245. 異世界2019日目 魔法団で入団試験
魔獣を狩ったり、遺跡の調査をしたり、地方の町に寄ったりしていたせいもあり、クリアレントに戻るとすでに8月中旬になっていた。あと1ヶ月もすると雪が深くなってくるだろう。
ジョニーファンさんの屋敷に行くと、歓待してくれてすぐに訓練の話となった。今回も入るときに待っている人たちからの視線が痛かったよ。
「体験入団の話はしていたんじゃが、やはり入団テストは免除できないと言われてのう。すまんがまずは入団テストを受けてくれるか?おぬし達の実力ならば間違いなく合格できるはずじゃ。」
まあいくらジョニーファンさんの紹介と言っても他国の冒険者をいきなり体験入団させるのは難しいよな。
「お手数をおかけして申し訳ありません。入団テストはすぐに受けられるのですか?」
「ああ、都合がいいのなら明日でも出来るそうじゃ。」
「分かりました。それでは明日伺おうと思います。」
「わかった、そのように伝えておこう。」
「あと、こっちで訓練する間はどこか泊まるところを借りたいと思うのですが、不動産への紹介状を書いてもらうことは出来ますか?さすがに他国の人間がこちらで家を借りるのは難しいと思いますので。」
「わしはよく分からんが、家の者に言えば何とかなるじゃろう。ここから通ってもらってもいいのじゃが、さすがに気を遣いそうじゃからな。
ただ、たまには顔を出すんじゃぞ。あと、来るときは受付に寄らずに門番に直接言ってかまわんからな。」
「分かりました。ありがとうございます。」
この日はジョニーファンさんの屋敷でやっかいになり、翌日訓練場へと向かう。話はすでに通っていたのですぐにテストを受けることになった。
アルモニアの魔法団は黒、青、緑、赤の4つあり、黒はこの国の最高峰となる。所属するメンバーもかなりの実力者のようだが、少数精鋭で詳細は伏せられている。
その下にある3つの魔法団は特に実力差はほとんどないが、今回体験入団させてもらう予定の部隊は青の魔法団らしい。もしかしてこの間会った人もいるかもしれないね。
受付で名前を言うとすぐに訓練場に案内してくれた。訓練場には少し年配の男性とそれより若い男性が二人待っていたが、この人達が試験官かな?
「私が入団テストの試験官を行うハーマルという。よろしく。」
「「よろしくお願いします。」」
「体験入団と言うことだが、最低限の能力がなければ入団は認められない。というのもレベルが足りていない場合、入団してからの訓練についていけないからだ。一応説明しておくが、・・・
・・・
・・・
そして合否の判断は私だけでなく、サポートの2名と協議の上で判断するのでがんばるように。実力が合格ラインに達していた場合、引き続き面接を行うことになる。」
「「わかりました。」」
説明が長かった・・・。まさか魔法団の創設のところの話からあるとは思わなかったよ。サポートの二人もちょっとあきれているように見える。
「それではテストを開始するので移動してもらおう。」
射撃場のような場所に移動してから、再度説明を受ける。
「ここの試験は簡単だ。あそこから壁の方にある的を魔法で攻撃すればいいだけだ。得意不得意があると思うが、的に当たらなくてもいいので使える魔法はすべて試してくれ。属性の種類についても判断の対象となるからな。
結界で魔法の威力は落としているので全力で攻撃してかまわないぞ。制限時間は全部で30分と言うだけなので、十分に魔力をためてもらってかまわないし、何度挑戦してもらってもかまわない。」
まずは攻撃力のチェックか。どの程度の威力で合格か分からないけど、全力でやるしかないな。
「わかりました。それでは自分からやってみます。」
魔素を取り込み、まずは火魔法からだ。限界まで魔素をためてから魔法を放つが、結界のせいか威力はかなり小さくなってしまった。それでも的を破壊できたのでよしとしよう。火魔法でこの威力と言うことは、他の属性だと的を破壊できるかどうかは微妙だな。
風、水、土、雷、氷はまだそれなりの威力が出たんだが、的を破壊するまでいかなかった。光と闇の威力はかなり小さくて的に当たっただけという感じだ。ある程度鍛えてはいたんだけど、あまり実戦では使っていないからねえ。とはいえ、自分的には十分実力を示せたと思うので1回でいいだろう。
「何度やってもこれ以上威力は変わらないと思いますのでこれで終わりでいいです。」
「わ、わかった。次の的の準備をしよう。」
ジェンもだいたい同じような感じで、一番威力があるのが火魔法と水魔法だった。光魔法と闇魔法は自分よりもちょっと威力が高いという感じかな?どっちにしろ的に当たったというレベルだ。
二人で30分ほどで終わってしまったけどいいのかな?
