195. 異世界1249日目 サビオニアの貴族

 町までは車で2時間ほどだったが、ペースが遅いのがちょっと面倒だった。途中でジェンと彼らのことについて話をする。


「どう思う?」


「うーん、なんとも言えないわねえ?見た感じは助けてくれたお礼をしたいから護衛と言う名目で町に連れて行こうとしている風にも思えるけど・・・通りすがりの冒険者を簡単に信用するってことがあるかしら?しかも平民でなくて貴族だからね。」


「小説みたいに助けてもらったから信用できる人というのはあり得ないからね。あの魔獣だって自分たちのせいだと思われてもおかしくないよ。」


「そうなのよね。ただあの女性は貴族という割には貴族らしくないというか、なんか雰囲気が違うのよね。子供達もそうだけど・・・。」


 たしかにそれは自分も感じたことだ。貴族と言うよりは平民という感じなのである。見初められて貴族に娶られたということもありうるか?でもこの国では平民と貴族が結婚することはかなり大変だという話は聞いたことがある。妾ならまだしも正妻と言うことは普通はあり得ないだろう。


「とりあえず警戒を怠らずにしておこう。へんな疑いをかけられたらいやだからね。最悪隠密の魔道具をすぐに使えるようにしておいた方がいいね。」


「わかったわ。」



 町に到着したところで分かれようとしてみるが、どうしてもお礼がしたいと言われてなかなか離してくれない。そのまま立ち去れば良かったかなあ?


 しょうがないので町に入ることになったが、彼女たちが一緒だったせいか、身分証明証だけで中に入ることができた。やはりこのあたりを治める貴族だったみたいでこの町に住んでいるようだ。

 貴族に関わる項目は見えないようにしたので特に何も言われることはなかった。職業で第一職業の場合は非表示にはできないが、2つめ以降の職業については非表示にできるようなのである。また賞罰についても犯罪歴などは隠せないが、褒章などについては隠すことができるようだったので必要が無いときは隠している。


 町の宿に案内されて今日は泊まっていくように言われてしまった。宿代は払ってくれるみたいなんだけど、ここ大丈夫だよね?まあいきなり領主の家に連れて行かれるよりはまだ納得できる話だけどね。夕方に改めてお礼に伺うと言っていた。


 町に入って思ったんだが、ここの町は結構活気があって住人の表情も明るい。宿の受付もかなり普通に対応していたのもちょっと驚きだ。領主の家族が来たら平民用の宿の従業員はかなり驚くと思うのに、丁寧ではあるが、普通に対応していたからなあ。



 時間もあるので町に出て買い物の時に話を聞いて見ると、領主がかなり善政を敷いているみたいで税金も他に比べるとかなり抑えてくれているようだ。その分の税金は領主が行っている事業で納めてくれているらしい。なかなか好感の持てる領主のようである。

 孤児院にも行ってみたが、結構きちんと経営されていて、子供達の表情も明るい。しかもちゃんと勉強まで行っていると聞いて驚いた。

 特に治療の必要な人はいないようだったが、食料関係について少し寄付していくことにした。さすがに肉はあまり食べられなかったらしく、かなり喜んでいた。


 かなり良い領主のようだが、あと数年で領主が変わるという話が出ているらしい。細かい話はわからないが、今の領主の親戚に領主が変わるみたいで、どういう統治になるのかかなり不安らしい。

 ちなみに今の領主はもともと先代の三男だったらしく、家を出て冒険者として活動していたようだ。しかし上の二人の兄が病気で亡くなったため、後を引き継ぐことになったようだ。奥さんは冒険者として活動していたときに結婚した他国の人らしく、彼女も冒険者だったようだ。その話を聞いてさっきまで持っていた違和感が払拭された。それでちょっと違和感があったんだな。



 夕食の後、宿に戻ってからしばらく寛いでいると訪問客がやってきたと連絡が入った。ロビーに行くと、個室に案内される。中にいたのは先ほどの女性と夫と思われる男性、護衛が二人だ。男性と護衛は自分たちと同じくらいのレベルはありそうだが、何かあっても逃げることはできるだろう。


