6. ルイサレムの懐かしい人たち
受付も終わったので、今日泊まるところを決めなければならない。以前泊まっていた海鳥の館に行ってみるが、すでに宿は廃業したのかアパートのようになっていた。
20年前の情報だが、いくつか聞いていた宿があったので町の散策がてら見て回り、残っていた宿の中から少し高級なところのカスサの宿というところに決める。
「すみません、今日泊まりたいのですが部屋は開いていますか?ツインかダブルの部屋でお願いします。」
「はい、大丈夫です。手続きをしますのでこちらに身分証明証をかざしていただけますか?」
そういって小さな箱のようなものを出された。町に入るときと同じような感じなのかな?
順番に身分証明証を当てると青い光がともった。前は身分証明証を一回一回確認されていたのである意味助かるな。
「はい、問題ありませんね。宿泊は305号室のツインの部屋で2500ドールとなりますがよろしいでしょうか?」
宿のレベルを考えるとちょっと高いような気もするけど、途中で売っているものの値段を考えると物価が2~3割くらい上がっているのでこんなものなのかな?
「はい、お願いします。」
カードから引き落とししてもらい、領収書を受け取って部屋に移動する。建物は5階建てでエレベーターもあった。部屋の鍵はカード式になっているので、もうこれが普通になってきているのかもしれないな。
夕食は近くにあった食堂で魚料理を食べる。料理の味付けなどは以前とそれほど変わっていない感じでちょっとスパイスが効いているものだった。
以前よりも治安は良くなってきているが、やはり夜に一人で暗い道を歩くのはやめておいた方がいいみたいなので、表通りのお店を見ながら宿に戻る。明日から情報収集をしなければならないな。
夜はいつもの様に求め合ったが、明日からのこともあるのでほどほどにしておいた。やっぱり身体は若返っているみたいなんだよな・・・。
翌日宿の食堂で朝食をとってから役場に行っていろいろと調べてみる。
ヤーマン国は当時の国王であったクマライアス国王陛下はすでに引退しており、現在は長男だったクレアン国王陛下に変わっていた。亡くなったわけではなく、55歳になったところ機に引退したようだ。
王家の家系図は公開されているので確認したところ、クリスさんはまだ存命のようだ。王家からは外れているため、クリスさんしか名前は載っていないのでスレインさん達についてはよく分からない。他の兄妹は全員結婚しているみたいだ。
アルモニアとハクセンは民主化が少し進んでいるようで、貴族の特権は大分無くなってきているみたいだ。
ハクセンでは実質的にどのくらいの権限があるのか分からないが、平民の議会のようなものができて国政に携わるようになっているようだ。
ハクセンのルイドルフ家とハックツベルト家は順当に長男があとを継いでいるみたいだけど、ラクマニア爵とピルファイア爵は引退だけなのか、亡くなったのかは分からないな。
アルモニアの賢者のジョニーファン様はまだご健在のようだ。ただ今はほとんど表に出てこないようなので体調が心配だな。今はジョニーファン様の弟子という感じで北の五賢者と言われる人たちがいるみたい。
ナンホウ大陸は民主化の進行がかなり早いみたいで、モクニク国でも民主化運動が起こって国が二つに分かれてしまったようだ。いまはなんとか落ち着いてきているようだが、10年ほど前までは争いが続いていたいみたいだ。いつ戦争が再開されてもおかしくはないかもしれない。東側が従来のモクニク国で、西側が昔そこにあった国名のランタク国が誕生していた。
モクニク国はまだ貴族の権限が強いみたいだが、ランタク国はサビオニアと同じような感じになっているようだ。
モクニク国の内戦の間にサビオニアが国力を大きく上げているみたい。まあ隣の国で起きた戦争特需のようなものだろうな。国の中枢に何人か知っている名前が載っていた。
トウセイ大陸については特に大きな変化はないみたいで、皇帝は代替わりしているが、今も盤石な体制を維持しているみたい。
魔獣のことについて調べてみたが、自分たちの知っている生息エリアが大きく変わっており、町の近くや街道にはほとんど魔獣が出なくなってきているようだ。これは魔道具の魔獣除けの効果の強化と普及率が関係しているようだ。
どうやら魔獣を寄せ付けない道具だけでなく、魔素の発生を抑制する道具が開発されたことが要因らしい。魔素の濃いところではほとんど効果が出ないが、薄いところには効果が大きくなるようだ。
このため、魔素の濃いところと薄いところの二極化が進み、特定の地域には凶暴な魔獣が多くなってしまっているようだ。このため新たな町の開拓はあまり進んでいないみたい。
町の周りには初階位の魔獣がいるくらいで並~上階位の魔獣がいるエリアは結構限定されているみたい。町によっては狩り場となるエリアが離れすぎてしまうため、並~上階位の冒険者は町から少し離れた前線基地のようなところに滞在することが多くなっているようだ。
そのせいでルイサレムの町の冒険者の数が少ないのかな?そのレベルの冒険者が泊まる宿が少なくなっているのもそれが影響しているのかもしれないな。
細かなところは実際に冒険者とかから話を聞かないと分からないだろう。まあこれについては少しずつ調べていけばいいだろうな。
昼前に窓口に行くと、確認試験は明日か明後日なら受けることが出来るらしい。遅くなってもしょうが無いので明日にお願いする。
お昼は近くの食堂でとってから車の免許の更新へと向かう。講習と行っても実技があるわけではなく、60分の講習を受けるだけだった。どうやら標識や罰則、ルールの改定についての説明だった。まあこの辺りは地球の免許更新と同じだな。講義の最後に試験があるんだが、講習さえちゃんと聞いていれば簡単な問題だった。
免許の更新は5年おきで、更新を忘れてしまった場合は実技を含めた試験を受け直さなければならないようだ。それでも地球の免許の失効よりはかなり緩いのは助かるね。
役場を出てからカサス商会へと向かう。お店の場所は変わっていないようだったので迷わず到着できたんだが・・・なんかかなり大きくなっていないか?
