第74話 閑話 〜試練おかわり〜

『口から砂糖が出そうじゃの……』


 おい、そこっ! 空気読めよっ!


『わし、さっきから見てるだけじゃし? 正直、内心は後でやれ! って思っとるぞ? という事で────』


 パチンッ


 と指を鳴らすと、アナスタシアは目の前から消えた。


「アナをどこにやった!? 返答次第じゃ────ぶっ殺すっ」


 九尾が目の前に召喚され────爺さんに襲いかかろうと迫る。


『安心せい、先に帰ってもらっただけじゃ……殺気抑えんかいっ! わしも時間限られとるんじゃっ! そいつをしまえいっ!』


 ────!? なんだ戻っただけか……。


 それより、なんで九尾が召喚されたんだ??


 記憶の時は魔法すら使えなかったのに……。


『なぁに、ここはわしが作った特殊な領域なんじゃ。現実と時間軸が違うぞい?』


 ────!? まさか──


「ここから出たら浦島太郎状態じゃねぇだろうなっ!?」


 そんな事になってたらミア達が婆さんになってるじゃないか!?


『安心せい……現実の1秒がこっちじゃ10年ぐらいにしとるわい。お主の考え方おかしくないかの? 普通は「精神と◯の部屋だぁぁ」とか言うと聞いとるぞ? 神会議でのう』


 ほっ……良かった。


 最初の時も思ったけど──神会議って、どんな奴の集まりだよ!?


『マジで、わしの時間限られとるから、話進めるぞい? それと────このわしに巻き付いてる鎖を解かんか! わし神様! 偉いんじゃぞ!?』


 神様なら解けるだろ……それに俺の意思関係なしに動くんだから仕方ない。


 ……うん、俺悪くないな。


 九尾は俺の気持ちを汲んでくれただけだ。なんて優しい奴(?)なんだ。


『全くお主は────ふんっ。はぁ、これで自由じゃの。よしよし、少し待っておれよ? まず、レオンよ……お主は辛い記憶を封印し、裁かれたいが為に──生前善行をした。違いないかの?』


 九尾の拘束をいともたやすく解くあたり、やっぱり、神様なんだなと思う。しかも────なんか手懐けてるし!


 それより、後半言ってる事は違いないな。俺は罪の意識に耐えられず、記憶をすり替えた……そして、償いとして、慈善事業をしたりして楽になろうとしていた。


 1番望んだのは己の罰だ。その罰は受けれなかったが……。


『それでじゃ! わしが罰を与えてやるから感謝するが良いぞ? なぁに礼はいらんぞい?』


 はぁ!? もういらねぇよっ! 再会できたし、俺は罰を受けないぞ!


『その罰は────この転生した世界を救うのじゃ!』


 話聞けよっ!


『お主の転生した世界はなぜか、厄災が不具合で起こる不思議な世界じゃ……出来ればお主に救ってほしいのじゃが────』


 不具合って……神なんだからなんとか、そのバグ直せよ!


「お断りします」


 即答する。


 何が悲しくて世界救わなきゃいかんのだ! 俺はアナ達と幸せになるんだよっ!


『返事はやっ!? いや、それだと困るんじゃよ……厄災が一気に復活するんじゃよ? お主良い奴じゃろ? ほれ、英雄になれるチャンスじゃぞ? それに受けんと────このままだと滅ぶのじゃ。そんな戦乱の世の中で幸せになれるといいがのぉ』


 なにサラッと言いやがる!?


 俺以外に適正な奴いるだろ!?


『いや、こればかりは────この世界の住人では無理なんじゃ……異世界人は魂の器が大きいから恩恵を受け入れられるのじゃが────この世界の人では……良い所、2つぐらいなんじゃ……そこでお主に白羽の矢が当たったわけじゃな! おめでとうっ!』


 サムズアップする爺さん。


 その顔が少しイラッとした。


 もしかして────この転生って嵌められたのか??


『正解じゃ! そんなお主には試練クリア報酬を先渡ししてやるわい。恩恵【連結】をやろうっ! 【吸魂】もわしのチョイスじゃて。なぁに感謝の言葉いらんぞい? わし、めっちゃサービス精神旺盛っ!』


 そのドヤ顔が腹立つわっ!