「この辺り一帯を管理している下位爵のデミル・ハーマンだ。今日は妻と子供達が危ないところを助けていただいたようでお礼に伺った。」


「はじめまして。アースというパーティを組んでいるジュンイチとジェニファーです。わざわざ申し訳ありません。」


「今回はいろいろと手助けしてくれてすまなかった。お礼としては少額かもしれんが、これを受け取ってくれ。」


 お金が入っていると思われる小袋を出してきた。


「いえ、お礼をもらうために助けたわけでもありませんし、特に被害も無かったので必要ありませんよ。」


「お金ではなく、護衛として雇ってほしいというのが本音というところか?すまんが、そのような余裕は我が家にはないし、さすがに誰かの紹介もないものを護衛と雇うことはできないぞ。」


「あなた・・・。」


 どういうことなんだ?やっぱり考えていたようなことをやったと思っているのだろうか?


「えっと。」


「申し訳ありません。夫があなたたちがあの魔獣を仕込んだと疑っているようでして、止めたのですが・・・。」


「いえ、そう疑われても仕方がありません。自分たちもあそこに集団蜂がいたのが不自然に思いましたから。近くに他の冒険者と思われる気配を感じたので、もしかしたらそのような人がいたのかもしれません。」


「そのような考えはないといいたいのだな。」


「ええ、もともとこの町にも寄るつもりはありませんでしたし、不快なのであればすぐにも出発しますよ。ご存じかと思いますが自分たちはこの国のものでもありませんし、この国に住むつもりもありません。これでも一応爵位を持っていますのでわざわざそのようなことをしようとも思いません。」


 そう言ってペンダントを見せるとかなり驚いて頭を下げてきた。


「も、申し訳ありません。中位爵を持っている方達とは思いませんでした。」


「いえ、気にしなくていいですよ。爵位と言っても褒章による爵位相当ですし、中位爵ではなく下位爵なのでかしこまる必要はありません。」


 とりあえず一応は誤解も解けたようなので少し話をすることになった。


 デミルさんは貴族を継げないこともあり、冒険者として生活していたようだ。この国を出てホクサイ大陸に行ったことでそれまでの価値観がすべて変わってしまったらしく、そこで知り合った同じ冒険者の奥さんと結婚したようだ。

 その後、兄たちが亡くなったと聞いて仕方なく領地に戻って領主としての教育を受け、10年前に領主となったようだ。両親は最初は妻のことを認めていなかったが、それだけは譲れないと断固として受け入れなかったこともあり、最後は諦めたらしい。その両親も8年前に他界したそうだ。

 こっちに戻ってきてから子供ができたが、子供が成人するのを待ってホクサイ大陸に移住しようと考えているみたい。やはり子供達に余計な苦労をさせたくないというのが本音らしく、貴族としての生活には未練が無いようだ。このため最低限の貴族としての教育はしているが、他の国での価値観や考え方を教えているそうだ。


 ちなみに昼食の時に魔獣に襲われたのはかなりいきなりだったらしく、索敵をしていたのに魔獣が急に現れたのでおかしいと思っていたようだ。ちなみに奥さんは索敵の能力はそこそこ高いみたいで、近くにいた人達のことはわかっていたようだ。

 魔獣を気絶させるとかして持ち運んで襲わせて、魔獣の仕業に見せかけた盗賊だったのかもしれないと考えているようだ。そのあと自分たちが通りかかって助けてくれたことから、親切で助けてくれた人達だと思ったようだ。

 「こんなことならちゃんと装備をしておけば私も戦えたのに!」と言っていたのは勇ましかった。まあいくら技量があっても装備が全くない状態で戦うのは危険すぎるからね。



 思ったよりもいろいろと話をしたせいで結構遅くなってしまった。明日の朝には出発することを伝えて見送りをする。

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