「どうでしょうか?光と闇はさすがに的に当てるのが精一杯です。なかなかイメージが出来なくて・・・。」
「いや、二人とも攻撃魔法については十分だろう。全属性が使えることも驚いたが、そもそも光魔法と闇魔法で的を攻撃出来るものがほとんどいないのだ。」
「そうなんですね。」
「それでは引き続き防御魔法についての確認を行う。基本的にはそれぞれの魔法で盾を作る形となると思うが、魔法と鉄球で攻撃するのでそれを防いでほしい。
ここは結界はないのでそのままの威力となるが、魔力をためる時間はそれぞれ5秒以内としてもらう。」
とりあえず盾として使えるのは火魔法、水魔法、風魔法、土魔法の4つかな?ただ火魔法は鉄球に対しては効果はないだろうし、土魔法も何もないところだとほとんど威力は出せないだろうな。他は見せる必要もないだろう。
自分の横に魔法の盾を出して、攻撃を受けるが、各々の攻撃に対して効果のある魔法をぶつけるようだ。攻撃する魔法の威力はかなり落としているみたいで、だいたいの魔法は防ぐことが出来た。ただ火魔法と土魔法では鉄球を防げなかったけどね。
自分の後でジェンも同じように試験を受けたが、結果は自分と同じようなものだ。ただ見た感じ水盾は自分よりも威力が高そうだ。昔からよく使っていたからね。
「以上で実技試験は終了だ。他の者と協議を行うので少し待っていてくれるか?」
「分かりました。せっかくなのでここで訓練をしていてもいいですか?」
「ああ、かまわないぞ。」
「ありがとうございます。」
せっかくの訓練場なので久しぶりにジェンと打ち合いを行う。重さと形だけを調整した練習用の武器でだけどね。遠征に出ているとなかなかこういう訓練をする暇がないからね。まあ実戦はしているけど、たまにはこうやって基本を確認した方がいいからな。
「結果が出たのでいいだろうか?」
「はい、すみません。ちょっと熱が入りすぎて気がつきませんでした。」
打ち合いに熱が入っていたみたいで戻ってきたことに気がつかなかったようだ。
「どうだったでしょうか?」
「ああ、協議を行ったが、実技は合格だ。このあと簡単な筆記試験の後、面接があるのでそれで問題なければ合格となる。」
「わかりました。」
筆記試験は算学、魔法学、この国の地理や歴史に関することだった。さすがに他国の人用なのか、この国の地理や歴史はかなり簡単な内容になっていた。特に引っかけのような問題も無かったのでほぼ満点の回答は出来たと思っている。
このあと順番に面接となったが、面接するのはこの国の大臣の一人と魔法団の団長と副団長から選ばれた4人の合計5人だ。面接では魔法の理論や魔法の使用方法などについて話すくらいなので特に問題はなかったと思う。
面接の後、しばらく待っているとハーマルさんがやって来た。
「試験も面接も問題なかったみたいだな。二人とも合格だ。」
「「よし!!」」
よかった~~~。これでジョニーファンさんの顔をつぶさないですんだ。落ちていたらちょっとまずかっただろうからなあ。
「明日からでも訓練に参加することはできるが、最初に団員に紹介しようと思っているが大丈夫か?」
「すみません。明日は住む場所を探さないといけないので明後日からで良いでしょうか?」
「そうか、それは仕方が無いな。1日で大丈夫なのか?」
「ええ。場所さえ決まればいいだけですので大丈夫です。」
「わかった。そのように手続きをしておく。」
このあと訓練場の入場カードをもらい、簡単に設備の説明を受ける。細かなところは明後日説明してくれるらしい。他にも服装や規約などを確認してから訓練場を後にする。
お昼を食べてからジョニーファンさんのところに行って無事に合格したことを報告する。「まあその実力で落ちるようだったら文句をいっていたわい。」とか言われてしまったよ。
~ハーマルSide~
4月頃に魔法団への体験入団の話が上がっていた。我が国の魔法団は他国からも一目置かれるくらいレベルが高いことで有名で、体験入団の要望はあるがなかなか許可が出ないところとしても有名だ。
ただその話は延期となり、時期は未定になったと聞いて結局無くなったのかと思っていたが、8月になるとまたその話が持ち上がった。そう思っていると急遽明日行うと連絡が入り、慌てて準備をすることになった。
普通であればもっと早めに日程が決まるものだが、こんなに急に決まるというのはかなり珍しいことだ。まあ、いろいろと政治的な絡みでもあるかもしれないな。そこ辺りは詮索しない方がいいだろう。
