213. 異世界1415日目 国からの脱出

 入国許可証の準備ができたというのでハーマン一家と一緒に移動することとなった。案内役のロンという人が車で先導してくれるんだが、途中で遺跡の保護と言うことで城壁とゲートがあった。このようなものを作っていると言うことはここの領主とも組んでやっているのだろう。

 そこを抜けた後、道がどんどんと細くなっていくんだが、先導車はかまわず走って行く。そして最後は壁に突っ込んでいき、壁の中に消えてしまった。


「ええ~~~。大丈夫!?」


 そういう悲鳴を聞きながら壁に当たるとすり抜けてしまった。事前に壁の中に入ると聞いていたけどかなり怖いなあ。どうやら幻覚魔法の魔道具で道を隠していたようだ。


 ここからの道はきちんと整備されており、途中に宿泊の為のスペースも造られていた。ちゃんとした魔獣よけの壁もあり、宿泊用の建物もあった。管理者もちゃんといるみたいなので夜もちゃんと眠ることはできるみたい。ただ食事の提供はないので持ってきたものを食べるしかない。子供達は「いつもの拠点の方がいいのに・・・」と文句を言っていたらしい。

 そこからさらに西へと進み、途中で同じ様な施設でもう一泊してからやっと古代遺跡の入口に到着した。



 入口で身分証明証とペンダント、入国証明証の確認をしてもらい、扉を開けてもらう。中はいかにもトンネルという感じで半円の形となっており、片側2車線くらいの大きさがあった。照明器具のようなものはあるが光は灯っていない。あと道路の下も空洞になっているようなので地球のトンネルと同じように丸く穴を掘った後でこの形にしたんだろうか?


「すごいですね。これがタイカン国までつながっているんですか?」


「ええ、一部崩壊していたところがあったのですが、今は補修も終了しています。魔法で補強も行っているので大丈夫なはずです。」


「壁にあるのは照明具のようですがさすがに壊れているのかな?あと道路の下にも通路があるみたいですがこっちの調査は行ったんですか?」


「よくわかりましたね。照明具は残念ながら壊れていますので移動中は車のライトが頼りとなります。いずれは照明をつけたいと考えていますけどね。

 あと道路の下の空洞についてはまだきっちりと調査は行っていません。思った以上に地面が固いので空洞に開けるのに時間がかかることと、危険はなさそうなのでこの通路を使うことを優先しているのです。」


「多分どっかに入口があると思うんですけどね。そのあたりの調査は行ったんですか?」


「一応行ったはずですが、まだ調査途中という感じですね。」


 うーん、普通は下に空洞があると、そこに入る通路が造られているはずなんだけどなあ?ちょっと待ってもらってから近くの探索を行うと、予想通り通路らしきものを発見する。


「多分ここから行くことができそうですね。」


 岩を取り除くと、通路のようなものが見つかった。


「まあ特に何があるわけではないと思いますが、わざわざ穴を開けなくても入り口はあると思いますよ。多分反対側とか途中にもあるはずです。」


 あっさりと入口を見つけたことで案内人のロンさんはかなり驚いていた。


「古代遺跡の資料にそのような説明があったのですか?」


「まあ、そんなところです。」


「あ、ありがとうございます。調査は後々やっていこうと思います。」



 車に乗り込み先導してもらってから走って行く。途中に魔獣が出ることもあるらしいが、出てきても初階位レベルなので車に乗っていれば気にならないだろうということだった。

 トンネルは曲がることもなく一直線なのはいいんだが、単調すぎて眠気が襲ってくる。途中でジェンやあとはデミルさんにも運転を代わってもらいながら一気に走って通路の反対側に到着する。さすがに距離があるので3時間もかかってしまったよ。

 こちらでも身分証明証などを確認されるようだ。ここでやっとタイカン国に入ることができたと言うことだ。まあここまでして何かされることは無いとは思うんだけど、気を抜くことはできないよな。

 ここから整備された道路を走り、途中にあった宿泊所に泊まる。やはりこちら側もまだあまり公にされていないのだろう。でもこの通路が公開されたらこのような宿泊所が町になるんだろうなあ。




 翌朝も出発してから少し走ったところでゲートになっていた。ここも遺跡調査のためのゲートとなっているようだ。

 そしてその日の夕方にタイカン側の町のロニアに到着。この町はこの通路が見つかってから秘密裏にできた町のようだが、かなり賑わっていた。


 まずは奴隷商人のところに行ってデミルさんたちの奴隷解放を行った。予定通り、デミルさんとカルーサさんの職業は冒険者となっていたので大丈夫だろう。

 それから役場に行ってデミルさんたちとともに冒険者の登録を済ませた。デミルさん達は休止申請をしていたので再登録となるが、デミルさんは良階位、カルーサさんは上階位のようだ。手続きには数日かかるようなのでしばらくはこの町に滞在するらしい。一緒に国籍の変更も行ってくれるようなので助かった。これでもう疑われる可能性も低くなるだろう。


 この日はデミルさんたちと一緒に夕食をとる。このあと自分たちは遺跡の調査に向かうため、これが最後となる可能性が高いためだ。

 デミルさんたちはしばらくこの国で冒険者として活動しながら平民の生活のリハビリをして、それからどうするか考えるらしい。もしかしたらこのままこの国にいるかもしれないし、場合によってはサビオニアに戻るかもしれないし、また他の国に行くかもしれないということだった。



