第80話 楽しい時間?

 アナスタシアを解放してから────俺達はヤマトに戻った。


 どうやって帰ったというと────単純に走った。


 だって俺──転移使えないしな。


 アナスタシアは使えるらしいけど、2人の時間を過ごしたいって言われたら、そりゃ走るでしょ!?



 数日後に皆と合流したら、アナスタシアの帰還を大変喜んでくれた。


 その日は全員で宿にある食事処でパーティーをする事になった。



 ハクマも呼ぼうって事になって召喚したら────大泣きしながら喜んでいた。




 別の意味で……


『主〜〜〜〜、会いたかったよぉ。父と母に殺されるぅぅぅ。もう僕は絶対ここから離れないぞ! 絶対だっ!』


 と言っていた。お前療養してたんじゃないのか? と聞きそうになったが、あまりの気迫に聞けなかった。


 後でこっこり聞こうとしたが、睨まれてしまった。余程言いたくないらしいので、スルーする事にした。


 そして、今は楽しく食事をした後、落ち着いた頃を見計らい、試練で神と会って聞いた事や、厄災についての事情を皆に端折りながら説明した所だ。


 皆は静かに頷いて聞いてくれた。



 俺がこれから厄災を討伐する旨を伝えると



 しばらく沈黙した後────



「強くなって一緒に厄災ってのぶっ殺そうっ!」


 とアリスを皮切りに



「「「『「ぶっ殺すっ!」』」」」


 ミア、ミーラ、ハクマ、アイリス、フローラが声を合わせて物騒な発言を大声で言った。




 俺は思考が錯綜している。



 アナスタシアはいつの間にか離れ、遠目にこちらを見ていた。あれは他人の振りだ。


 避難が早い!



 気持ちはわかる。周りの人を見ると────



「ぶっ殺すとか聞こえてきたぞ!?」


「なんかヤバくない??」


「きっと、あの男が浮気したのよ!」


「「なるほどっ! これから刺されるのね!?」」


「衛兵呼んだ方がいいか!?」


「男1人でいい思いしやがって!」


「「「「爆発しろっ!!!」」」」



 宿で食事を取っていた人達から、そんな声が聞こえてきたが──



 ──ちょっと待てっ!


 俺が浮気した事になってんの!? まさか、痴情のもつれとか思われてるの!?



 ミーラには既に何回か刺されてるよ!



 それと、衛兵は勘弁してくれ。この国の印象は詰所しかないから! むっさいおっさんとカツ丼をまた食う事になるの嫌だから!



 後、最後らへんの奴ら! ただの嫉妬だろっ!



 まぁ、ほっておこう……わざわざ誤解解くのも面倒臭いし。


 しかし、俺のいない間に全員が脳筋になっているという事実が衝撃すぎて俺は動揺が隠せない。


 これはきっと、酒のせいだ。


 一応、この世界は15歳で成人だし酒を飲んでも怒られない。ミーラとアイリスは未成年だから飲んでないが。




 しかし、あのミアが────あの清楚なミアが「ぶっ殺す」って言ったぞ!?


 しかも活性化でわざわざ目を見開いて!


 もちろん厄災をぶっ殺すんだよな??


 神の爺さんぶっ殺すのか?? 


 まぁ、あの爺さんならいいか。俺もいつか──ぶん殴る予定だし。




 ふとアナスタシアを見ると、クスクス笑っている。


 ちゃんとした心からの笑顔は俺の前以外では初めて見た気がする。



 俺はアナスタシアを呼び寄せる為に声をかける。


「アナ──「おーセクシーで別嬪な姉ちゃんだな。こっち来い」──に、俺の女に触れるなっ!」


 アナスタシアに肩に手を回して連れて行こうとする輩を、俺は鎖で即座に簀巻きにして外に放り出す。



「レオっ……今……俺の女って……」


「俺の女だろ?」


「早く……約束果たしてね?」


 ぐはっ……可愛すぎる。


 ここに俺の癒しがあったか!



「「そこ! いちゃつくなっ!」」


 ミア、アリスが一斉に突っ込んで来た。


 こいつら酔っ払い過ぎだろ。目の焦点が合ってないぞ?



「レオンっ! ほら、こっちに来なさいっ!」


 アリスが俺の元に来て右腕を引っ張る────って、めっちゃ痛いっ!


 ────!? こいつ闘気使ってやがる! この短期間で使えるとかおかしいだろ! 俺100年ぐらいかかったんだぞ!?


 才能格差だ……。


 それより力の加減をしてくれ……このままだと千切れる────!? 


