第82話 因果応報と喧嘩両成敗

 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ



 俺はミノタウロスこと、ミノさん達の雄叫びで目を覚ます。



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ



 昨日はついに────アナスタシアと熱い夜を過ごした。



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ



 俺の隣にはアナスタシアの可愛い寝顔がある。


 あぁ、愛おしい。


 この気持ちを俺には表現する事が出来ないっ!



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ




 それに俺はトラウマを乗り越えたんだっ! もう何も怖くないっ!



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ



 それに、なんて────なんて充実した朝なんだっ!



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ




 俺はこんなに満ち溢れてる事はかつてなかったっ!



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ




 世の中はがクリアに見える────



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ




 クリア?



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ




 ぶもぉ?



 視線を部屋の外に向けるとミノさん達が俺を見ながら雄叫びを上げていた。いつもより煩いっ!



「煩いわっ! 俺の邪魔すんなっ!」



 ぶもおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ



 三日月鎌鎖を出し、部屋の外に出てから、魔力を込めて斬撃を飛ばして一撃で瞬殺する。


 この大鎌は連結してから鎖の発動と同じように出し入れが出来るようになっている。




 さて、雄叫びと共にミノさん達は滅んだ。



「朝からどうしたの?」


 目を擦りながら部屋の外に出てくるアナスタシア。



「────!?」


 なんて綺麗なんだ────



「惚けた顔して、見惚れてるのかの?」


 艶やかな笑顔を向け、出会った当初の話し方をするアナスタシアはまさに────


「天使だ……」



「天使?」



「目の前に天使がいる」



「────!? 私!?」


 いきなりの事で話し方が変わる。



「アナ以外にいるのはミノさんの骸だけなんだが?」


 ミノさんを天使と比喩してるなら俺の頭は相当ヤバいと思う。



「妾に不意打ちとは────お仕置きが必要じゃな」


 琴音の話し方と混ざってるな。いつか落ち着くだろう。



「おわっ!?」


 俺はアナスタシアに引き寄せられ、密着する。



「ふふふっ、これで逃げられぬぞ?」



「あぁ、捕まってしまったな」


 俺達の額と額が近付き、唇が重なる瞬間────





「この不届き者がぁぁぁぁっ! 死ねぇぇぇっ!!!」


 リオンの声が聞こえた。しかも攻撃魔法のおまけ付きで。



 俺はクルっと振り返り、右手を前に出して黒鎖で攻撃を逸らし、九尾も出してリオンを絡めとった後に簀巻にして転がす。



「さぁ、これで邪魔者は消えた。続きを────」


 俺はアナスタシアに再度振り向く。



「レオ……さすがにあれは可哀想……」


 アナスタシアが指を指していたので、またリオンに視線を移す。



「む──む──」


 鎖が足首から鼻辺りまでグルグルと巻かれて転がりながら涙を流している姿が目に入る。



 これは流石に可哀想か……シバと同じような扱いだしな。


「九尾──解除だ」


 リオンの体に巻かれた九尾を解く。



「酷い……」



「すまん、イラっとしてついな……お詫びに飯でも食って行くか?」


 しかし、俺は思う。確かに酷い事をしたと思うが────いきなり攻撃魔法を放つ方も悪くないかと。


 一応、朝食にリオンを最高の笑顔で誘う。



「うむ、苦しゅうない」


 さっきまでの泣きそうな顔は既になく、ふてぶてしく態度がガラッと変わる。




「まぁ、中入って座れよ。アナ、!」


 昨日の料理と言えば──アナスタシアが3度目の正直で作った、ある意味最強の料理だ。


「えっ?! レオの為に作ったのに!?」


 アナスタシアさんや……そんな悲しそうな顔するなよ……わかった────



「もちろん俺も食うが──1人じゃ食い切れないからな。リオンにも食って貰おうじゃかいか」


 俺1人だけでは逝かぬ。せめて仲間を……



 サラッと道連れ仲間を増やす俺。





 アナスタシアがテーブルに食事の用意を始める。



 リオンの顔色がみるみる青ざめていく。



 気持ちはわかる。


 正直──これは食べ物なのかさえ怪しいレベルだ。



 ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙……



 ──何か皿から聞こえる。何か住んでいるのだろうか?


