142. 異世界701日目 狩り三昧

 年始の休みが終わった翌々日、知り合いに見送られてオカニウムの町を出発した。前のこともあるので、今回はそれほど深刻にはならず、また今度来るときには絶対に顔を出してねという感じだった。ジェンはこっそり何か言われていたけど何だろうな?



 今回行くのは東にあるトルイサという町だ。まだこの時期は雪が残っていることもあるのでサクラに行くのはあきらめて、しばらくはこの町で狩りをしながら滞在する予定だ。


 6日ほど車を走らせてトルイサの町に到着。ここはまだ新しい町で魔獣の出現率が高いところなので冒険者が来るのは歓迎されている。今まで行ったことのある前線基地が発展したようなところだ。

 到着したのが昼過ぎだったのでまずは宿の予約へ。事前に聞いていた宿に行くと、900ドールと安いんだが食事はついていなかった。まあこのあたりはしょうが無いだろう。


 このあと役場で登録手続きをしてから資料を確認する。とりあえず対象は上階位と可能な場合は良階位の魔獣も倒してみたい。


 オカニウムやアーマトから来ている人もいるみたいなので、もしかしたら知っている人もいるかもしれない。話を聞く限りでは変な絡みなどはないみたいなので大丈夫と思いたい。




 翌日朝一で町を出てから山の方へと向かう。町の近くはやはり冒険者が多いので少し離れたところに拠点を立てて狩りをした方が効率良さそうだ。定期的に町に戻ってくればいいだろう。



 町から車で1時間ほど走ったあたりで狩りをすることにした。拠点を建てる場所は大体目星をつけたのでギリギリまで狩りをすることはできそうだ。山が迫ってきているところなので、壁に沿って行けば奇襲を受けることも少ないだろう。



 ターゲットの上階位の魔獣は牙兎、銀狼、大山猫、牙猪、大角牛、大熊、巨蛇、毒大蜥蜴という感じで、あとこのあたりで狩れそうな良階位は下位の金属蜥蜴、金属蠍くらいか?中位の巨猪とか巨角牛とかはやっぱりきついかなあ?


 前と同じように訓練を兼ねて退治していくのでペースはあまりよくないのは仕方が無い。ただしそれほど多くないが、金属製の魔獣の金属蜥蜴や金属蠍も見つけることができたので、これは雷魔法を駆使して倒した。さすがに普通に戦ったらミスリルの剣も傷みが早そうだからね。


 雨のときはそのまま訓練をしたり、町に戻ったりしていた。町にいるときは他の冒険者と一緒に訓練をしたりもした。魔法についてもやっとレベルが上がりだしていたのでやる気も出てきたからね。

 他にも鍛冶や調合、付与魔法などもやっていると、正直時間が足りないくらいだ。まあいろいろなことに手を出しすぎているせいもあるんだけどね。


 金属系の魔獣の素材は役場でも買い取り対象になっていたのでポイント稼ぎにはよかった。やっぱり需要が多いんだろうね。このあたりはそれほど姿がないみたいなので余計に貴重だったみたいだ。

 何回か納めていると特別依頼が出ているといわれて依頼を受けることになった。期限は長いんだが、やはりなかなか数が集まらないらしく困っていたようだ。今回も1匹まるごとの納品を頼まれたのでかなりの収入になった。




 町に戻ったときに見たことのある人がいると思ったらユータとカナだった。久しぶりに再会できたので一緒に食事に行くことにした。

 二人はアーマトでしばらく狩りをしていたが、1年ほど前にこっちに移ってきたようだ。今は上階位を目指して頑張っているところらしい。自分たちが上階位になっていることを聞いて驚いていたが、特に嫉妬するわけでもなく、いろいろと質問される。戦い方のスタンスが自分たちに近いのでかなり参考になるらしい。

 そして自分たちを目標にすると言われてちょっと照れてしまったよ。もっと有名な人を目標にしてほしいと言っても、よく知らない人を目標にするよりは知っている人を目標にした方がいいからねと言われては仕方が無い。


 驚いたことにすでに結婚しており、結局パーティーメンバーは募集せずに二人でやることに決めて頑張っているようだ。前に話したように魔法を補助で使いながらの戦闘を行っているらしい。


