこでギルド指定魔物の『アウルベア』が出てきて、これはスクープだと思って証拠となる絵を描いてそれをギルド掲示板に貼り付けて広めただけよ」
とんでもない事を淡々と喋るリーネだが、一番気になる事をソフィは訊ねた。
「ほう、我に気づかせずにあの場で絵を描いただと?」
――それが本当ならば由々しき事である。
『アレルバレル』の世界でその強さで存在感を示すソフィが、周囲を警戒しているにも関わらず、それを気づかせないどころか、その場で堂々と絵を描いていたというのだから、簡単に信じられない事であった。
「うーん……。まぁ別に君になら教えてもいいかな」
そう言うとまたもソフィの目の前でリーネは消えた。
「な、なに?」
慌てて『
そしてソフィの目にはリーネが映らなかった。
リーネは何かを解除すると、急にその場所にリーネが現れたように見えるのだった。
「という具合にこんな感じで私は姿を完全に消すことができるんだけど、見えなかったでしょ?」
「一体お主は何者なのだ?」
「私はね、影忍の里出身の『忍者』よ」
「『忍者』? 聞いた事がないが、そのような『種族名』なのであろうか?」
ソフィはリーネがただの人間ではないだろうと考えていたが、彼女に『忍者』という聞きなれない単語が口から出た事で『忍者』という魔物の種類、若しくは魔族なのかと思い始めるのだった。
「忍者っていうのはね? 依頼があれば狙った獲物を暗殺したり、密書といった大事な書簡を誰にも見つからずに対象に届けたりする、
「ほう……? それで先程のように姿を隠すというのは、我達が使う『魔法』や『呪文』といった類なのだろうか?」
「うーん。魔法使いたちが使う魔法とは違うわね。忍者の中でも私の属する『
(リーネとやらは確かに嘘は言っていないのだろうな。彼女が姿を晦ました瞬間は、いくら気を付けていても我の目にも映らなかった)
どうやらこの世界ではまだまだソフィの知らない、ありとあらゆるものがあるようだった。
「クックック、成程。実に面白いではないか、少し測らせてもらうぞ」
「え? 測るって何を……、うぐっ!?」
リーネは自分のいる空間だけが捻じれたような感覚に陥り、そしてさらに恐ろしい程の重圧で彼女は震え始めた。
そこで更にソフィの目が『金色』に輝き始めたかと思うと、リーネは完全に動けなくなった。
【種族:人間 性別:女 年齢:14 名前:リーネ 魔力値:130 戦力値:22770】。
次々とソフィだけに見える文字が浮かび上がり、ニーアが使っていた魔法とは比較にもならない程の精密であらゆる情報が彼だけに開示される。
(ほう? この世界で見た中では一番戦力値が高いではないか。しかしどうやら『姿』をみえなくしたり、我達の使う『魔力感知』や『魔力探知』から一時的に逃れられるというくらいのようだ。残念ではあるが、
ソフィはもしかすると目の前のリーネが、自身の願望を叶えられる『存在』なのかもしれないと、期待を以て能力を使ったのだが、どうやら残念ながらそういうわけでもなかったようである。
ソフィが魔法を解くとリーネはようやく動けるようになる。
「はぁはぁ……、い、一体、貴方私に何をしたの?」
「いやなに、少しばかりお前の力を見せてもらっただけだ。それにしても人間の14歳という若さでその戦力値は中々に見どころがあるではないか。それが『忍者』とやらの特質という事か?」
「えっ!?」
突然に教えてもいないのに、自分の年齢を言いあてられたリーネは驚きを隠せなかった。
「き、君って本当に何者なの?」
「まぁそんな事はよいではないか。それとお前は確かに強いが、上には上がおる。
リーネはお気に入りと認めた年下の男の子から、自分の顔を褒められて頬を赤く染めるのであった。
どうやら考えていた謎が解けた事で満足したのかソフィは、冒険者ギルドに戻ろうと考えるのであった。
「それでは急に追いかけてきてすまなかったな。我はもう行くとしよう」
ソフィはそうリーネに告げると、手を振ってその場から立ち去ろうとする。
「ね、ねぇ、ソフィ君! ちょっと待って!」
慌ててリーネは来た道を戻ろうと歩き始めたソフィを呼び止める。
「お願い……! き、君の『冒険者ライセンスカード』を見せて欲しい」
「む? ライセンスカード? ああ、これの事か? 別に構わぬが」
何の事を言われているのか分からなかったソフィだったが、彼女の手に持っていたカードを見てソフィはディラックに渡されたそのライセンスカードを手に取ると、リーネに言われた通りに渡し始める。
本来であれば自分の身分証としても扱える大事な証明書である『冒険者ライセンス』を簡単に他人に渡す事はあり得ない事なのだが、そんな事を全く分からないソフィは、言われた通りにすんなりと渡すのであった。
受け取ったリーネは、ソフィに感謝の言葉を告げた後、自分のライセンスカードとソフィのライセンスカードを交互に操作する。
「これで大丈夫! 貴方のライセンスカードに私のライセンスカード情報を載せて『フレンドの登録』をしたから、何かあればこれでいつでもギルドを通して、私をパーティに入れる事が出来るようになったよ!」
突然そんな事を言われても、ソフィには何も意味が分からない。
「それは一体どういう事なのだ? 別に我は誰ともパーティなど組むつもりもないのだが」
「そ、そんな寂しい事を言わないでよ。私はね『勲章ランクB』の冒険者で、貴方よりもお姉さんなんだから、こ、ここ、これから毎日みっちり貴方の手助けをしてあげるっ! い、いつでも私を頼っていいからね! そ、そうだ! 早速明日から貴方の勲章ランクを上げましょう! お姉さんがお手伝いをしてあげるから、ぜ、絶対に声を掛けてね」
頬を赤らめながらリーネは早口で一方的に捲し立てた後、ソフィの冒険者ライセンスカードを返してくれた。
「あ、ああ分かった、
「……え、えへへ!」
お礼の言葉と共に名前を呼ばれた絵描きの少女リーネは、余程ソフィに名前を呼ばれた事が嬉しかったのか、とびっきりの笑顔をソフィに見せるのだった。
「そ、それじゃあね! 私はいつもギルドの掲示板のところで、冒険者の似顔絵を描く仕事をしてるから、いつでも声をかけて!」
そう言った後、逃げるようにリーネは家の中に入っていったのだった。
「うむ……。よく分からぬが今度見かけたら声を掛けるとしようか」
自分が無意識にリーネを口説き落とした事にも気づかずに『レグランの実』を求めて、その足でソフィは露店に向かうのだった。
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