 見た目もグロい……。いったい何を材料にして、何を入れたらこうなる?


 匂いもヤバいな……


 いや、まだ不味いと決め付けるのは早いっ! 味はもしかしたら進化しているかもしれないしな。


 俺は無心を心掛ける。



「なぁ……これは食事なのか?」



「食事だな……子供の頃に食った時よりもパワーアップしているが、これは間違いなく──アナスタシアの愛の手料理だ。食える事を光栄に思い、分け与える俺を崇めるがいい」


 きっと、今の顔はゲス顔だろうな……。けど、1人で食う勇気がない────ちっ



 ────逃すかっ!!!



 離脱しようとしたリオンを即座に黒鎖で捕まえる。



「なんのこれしきっ!」


 ジャリンッ


「九尾っ!」



「ぐぬぬっ……この鎖はいったいどうなってる!?」


 黒鎖は直ぐに引きちぎり、脱出しようするリオンを今度は九尾で捕縛する。さすがに九尾は解けないようだ。



「諦めろ……一緒に生き残ろうぜ? 試練は与えるだけじゃ飽きただろ? 今度は俺から試練をプレゼントしてやるよ」


 俺は気持ち良い笑顔で答える。



 俺の幸せ──いや平穏の為に頑張ろぜっ! 手伝ってくれよっ!


 リオン、お前は初代魔王だろ? 俺に勇気を分けてくれよ。それに、それぐらいで死にはしないはずだ。……たぶん。



「さぁ召し上がれっ」


 満面の笑みを浮かべるアナスタシア。


 きっと、俺の為に作り、それを食べて貰える事が嬉しいのだろう。



 任せとけっ! 俺はお前の為に恩恵を駆使してでも────その笑顔を守るっ!



 だが──まずは────



「さぁ、リオン。アナスタシアの愛溢れる料理をご馳走しよう。遠慮なく食えばいいぞ?」



「覚えとけよ……」


 諦めの表情を浮かべたリオンの拘束している九尾を解く。


 もう逃げないだろう。


 俺はサムズアップしてエールを送る。



 さぁ行けっ! 初代魔王の凄さを俺に見せてくれっ!




 ……


 …………


 ……………………




「いつか絶対泣かしちゃる! 覚えとけっ!」


 そう言いながら目に涙を浮かべ──口を押さえて走り去っていった。



 選定者って、選定場所の中なら移動が自由なんだなーと思いつつ、キャラが変わりまくっているリオンを見送った。



 まぁ、人の恋路を邪魔する者の末路なんてこんなものだろう……。



 しかし、この目の前に残る大量の料理? をなんとかしなければ……。


 初代魔王が……一口でギブアップするとは……。



 まさか────一晩寝かせた事によって更なる進化を!?



 俺は冷汗が流れる。



 アナスタシアを見る。



「さぁ、、絶対美味しいよ? だって────私の秘蔵の材料入れたからね! リオンさんなんて喜んで帰ったじゃないですか〜」



 なんだと……味見をしてないだと!?


 普通は料理を作る時、必ず味見をするもんじゃないのか!? 少なくとも俺はしているぞ!


 それに秘蔵の材料って何だ!?


 更に言うと、リオンは喜んでないと思うぞ!?


 しかし、俺が食べるのを凄く楽しそうにしているアナスタシアに言うのは────俺には無理だっ!!!



 思い出せっ! 俺はこの笑顔を守る為に試練で決意したんじゃないのか!?



 そうだっ!



 俺はこの笑顔さえあれば────死地にだって飛び込めるっ!



 ────そう俺は死なないっ!



 良しっ! 俺の気合いはMAXだっ!



 ────いざ!



 一口食べる……



 ……


 …………


 ……………………



 ────これは進化なんて物じゃない! 真の魔王はここにいたか!?



 意識が飛ぶ中────俺の心の中で日本の言葉が思い浮かんだ。



 因果応報、喧嘩両成敗。



 リオン────すまん。俺は間違っていた。


 次は必ず優しくする────なんせ同じ危機に立ち向かった戦友だからな……


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