 このあとも何度か一緒に訓練をしたり、食事をしたりしていたんだが、カナは治癒魔法も少し勉強しているみたいだった。こっそり鑑定させてもらうと、医学スキルがすでについていたので治癒魔法について教えてあげることにした。

 ある程度要領を教えたところで、一回は教会に行った方がいいと言うことでやってみたところ、無事に治癒魔法を覚えることができたようだ。そのあともいろいろと教えてあげると回復魔法も覚えることができた。治癒魔法を覚えると薬代がかからなくなるのでかなり助かるんだよね。


 重量軽減バッグを購入するか悩んでいるようだったので、今は使わなくなったのでといってサンプルで持っていた重量軽減バッグを渡すことにした。かなり遠慮していたけど、結婚祝いだと言ってなんとか受け取ってくれた。実は今売り出しているものよりも性能が高いものなんだけどね。70%くらい重量軽減できるはずなので従来の三倍の荷物が持てるようになっているはずだ。




 結局良階位については金属蠍や金属蜥蜴だけでなく、蹴兎、鉄蜘蛛、巨大蜘蛛を狩ることができた。少しは上達しているってことなのかな?

 良階位の魔獣の多くは知能が高いし、魔法耐性が高いことと魔法を使ってくるのが怖いところだ。魔法を使われるとなかなか近づけないからね。こちらを見つけて突撃してくるわけでもなく、魔法攻撃で牽制したりしてくるからなあ。

 蹴兎は風魔法を使うし、かなりの速度で攻撃してくるので怖かった。先に見つけることができて魔法で先制攻撃をしたあと、収納魔法の盾で防御できたからいいけど、やはり速度の速い魔獣は怖い。まだ体がそれほど硬くなかったからいいけど、ミスリルじゃなかったら今の技量じゃ危なかったかもしれない。慣れてくると動きを読んで倒せるらしいけどね。

 鉄蜘蛛は50cm位の大きさの蜘蛛なんだが魔法が効いたのでまだよかった。金属系には雷魔法を使えるのはかなり大きいね。他の魔法はほとんど効かないみたいだし、体も硬いのでひっくり返せなければ倒すこともできない。通常は手足や尻尾を切り落として動けなくしてからとどめを刺すらしいからね。かなりの武器じゃないと甲羅への攻撃は無理らしいし。

 巨大蜘蛛は1mくらいの蜘蛛なんだが、とりあえず見た目が怖い。隠密のレベルが高いのか、頭上からいきなり襲ってくるのがかなり危ない。索敵で見つけられたからいいけどね。こちらもかなり堅くなってきていてなかなか剣の攻撃が通らない。魔法と剣の攻撃で少しずつ攻撃することでなんとかなった。

 良階位の魔獣は1匹ずつなら何とかなっているけど、2匹以上だったら今のところ逃げるしかない。索敵の能力は結構広いのでまだなんとかなっている感じだ。



 戦闘に使う魔法はやっぱり限られてくるのは仕方が無い。火魔法はやっぱり狩りには使いづらい。素材がかなりだめになるからね。結局使うのは風魔法の風斬、水魔法の水弾、雷魔法の雷撃がメインとなってくる。防御系に関しては土壁、水盾、風盾がメインだ。あとは次元魔法に収納している盾だな。

 ただ殺傷能力を重視した火魔法の火弾や氷魔法の氷矢、複合魔法の爆発も練習はしている。いざというときには素材なんか気にしていられないからね。なので良階位の魔獣を狩っても素材の買取額は低くなってしまう。



 気がつくとこの世界にやってきて2年が経過していた。この1年はほんとにいろいろなことがあったよなあ。

 せっかくなのでジェンとの出会いの記念に買っておいたケーキでお祝いをした。ジェンは最初よくわかっていなくて「なにかあったの?」って言っていたけどね。日付を言うと「ああっ!!」と叫び声を上げていた。拠点なので酔っ払うわけにはいかないけど、せっかくなのでシャンパンのようなものを開けて飲むことにした。



 1ヶ月ちょっとここで狩りをしてからそろそろ雪もなくなってきたと言うことでアーマトの町へと向かう。アーマトの町は5日ほどで到着できた。



~ユータSide~

 トルイサの町に来てからもうすぐ1年になる。アーマトの町で冒険者をやっていたんだけど、やっぱり家にいると甘えが出てしまうのかなかなか成長ができないと感じたのでカナと話をして町を出ることにしたんだ。