「どう考えても規模が三倍くらいになっているよね?」
「ええ、建物の造りもかなり立派になっているわね。あれからさらに商会の規模が大きくなっているという事かしら?」
「まあ、あのときでもかなり規模が大きくなっていたし、コーランさんの手腕を考えるとおかしくないのかな?」
店の外だけ見ていてもしょうが無いので店に入ると、簡単な商会の説明があったので読んでみる。いまでは世界中に店舗が広がっているようだ。
会長の名前はコーランさんの息子のカルニアさんになっていたんだが、相談役としてコーランさんの名前が載っていたのでまだ存命なんだろう。相談役といってもまだいろいろとやっているイメージしか沸かないな。
ここの支店長の名前も載っていたんだが、すでに他の人になっているようだったのでステファーさんは引退したのかな?あのときにもう結構な年だったからもしかしたらすでに亡くなっているかもしれないな。
説明の横には非売品として重量軽減バッグが展示されていた。これって自分たちの作ったバッグだよな?
「このバッグが気になりますか?」
バッグを見ていると不意に店員から声をかけられた。
「ええ、これは非売品なのですか?」
「20年ほど前までは普通に売られていたんですけどね。いまでは生産が出来なくなったために販売は停止されています。これは記念としてここに展示しているんですよ。
このバッグは魔符核を作成した付与魔法士と先々代の支店長のステファー女史が共同で考案したと聞いています。その後改良されたものも作られたようですが、20年ほど前に付与魔法士の方がなくなられたようで、生産が出来なくなってしまったようなのです。
その後もいろいろと重量軽減バッグは作られましたが、未だにこれを超えるものは出来ていませんよ。改良前のものも含めてです。
当時の業績をたたえて、残っていたバッグを展示しているのです。」
「そうなのですね。
ところで、そのステファー元支店長はもう亡くなられたのですか?」
「私がこのお店に来たときにはすでに代替わりしてまして、そのときにはもうなくなられたと聞いています。15年ほど前のことみたいですよ。」
ステファーさんは亡くなっていたのか・・・。かなり元気な人だったよなあ・・・。
折角なのでお店の商品を見ていくことにしたところ、そのまま係の人が説明してくれた。
携帯電話のようなものが普及し始めているようだが、まだ高価なこともあり、持っている人ははかなり限定されるようだ。まだ持ち運びも簡単ではなく、地球でも携帯電話の普及前にあった車載電話のような印象だ。
コンパスの性能は前よりも上がって距離が伸びており、ここからサクラまでは届くようになっているようだ。
以前は品数が少なくてほとんど出回っていなかったカメラも売られていた。機能はかなり制約されているが、まだ購入できる金額という価格帯だ。話を聞くと、とりあえず記念に残しておきたいという要望に応えて販売されるようになったらしい。
今回デジカメやスマホなどを持ってきているのでもっと手軽にはとれるけどね。デジカメはかなり高性能な物を持ってきているからこれは買わなくてもいいだろう。データのバックアップも出来るようにいろいろと機器も持ってきているので写真は結構ちょこちょこ撮っている。
ちなみに動画の記録が出来るもの出来たらしいが、まだ一般には出回っていないようだ。前はとったものをそのまま投影と言うくらいしか出来なかったからね。
あまり性能の変わらないものもあったが、便利な機能が追加されたり、性能が上がっているものについては購入することにした。
このあとカルミーラ商店にも顔を出すが、ショウバンさんはすでに亡くなっているようだった。さすがにあのときにかなり高齢だったからね。あの別荘はまだカルミーラ商店の所有みたいだが、特に使われていないようだ。
港にも顔を出してみると、聞いたことのある声が聞こえてきた。かなり年は行っているが、ガバナンさんに間違いなさそうだ。
「元気な方がいらっしゃいますね。」
港の事務員に声をかけてみる。
「ああ、ガバナンさんだな。身体を少し壊したときに息子に引き継いで船は下りたんだが、結局港で働いているんだよ。周りから慕われていたから、いろいろとやってくれて助かっているんだ。」
「もうお体は大丈夫なんですかね?」
「ああ、治療がうまくいったらしくてな。ただ船は息子に譲ったんだからといって復帰はしなかったんだ。」
元気そうで何よりだ・・・。折角なので明日の朝に魚の仕入れの約束を取り付けておく。
このあとはいろいろな店を見ながら町を散策し、夕食をとった後宿に戻る。明日は試験があるので早めに休むことにする。
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