第17話 春のころ 高校生になった由希子さん
「小中高と一貫校でも、卒業式とか、入学式とか一応あるんだよねぇ」
僕が、スーツに身を包み由希子さんと入学式に参加するために歩きながら、呟くと由希子さんにも聞えたらしく反応が返ってきた。
「当り前でしょ? だって、中学まででいなくなる人も、高校から入ってくる人もいるんだもの」
それは、そうか……。
学校に近くなるにつれて、人が増えてくる。
最近の父兄は、僕らの時代と違って若く見えるので助かっている。
これなら21歳で止まっている僕の外見でも、30代と言えそうだ。
強い風が吹いて、桜の花びらが、風に舞う。
今、丁度散り際のようで、一瞬目の前が見えなくなるほどに……。
『伸也さん……』
千代さんが呼んでいる。幻聴が聞えた……。
「……也さん。伸也さんったら~」
気が付いたらすぐ側で、由希子さんが呼んでいた。
「大丈夫? 伸也さん」
「ああ。大丈夫だよ、由希子さん。
ギリギリセーフで、桜が咲いていて良かったねぇ」
「本当。入学式には、やっぱり桜があったほうがいいもん」
真新しい、高等科の制服に身を包み桜を見る由希子さん。
本当に、千代さんにそっくりだ。
あとどれくらい、見てられるのだろうね。
入学式も無事に終り、僕は一階のリビングで由希子さんの高校の書類を書いていた。
そこに由希子さんが二階から降りてきて、僕に相談を持ちかけてくる。
「部活?」
「うん。インターアクト部。愛理が一緒にやらないかって」
「インター? 何?」
「ボランティアを部活でやるの」
「へ~。そんな部活があるんだ。うん、良いと思うよ」
「じゃ、同意書書いてね」
「あ……うん」
四月の学校は、親も子も慌ただしい。親が書かなければならない書類が山ほどある。……まぁ、だから一枚増えたところで、なんて事無いのだけれどもね。
しかし、部活で、
「部活でボランティアって何やるの?」
由希子さんは、緑茶を入れながら
「う~ん。ご近所のごみ拾いとか、募金活動とか……介護施設のレクもやるんだって」
「レク?」
「レクレーション。歌うたったり、なんだろうお遊戯的なものしたり?」
「何で、最後疑問形?」
僕は思わず、笑ってしまった。
「だって、まだよくわかんないんだもん。ただね、場合によっては土日も活動あるみたい」
「ふ~ん。まぁ、部活だから仕方ないね。遅くなる時は、連絡してね。心配だから」
僕は、学校の調査書を記入しながら言った。
すると、由希子さんが背中から抱き着いてきた。字がよれる。
「由希子さん。僕、調査書書いてるんだけど……」
「土日は家にいなさい。とか、言わないんだ」
由希子さんが、抱き着いたまま言ってくる。
「部活だろう? ああ、友達も来れなくなるから寂しくなるだろう、って心配してくれてるの?」
「多分、私がいなくても理沙も早苗も来ると思うけど……」
……来るのか。
まぁ、来るかどうかわからないから、日持ちするお菓子を用意すれば良いのか?
「伸也さん。寂しがってくれないんだ、私がいなくても」
僕は、ペンを置いた。調査書は明日が締め切りのはずだけど、これじゃちゃんと書けない。
「寂しいよ。ずっと、土日は君は家にいたからね。
だけど、インターアクト部? だっけ。ボランティアをしながら、色々な人と交流するのもいい経験になるよ」
「……保護者みたいなこと言うのね」
由希子さんはやっと体を離してくれた、両手はまだ僕の体に触れているけどね。
「保護者だよ。まだ君は子供だ。学校のお勉強だけじゃなく、いろいろな経験をするべきだよ。
困ったことがあったら、ちゃんと助けるから」
由希子さんは、ム~っとした顔をしている。そういう顔をすると、まだまだ子どもなんだと安心するのだけれどね。
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