 しかも、世界救う方向に話が進んでるんですけど!?


 俺了承してないだろっ!


『お主は罰を与えられたかったんじゃないのかの?』


「琴音と────いや、アナと再会するまではな……今は幸せを見つけたい……」


『お主と再会したアナスタシアちゃんはこれから────運命と向き合う。そして、今のお主は同じ過ちを必ず──犯す。そうならぬように、わしらは準備しておる。その手をとるかどうかはお主次第じゃ……』


 真剣な目で俺を見据えて来る爺さんに嘘は感じられなかった。


 何を知ってやがる?


 アナのあの影のさした笑顔も気になる……関係があるのか?


「一つ聞く……琴音が死んで、その後────不死王にしたのもお前らが仕組んだ事か?」


『そうじゃ────って、殺気をおさえんかいっ! あの子は本来はお主と同じ時期に転生させるはずじゃったんじゃが──とある集団が厄災を復活させおってな。仕方なしに転生させるしかなかったんじゃ……当時の勇者が転移する際に不死王にするよう信託をし────お主と再会させる為に仕組んだ────』


 ガギンッ


 俺は全力で殴りかかるが結界らしき物に阻まれる。


「アナはなぁっ! お前らの勝手な意思で────500年も苦しんだんだぞっ! 許さねぇっ!」


『確かに……しかし、琴音の意思も転生時に確認しておる。──お主に会う為にどんな苦難も受け入れるとな……長い期間の間に忘れておるみたいじゃったがな』


「────っ!?」


『その怒りは厄災を復活した奴にぶつけるが良いのじゃ。わしらはお主らを巡り合わせる手助けをしただけじゃ────過程は辛い物だったかもしれんがの……お主が厄災を討伐する役目は────神会議によって、生まれる前から決まっておるのじゃ』


「何を勝手なっ! そもそも、何で俺なんだよ!?」


『それはの────時間切れか……すまんが、残りは、この後ので担当の者に聞くのじゃ』


 爺さんは粒子になり消える。


 押し付ける気満々じゃねーか!


 俺も体が粒子に変わっていく────


「ちっ、なんだよ追加の試練って……ぜってぇー受けねぇからなっ!」



 ……


 …………


 ……………………




 ────声が聞こえる……。


「レオっ! レオっ! やっと気がついた!?」


「アナ?」


 俺は周りを見渡すとリオンのいた部屋に戻った事を確認する。


「試練のクリアおめでとう。神の爺さんより、お前には追加の試練を行うようにさっき言われた。爺さんの作ったへ招待してやろう」


 リオンが声をかけてくる。


「いや、いらないです」


 俺は断る。


「そう言うな。もお待ちだ────さっさと行ってこい」


 悪そうな顔してリオンは俺に手をかざした瞬間意識が遠のく。


 戦神とか聞こえたけど!?


 つーか、どいつとこいつも話聞けよっ!


 それより、アナともう少し再会を味わせろよなっ!



 ────意識が飛ぶ瞬間に────


 ────アナスタシアがキスをしてきてくれた。


「待ってるからね! 後でちゃんと愛してほしいなぁ」


 ────と俺に告げて、ウインクをする。


 アナスタシアに見惚れた、俺の顔はおそらく真っ赤なんだろうな。



 あ〜〜〜〜っ、くそっ! 試練だって何だって乗り越えてやるよっ!


 こんなの反則だろっ! エロいし、可愛いし、美人だしっ! 自分でも何言ってるかわんねーよっ!


 それに発作も起こらないし、トラウマ乗り越えたのか?!


「必ず──戻るから。待っていてくれ……後でいっぱい話そうな? ────ぐはっ」


 俺は恥ずかしそうに返事すると、腹部に激痛が走る。


「目の前でいちゃつくなっ! 鬱陶しいっ! さっさと行けっ!」


「ぐぅぅ────ひでぇ……────」


 リオンのボディブローで俺の意識は完全に飛んだ────

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