 親には反対されたんだが、無茶はしないことを約束することで町を出ることは認めてくれた。ただその前に結婚だけはしておけと言われ、お互いの家族に祝福されて結婚することになった。本当はもっと一人前になってからしたかったんだけど仕方がない。カナともいずれ結婚するという話はしていたからね。



 こっちに来てからやっぱり生活はかなり厳しかった。宿もかなり安いところを一部屋借りていたんだが、それでも毎日食べるので精一杯だった。しばらくするとそれでもなんとか少しは貯蓄できるくらいにはなってきた。カナが今勉強している治癒魔法を覚えることができたらもっと生活は楽になると思う。


 役場に行くと見たことのある人がいたので誰かと思ったらジュンイチとジェニファーだった。かなり立派な防具を身につけていたので一瞬わからなかったけど、間違いないみたいだ。向こうもこちらに気がついて声をかけてきた。

 久しぶりだったので一緒に夕食を食べようと言われて一緒に行くことにした。最近は自炊ばかりだったんだが、たまにはいいだろうとカナと話をした。


 驚いたことに二人はもう上階位になっていた。しかも他の国まで遠征してきたらしい。嫉妬するよりも憧れの気持ちの方が強かった。ほとんど同じ頃に冒険者になって、こんなになることができるんだと思った。高階位の人間がおごるもんだよと言って食事代は出してくれたのはありがたかった。


 前にも色々と助言をしてもらったんだけど、今回も色々と戦い方について助言をもらうことができた。その後も何度か会ったときに一緒に訓練をしてもらったんだけど、やっぱり技量にかなりの差がついていた。

 驚いたのはカナに治癒魔法を教えてくれたことだ。教会には行くように言われたんだけど、お金もかかるのである程度基礎的なことを教えてもらったおかげで1回の講習で治癒魔法を使うことができたようだ。そのあともいろいろと助言をもらい、なんと回復魔法も使えるようになった。

 カナは教会で習うよりもすごくわかりやすかったと言っていた。後は医学の勉強をして治療するイメージをしっかりすればもっといろいろな治療ができると言われているようだ。中級治癒魔法まで使えるようになればかなりいいよと言われて頑張っている。ただたとえ使えるようになってもあまり口外しない方がいいと言われる。きっと二人は中級治癒魔法を使えるのだろう。


 あと、最近購入を考えていた重量軽減バッグなんだけど、これを2つ譲ってくれた。さすがにこれは断ろうとしたんだけど、結婚祝い代わりに受け取ってくれと言われてもらうことにした。どうやら収納バッグを借りることができているので今は使っていないと言うことだった。これだけでも収入にかなり差が出るのでとてもありがたかった。

 そのあと狩りの時に使ってみると、かなり楽になって助かった。なんか聞いていたよりもさらに軽い感じで移動中の疲労も抑えられるし、素材はほとんど全部持って帰れるようになったし、とても助かった。


 1ヶ月くらいで町を出て行ったが、本当に今回色々と勉強させてもらった。すぐには難しいかもしれないけど、いい目標ができたと思っている。


 しばらくしたあと、新しい重量軽減バッグを自慢していた冒険者にそれを見せてもらったんだけど、自分たちが持っているものと同じくらいの性能だった。改めて確認してみると、確かに重量が三分の一くらいになっていた。

 余っていたと言っていたけど、どう考えても購入したものだよね?一つ1万2千ドールと言っていたから二つで2万4千ドール。今の2ヶ月近くの稼ぎだ。いつか必ず恩返ししよう。



~魔獣紹介~

蹴兎

良階位中位の魔獣。森や草原、山岳地帯などあらゆる場所に穴を掘って生活している。牙兎が進化した魔獣で、後ろ足がかなり大きくなっている。耳が大きく、音に敏感なため、先に見つけるのは難しい。

獲物を見つけると一気に突進してきて、大きな後ろ足で攻撃してくる。後ろ足には鋭い爪もあり、打撃だけでなく、裂傷にも注意が必要。動きが素早く、攻撃を当てることが難しいが、動きが直線的なので軌道を読んで攻撃することが有効となる。魔法は効きにくく、風魔法も使ってくるので注意が必要。

素材としての買い取り対象は肉と毛皮となるが、毛皮の需要は高く、特に傷の少ないものは珍重される。

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