~デミルSide~

 貴族としてこの国に戻ってきてからもう10年以上となる。他の国のことを知ってからいかにこの国がおかしいかと言うことがわかった。こんなことをやっていたらこの国は終わってしまうだろうと言うことを感じたが、この国の貴族はうちの両親を含めてそのようなことは考えていないようだった。

 貴族として領地を継いでから領地の改革に取りかかった。もちろん今後のことを考えて農業だけではなく、商売にも精を出した。

 この国の商売のやり方は遅れていたので他国の商売を参考にすることでうまく経営することができたのは良かった。おかげで領地の改善にも取りかかれたし、領民への負担を軽減できた。徐々に領民達も心を開いてくれるようになっていった。

 そして他の貴族達にも今後のことを話をしたが全く相手にしてくれなかった。何人か賛同してくれた人はいたが、大半の貴族達は笑って話していた。「あんなゴミみたいな奴らに何ができるんだ?」という答えだった。



 そしてそれは起こってしまった。

 気がついたのは役場の特別依頼だ。魔獣の発生状況も確認しなければならないため、依頼書はすべて確認していたんだが、その依頼書を見たときについにこの国は終わるのかと思ってしまった。

 依頼書は珍しい特別依頼ではあるが、誰でも受けることができる内容となっていた。調査依頼で報酬額も安いので受けようとする人間はほとんどいないだろう。よくある緊急性はないができる人がいればやってほしいという依頼だ。


 記録から消された過去の英雄タイラス・チャクシー。60年前にこの国を改革しようとし、平民達から絶大な支持を得たもと中位貴族だ。しかしその改革は失敗し、記録からはすべて抹消された。理想を掲げすぎたことと、やはり性急すぎたのが失敗の大きな要因だろう。

 しかしその精神は平民の間に生き続いていた。いつか意志を継ぐものが再びこの国を開放するために立ち上がる。そのときの合図はタイラス・チャクシーとなるだろう。

 そしてその依頼書について気がつかないものは気がつかないだろう。ただそれを意識しているもの達にはその依頼書の中に読むことができるはずだ。”タイラスの時が来た。”この依頼書はこの国全土に出されているだろう。

 東の国で反乱が起きたという話を聞いた。きっとこれが呼び水となりこの国全体にその反乱が広がるだろう。前の二の舞にならないために、密かに準備されていたはずだし、おそらくこのタイミングならできるという判断が出たためのあの指示だったと思う。


 予想通り革命の勢いは一気に広がった。我が領地も他人事ではない。変に戦渦に巻き込まれるよりも先に町を出て行った方がいいだろうと思い、信頼できる町のリーダーを呼んで話をした。

 ただ貴族という肩書きがある私は逃げることができないだろうと言われ、落ち着くまでは隠れていてくれと言われた。迷惑はかけたくなかったが、他に方法も見つからなかったので、町の外の建物で過ごすことにした。ここであればたとえ見つかっても町の住人には迷惑がかからないだろう。


 冒険者の時を思い出し魔獣を狩り、生活をしていた。時々町の住人が差し入れをしてくれたり、現在の情報を伝えてくれたりしたので特に困ることはなかった。しかししばらくしたところで革命軍と名乗る団体がやってきた。同行しているのは町の住人だ。前に不正行為で処罰したことを恨んでいたのかもしれない。

 このあとどうなるかわからないため、最後の挨拶をさせてもらうことにしたところ10分だけだと時間をもらえることになった。子供達に話をしていると、ドアが開いたのでもう時間になったのかと思ったんだが、入ってきたのは町の人と前に見たことのある冒険者だった。


 簡単に状況の説明を受けたんだが、私はこの二人のことを信じることにした。もし疑ったとしても他に選択肢がないからな。住人達は跪いて謝ってきたが別に恨んではいない。この国が良い方向に変わることを祈っておこう。



 移動中に彼らの話を聞いて驚いた。国から出る手段があるらしい。彼らも一緒に出るということなので彼らに任せることにした。途中の移動は思った以上に快適だった。車の進化にも驚いたが、彼らが用意してくれた拠点にも驚いた。


 オカロニアについてから革命軍の関係者と話をした。やはり爵位を持ったままだと国を出るのは厳しいらしい。このため奴隷に身分を落とすしかないと言われ、承諾する。そのくらいで出られるのなら文句はない。

 このあと町での生活は懐かしさを感じた。やはり私には貴族生活はあわなかったんだろう。ただ驚いたのはモクニク国に行くと思っていたんだが、行き先はタイカン国ということだ。詳細はまた説明してくれると言うことだったが・・・。



 このあと古代遺跡の連絡通路と言われるところを抜けてタイカン国に入った。こんな遺跡が残っていることには驚いたが、ジュンイチの知識にも驚くことになった。タイカン国の町で二人と別れることになった。お互い生きていたらまた会うこともあるだろう。


 冒険者時代の装備などはすべて残していたし、そのときの資金もまるごと残している。必要な荷物は冒険者時代に手に入れた収納バッグに入っているので当面の生活には問題ないだろう。貴族となってからも鍛錬は続けていたので良階位の魔獣は無理でも上階位の魔獣であれば十分に対応できるはずだ。

 しばらく冒険者業をしながら今後のことを考えていけばいいだろう。とりあえず子供達の教育のこともあるからしばらくは拠点を決めてやっていかないといけないからな。しかしこの後のことを考えると不安と言うより正直わくわくしてくるのはおかしいのだろうか?

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