3. 旅立つ準備

すでにこっちの世界では夜なんだが、時差の調整のため寝ないで過ごすことにした。その間にこっちの世界に来たら最初にしようと思っていたことからやるとするか。


「このままだと行動するのも制約がかかるかもしれないからこの薬を使ってみるか?」


「そうね。こっちでならかまわないし、やっぱり能力は高めておきたいわ。」


用意した薬を飲むと全身の活力が戻ってきた。鏡を取り出して自分の姿を確認してみる。


「よし、全盛時代の身体に戻るというのは本当だったな。20歳くらいか?ジェン?」


「私はもう少し若いみたいね。」


「うん、そうだなあ。これはこのあと大変なことになりそうだぞ。」


「もう、今はそれどころじゃないでしょ?」


もともと自分も見た目は実年齢よりも若く、30歳前半に見られていたのだが、薬を飲むと間違いなく見た目も変わった。あと、鑑定結果にも載っていたが、身体の筋力というか、能力が大幅に改善された感覚を受けた。

ジェンは異世界転移した頃とあまり変わらないような感じになっていた。十分若くて綺麗だと思っていたけど、やっぱり全く違っていたんだなあ・・・。


「なあ・・・、ジェン・・・」


「も、もう・・・仕方が無いわね・・・。」


・・・

・・



久しぶりにかなり楽しんでしまったよ。どうも体力だけでなく、精力まで若返っているような気がするのは気のせいだろうか?まあ治癒魔法もあったけどね。




今回使用した薬は以前古代遺跡で見つけたレシピを元に作ったものだ。どこまで正確なのか分からないが、材料や手順が一応載っていたので、こっちの世界にいるときにお店やオークションなどで材料を集めていた。

ただし、材料の抽出がかなりシビアで、こっちの世界では器具を作るところから始めなければならなかったため、なかなか手が出せなかった。


元の世界に戻ってからある程度生活が落ち着いたところで薬の製作に取りかかった。抽出には魔素も必要となってくるため、誰かに依頼することも出来ず、自分たちでやるしかなかったのは仕方が無い。抽出や蒸留などの器具は市販されていたものを利用できたので器具の準備は楽だったけどね。


何度も失敗を繰り返し、かなりの材料を使ってやっと完成にこぎ着けたものは「若返りの薬」で、鑑定では寿命は延びないが、肉体を全盛時代に戻すという効果が書かれていた。規定の数量が無ければ効果は出ないみたいで、指定された材料から作られるのは1回分のみだった。

やり方が分かったのでいくつでも作れると思ったが、実際には魔力などの調整がかなり微妙みたいで、何度も失敗して、材料が無くなるまでに作れたのは全部で4回分だけだった。


今回もできれば材料を手に入れてみたいが、材料のキノコなどいくつかはかなり入手が厳しいのが問題だ。運良くオークションとかで手に入ればいいけどなあ。もし製作するならこっちの世界の方が魔素を集めやすいのでやりやすいと思っているのだけどね。


まあ、そうは言っても寿命は延びるわけではないから使える回数には限度があると思うし、まあ保険みたいなものだな。本当に見た目まで変わるか分からなかったけど、間違いなく若返ったな。




今回いろいろと道具を持ってきたが、こっちの世界に来たときに材質が変わってしまうのがちょっと心配だった。材質が変わってしまうとおそらく使えなくなってしまうものも多いと思っていたからだ。


前の転移で元の世界に戻ったときに、収納魔法に入れていたものを取り出して確認をしたところ、そのままの状態で取り出すことが出来た。


ミスリルやオリハルコンはだめかと思っていたが、元の世界でも存在している物質だったのかもしれない。魔素が融合した金属という感じだったからね。ちなみに元素を調べてみると、ミスリルは銀、オリハルコンは銅だった。構造解析まで行ったが、正直解明するまでに至らなかった。おそらく魔素というものが科学では解明できないのかもしれない。

元素から考えるとオリハルコンはもっとあってもいいのでは無いかと思ったが、おそらく魔素の量が半端なく必要なんだろう。人工的に合成できるのかは分からないが、古代文明では合成していた可能性もあるな。



今回は転移魔法での転移なので持っている物質が変わることはないのではないかと思っていたが、身につけていたプラスチックなどもそのままだったので安心した。以前の転移ではプラスチックが別の材質に変換されていたからね。

ただ、基本的にはこの世界で使うのはやめておいた方がいいかもしれないね。もしもの時にはこの世界の構成を壊すことになってしまう。




結局この日はだらだらと過ごして眠りについた後、翌日から身体の動きの確認を行った。


「それじゃあ、少しやり合ってみようか?」


「ええ。」


練習用の装備で打ち合いをするが、とてもではないが練習にならない。


「これ、無理だね。」


「ええ、しばらくは自主鍛錬した方がよさそうだわ。」


全体的に能力が戻っているので、感覚と身体の動きにずれがでていたのだ。思った以上に身体が早く動くせいでかなり動きがぎこちなくなってしまう。とても打ち合いをできるレベルではないため、しばらくは一人で感覚を戻すしかなさそうだ。

さすがにこの辺りの感覚をある程度戻しておかないと、いざというときに対応できなくなるからなあ。


魔法についても魔素のたまりが早いため、威力が強くなりすぎてしまう。こっちは貯める時間などの調整なのでまだよかったが、思ったよりも速度も威力も上がっていて驚いてしまった。



1週間ほどするとだいぶ身体の動きも良くなってきた感じになった。ジェンと打ち合いをしてもいい感じに対応できる。


「まだ完全というわけでは無いけど、あとは途中で調整していけば何とかなるかな?」


「魔法の方は感覚が戻ったし、思った以上に威力も強いから、よほど強い魔獣じゃ無ければ大丈夫だと思うわ。」



実戦経験をするために島の上に行ってみる。島の形は前とほとんど変わっておらず、いる魔獣もあまり差が無い。やはり強くても上階位までだな。しかも上階位下位までなので実力の確認は出来ないが、慣れるにはいいだろう。


魔獣の狩りは20年ぶりとなるが、元の世界で熊とか狼とかは倒したりしていたのでそこまで感覚のずれは無かった。交代で魔獣を狩ったり、索敵で魔獣の位置を確認したりして感覚を取り戻していく。

解体も解体魔法が使えたから良かったけどね。これはスキルと同じでしばらくやっていなくても問題なかった。




他にも向こうの世界では使っていなかった魔道具の状態の確認も行った。特に車や船について確認したが、特に問題はなさそうだった。ただ20年くらい経つと、この車だとかなり目立つかもしれないよなあ。当時の最先端だったけど、いまではどうなっていることか・・・。


あと、どこかである程度まとまって魔獣を狩るなり、依頼を受けるなりして魔獣石を手に入れないとまずいよな・・・。まだ結構あるから大丈夫だと思うけど、物価とかがどうなっているかも分からないし、こっちでは魔獣石を使った道具も多いからね。早めに対応を考えた方がいいかもしれない。


カサス商会に何かを売り込むか?でももう自分たちレベルの魔符核だと売り物にならなくなっている可能性もあるよな。自分たちが伝えた知識も普及しているだろうから、知識チートも厳しいだろうからねえ。

元の世界のコンピューター関係の進歩は早かったけど、こっちの世界で使える知識や技術の進歩はないからなあ。あと、こっちの世界の技術基準がどうなっているのかも分からないからね。

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