今までも入団試験はあったが、体験入団で合格したものはかなり少ない。そもそも体験入団として入ろうとするのは実力があまりないにもかかわらず、箔付けのためにやってみようとする貴族が多いからだ。
特に他国からの体験入団は合格率が極端に低い。魔法に関する知識の漏洩にもつながってしまうからな。体験入団させるにはこちらにもメリットがあるほどの実力が無ければならないとされている。
他国からの体験入団でヤーマン語を全く理解できずにやってくる人間もいる。通訳を連れてくる者もいるが、最低限の会話くらいは出来るようにしてほしいものだ。
国としては断ることが出来ないのだろうが、試験は正確にして良いと言われているのが救いだ。断られる可能性も高いのにどうしてわざわざ受けにやってくるのかと思っていたが、入団試験を受けることが出来たというだけでも箔が付くらしい。
このため試験官に選ばれるのは名誉と言うよりは余計な仕事を受けてしまったという側面が強い。本当なら、その実力をちゃんと見抜いたとして評価されるのだろうが、そのような人物は私が入団してからは一度も無いからな。不合格でも書類関係はきちんと提出してなければならないので正直考えるだけでも憂鬱だ。
訓練場で待っていると受付に案内されて冒険者風の格好をした二人がやって来た。しかもかなり若い。「本当にこの二人なのか?」と思ってしまったのは私だけではなかったはずだ。きっと貴族の子供が箔を付けるために受けに来たのだろうな。他の二人も同じような印象を受けたようだ。そう思っても、試験はきちんとしなければならないので説明を行い、試験会場に移動する。
合否の判断は3名以上で行うことになっているが、本当は判断がかなり難しい場合があるからだ。的に当てることが出来なければ不合格なので簡単なのだが、当たったとしてもその威力が弱すぎれば不合格となる。防御についても同様だ。その判定で意見が分かれるため、3名で判断することになっている。
ただ体験入団の場合は責任の追及を逃れるためという側面が強い。一人の判断だと正確な判断が行えたのかと言われてしまうからだ。
説明の後、さっそく試験に入ったが、正直驚くしかなかった。最初の火魔法で的を破壊してしまったのだ。一瞬結界が効いていないのかと思ったが、そういうわけではなかった。威力が高いのだ。
他の属性でも的を破壊するほどでもなかったが、十分な威力を示していた。そして驚くべきは光魔法と闇魔法で的を攻撃できたことだ。この二つの魔法は使える者が少ないこともあるが、そもそも攻撃魔法として使えるレベルの者がほとんどいないのだ。
防御魔法についても十分な効果を持っており、魔法に対する防御としては十分な効果を持っていた。鉄球での攻撃についても風魔法と水魔法は十分な効果を示していた。
試験の後、他の二人と協議をしたが、正直協議をするまでもなく合格と言っていいレベルだった。協議と言うよりは驚いた感想を言い合う場となってしまったくらいだからな。
結果を伝えようと訓練場に戻ると二人は剣で訓練をしていた。もちろん私は剣がそれほど使えるわけではないのではっきりとは分からないが、二人が剣と短剣で打ち合っている動きは剣士としても十分通用するレベルだろう。あの魔法の実力がある上に剣士としてもこの実力なのか?
たしかに魔法使いでも剣を使える者はいるが、このレベルになるとかなり少ないのではないだろうか?しかもこの年齢でその両方のレベルがここまで達しているという人物となるとかなり限定されてしまうはずだ。
その後の学識試験や面接でも問題なかったようで、結果を伝えるとかなり喜んでいた。これで顔をつぶさないですむとつぶやいているところを見ると、やはり我が国の上層部に伝があるのだろうな。
はじめは他国の貴族の子供だと思ったが、平民と言うことだったのでちょっと驚いてしまったが、商売か何かのつながりなのかもしれないな。
試験が終わった後、同僚達に結果を聞かれて伝えるとかなり驚かれた。それはそうだろう。体験入団の合格者なんて何年ぶりだろうか?しかし本人達を見たらもっと驚くだろうな。一緒に受けた試験官達には当日まで秘密にしておくことにしている。
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