222. 異世界1540日目 遺跡の調査結果

 オルクの町を出発してから7日ほどで北にある副王都のマルニクへ到着した。ここもかなり大きな町で、町の中心には大きなお城もあった。湖畔にある王都モクニクとは異なり、小高い丘の上に作られた城で、町は丘の上から裾野に向かって広がっていた。



 ここはもともとはランタクという別の国の首都だったところだったが、100年ほど前にモクニクに併合されたらしい。さらにさかのぼれば250年ほど前まではランタクという大きな国があり、そこで王位争いが勃発し東西の国に別れてしまったみたい。東に逃げた王位継承者が東の勢力をまとめて創った国がモクニク国のようだ。

 そのあと50年ほどは戦争が続いたが、両方の国も疲弊してきて他の国に攻め込まれる危険性が出たことで和平が結ばれたようだ。そしてそれから100年ほど経ってからホクサイ大陸との交易で力を付けたモクニク国がランタク国に攻め込み、再度統一されたということらしい。


 言語はもともと同じ国だったこともあり、なまり程度の差なので特に問題はないが、やはり別れて数百年も経ったせいで文化は異なるようだ。ちなみに自分たちが習ったのは東側エリアの国の言葉なのでこの辺りでは若干言葉が異なっている。

 貴族の権限はこちらの地域の方が多少緩い感じらしいが、これは国の影響ではなく、おそらくタイカン国の影響なのだろう。



 さすがに西側で一番大きな町だけあってかなりの規模で人通りも多い。お店もいろいろとあって商品も充実しているのでいろいろと日用品などを買い出ししていく。


 装備品やアクセサリーも見てみるが、今使っているものが結構いいものなので、値段を考えても買い換えたいというものはない。ここ最近は全く装備の更新をしていないんだよなあ。まあ補修が自分でできるようになったことも大きいけどね。

 あとは魔獣の討伐を魔法中心にしたこともあるだろうな。魔法で遠距離から仕留めることも多いし、魔法の盾で防いでいるので装備へのダメージがあまりないんだよね。


 貴族エリアの役場に行っても特に変わったことはなかったんだが、平民エリアの役場に行くと、最近貴族の取り締まりがきつくなっていると教えてくれた。どうやらサビオニアの政変があったことで、いろいろと問題のあった領主は領地を没収されたりとかもしているらしい。この国でも革命が起きないか心配しているのだろう。




 数日ほど滞在してから出発し、もともとの国境だったところにある城塞都市タラクを経由して王都モクニクへ。デリアンさんに連絡を取るとすぐに返事があって、カルアさんと一緒に会うことになった。

 宿を取ってから指定されたお店で待っていると二人がやってきた。仕事が終わったあとに直接やってきたらしいが、なんかちょっと前と雰囲気が違っているような感じがするのは気のせいか?

 適当に食べ物や飲み物を注文してから二人と話をする。


「大丈夫でしたか?サビオニアに行くと言っていたのでかなり心配したんですよ。結局あの国に行かれたんですか?」


「ええ、サビオニアにいるときに革命が起きてしまったので結構大変でしたよ。現地で知り合った方々に助けてもらいながらなんとか戻ってこれました。」


「よかったですね。」


 この間の調査結果のことを聞くと、2ヶ月ほど前に論文として報告したらしく、最近になって論文の内容が正式に認められたらしい。


「良かったですね。平民の論文が認められることはなかなかないと言っていましたけど、大丈夫でしたか?」


「ああ。サビオニアの革命の影響なのか、最近は平民への当たりもだいぶん良くなってきているんだ。タイミング良く論文を報告できて良かったよ。おかげで調査許可証の方も何とかなりそうなんだ。」


「平民にとってはいい方向に進みそうな感じですね。」


「ああ。それで論文については複写しておいたから渡しておくよ。明日は無理だけど、3日後なら休みが取れるから分からないところがあれば聞いてほしい。内容を見るのに2日あれば大丈夫か?」


「ええ、この量であれば大丈夫だと思います。それじゃあ、これはまた後でゆっくり見させてもらいますね。」


 食事を楽しんだ後、二人と別れてから宿に戻る。


「なあ、なんかあの二人の距離が前と違う感じだったんだけど気のせいじゃないよな?」


 二人が座っているときの距離も近かったし、前はお互いにデリアン、カルアと呼んでいたのに、今はデル、カルと呼び合っていたからなあ。


「たぶんつきあい始めたんじゃないかしら?二人の雰囲気とか行動を見てたらバレバレじゃない。分からなかったの?」


「そ、そうなんだ・・・。」


「今回の調査で一緒に居ることも多かったと思うし、いろいろとあったんじゃないかな?気になるなら今度あったときに聞いてみたら?たぶんごまかしたりはしないと思うわよ。」




 翌日から二人のまとめた論文の確認を行った。二人の研究は古代文明の生活についてのことが主となっており、今回の調査結果と残っていた文章から当時の生活をいろいろと考察した内容になっていた。

 今回調査した遺跡はもともと地下にあったところで、地上に出ていたのは天井部分が崩れ落ちた後の部分だったと報告されている。地下での生活の注意書きなどが多数あったみたいで、それらの内容を考えると地上での生活だったとは考えられないようだった。

 生活の期間は数年に及んでいたみたいで、古代に起きた戦争から避難するためにそこに住んでいたのだろうという結論となっていた。

 ただそこでの生活がどのように終わったかは分からなかったみたい。設備が使えなくなって町を出たのか、あそこが崩壊してから出たのか、それともその前に町を出たのかなどは残っていた記述からは判断できなかったらしい。



 三日後に二人と会ったときに疑問に思ったことをいくつか質問すると、やはりまだ不明な箇所はいくつもあるらしく、今後も調査を進めていくつもりだと言っていた。



「そういえばお二人の呼び方がなんか変わっているようですけど、何かありました?」


「まあ、その、いろいろあってな。その・・・。」


「ちょっと、デルから言うって言ったんじゃないの!!」


「まあ、今はこいつと付き合っているんだ。一緒に話をしているうちにいろいろと世話を焼いてくれるようになってな。今は一緒に住んでいるんだよ。もう少し落ち着いたら結婚しようと考えているところなんだ。」


「そ、そうなんですね。おめでとうございます。カルアさん良かったですね。」


「あ、ありがとう。」


 お祝いにちょっと高級なところで夕食をおごってあげるとかなり恐縮していた。カルアさんはやっと長年の思いが伝わって良かったね。デリアンさんはよく分かっていなかったみたいだけど。



 翌日の朝に二人のお店に行って挨拶してから町を出る。何か新しい発見があったらまた連絡をしてくれるようなのでお願いしておいた。

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