 今度は左手がミアの両手よって引っ張られ──



 そして────



 ────胸に入れた────



 いやいやいやっ! ここ人めっちゃ多いからっ! 


「何してんの!?」


「私の愛の祝福です」


「それが胸に手を突っ込む事と何の関係があるんだ?」


 俺は手を引き抜こうとするが、植物によって阻まれる。


「うふふふっ、私の愛をしかと受け取って下さいね?」


 逃がさない気か!? その笑いはいつもの慈愛に満ちた笑みではなく────獲物を狙うような感じだった。



 嬉しいんだけど……嬉しいんだけどなっ! こんな場所じゃなけりゃなっ!



 このままだと、俺は社会的に抹殺されてしまう。



 とりあえずアリスの手を振り解こうとする。


「こらぁっ! ミアのおっぱいの方がいいのかぁーっ! なら私はこうだっ!」



 今度はアリスが、俺に抱き付く。ただ、抱き付いただけではない。



 アリスが一瞬で服を脱いで肌を重ねてきたのだ!



 嬉しい────が、アリスも場所を考えてくれっ!



 俺は人目に触れる前に無限収納から一瞬で毛布を出してかける。



 せめて、こんな場所じゃなけりゃ、諸手を挙げて喜んだのにっ!



 それより、この状況────どうすればいい!?


 さすがに力尽くはダメだろう……何より手を出したくない。



 何か手は────そうだ!



 ミーラとハクマはどこだ!?

 必殺、人頼みだ!



「むにゃむにゃ……」


 ミーラの近くには酒の入ったコップがあった。


 飲んだなこいつ!



『お腹いっぱい……、にゃむ、にゃむ……』


 ハクマお前、実は起きてるだろっ! 半目じゃねぇかっ! 寝た振りとかするなよ! ヘルプだっ!


 プイッ


 顔を俺から背けるなっ! 絶対起きてるだろっ!




 フローラは!?


「この肉もっと持ってこーいっ! あそこにいる八首様が御所望だぞぉぉぉっ! 金は王城につけとけー」


「持ってこーい! 肉だぁぁぁっ!」


 アイリスも便乗してるし!


 ……いや、本当にもうやめてくれませんかね!? それより、八首ってバラすなよ!



 周りの目が「あー八首か……なら仕方ないか」みたいな視線に変わってるから!



 2人の男が俺達に近づいて来て、声をかける。



「よぉ、兄弟っ! 元気にしてるか? ブフェッ」


「あの腕輪は役に立っとるかぁ? 今度は精力増強の腕輪をやろう! やりたい放題じゃぞ? ガッハッハッハッ──ゴハッ」


 そこに現れたのはシバとバランだった。


「お前らタイミングが悪いっ! 帰れっ!」


 即座に問答無用で闘気を手加減無しで使い──殴り飛ばし、迷惑にならないように空中で鎖を展開し、絡めとった後は外に放り投げた。


 なんで八首の話題が出た時に限って来るんだよ!?




 シーン



 静まり返った後、ボソボソと話し声が聞こえてきた。



「マジか!?」


「シバさんが一発でやられたぞ!?」


「バランさんもいたぞ!?」


「しかも一瞬でやられたぞ!?」


「八首って本当なんじゃないか!?」


「ハーレムなんか作ってるぐらいだからな!」


「「「「爆発しろっ!!!」」」」



 いや、もう本当に勘弁して下さい。最後らへんの奴ら羨ましいだけだろっ!



 これは────俺の社会的地位は完全に死んだんじゃないかな……



 アナスタシアを見ると────1人でご飯を食べながら、チラチラこちらを見て笑っていた。



 しばらくして、シバとバランも復活して合流し、馬鹿騒ぎが始まった。



 まぁ、皆楽しそうだし──たまには、こんなのもいいもんだな。



 この世界に来て1番楽しく過ごせた気がした。




 酒のせいか、寝てしまったミア達を部屋まで運び、食事処に戻ってくると────




 ポンっ


 ふいに肩を叩かれる。


「八首の兄ちゃん……詰所行こうか?」


 いつかの詰所のおっさんだった。



「はい……」


 俺は素直に頷く。


 アナスタシア、フローラ、アイリスが見送る中──宿の外に出る。



 こうして、俺はこの国の詰所に行く事になった。



 シバは捕まらないのに俺が捕まる事が解せぬ……そう思いながら、1人寂しくカツ丼をおっさんが見てる中、食ったのは言うまでもないだろう。



 『酒は飲んでも飲まれるな』


 酔っ払い相手に爺ちゃんが、酒飲みながら暴漢共をぶちのめしてる姿を思い出したのもご愛敬だろう。

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