137. 異世界663日目 龍を見学

 祭りの翌日からそうそうに町を出発して車を走らせて東へと向かう。チルトに近づくとそれなりに魔獣が出てくるのでちょっと危ない。まあ出てくると言っても並レベルくらいなので問題は無いけどね。


 街道の整備があまり良くなくて速度を出しにくいことと、魔獣の対応のため距離の割には思ったよりも時間がかかり、8日目の昼前にチルトに到着する。

 チルトの町は前線基地という感じでかなり高い城壁に囲まれたところだった。まあ何かの時に龍に襲われる可能性もあるわけだし、魔獣の出る森も他の町に比べると近いみたいだからね。


 到着してからまずは役場に行って神龍のことについて確認をする。ここから少し山の方に行ったところに展望台のようなところがあって、そこから龍の見学ができるようだ。今はちょうど見えるところに来ているという話だった。

 距離的には今からでも十分日帰りができる範囲らしいが、途中に魔獣がいるので自分で討伐できないのであればツアーに参加するほうがいいと言われる。出てくる魔獣は並くらいまでなので特にいらないかな?

 チルトの町は神龍の見学の人も結構来ているみたいで、宿はかなり多いんだが、その分値段も結構高い。町の規模はそこまでないんだが、ツインの部屋で首都と同じく1200ドールとなった。



 町から展望台までは道は一本なので迷うことはないようだ。ただ深い森を切り開いたところなので魔獣には注意しなければならないらしい。あまり大きな道を造ると龍を刺激しかねないのでこのようになったようだ。


 車だと走れないので、走って行くことになるが、特に問題は無い。でもこうやって走って移動するのは久しぶりだな。前は走って移動するのが普通だったからねえ。

 途中で魔獣を狩りながら走って行くが、出てくるのは山猫や牙豹、大角兎くらいだ。牙豹はこっちでしか見ない魔獣だな。これらは毛皮がそれなりの値段になるので後で綺麗に捌いておかなければならない。新しい魔獣を捌かないと解体のスキルも上がらないからね。ヤーマンに戻る前にこっちでもしばらく狩りをした方がいいかもしれないな。

 時間も惜しいので魔獣はすべて収納バッグに入れていく。こういうときには便利だよね。捨てていくのは素材ももったいないからね。




 30分ほど走ったところで展望台のような物が見えてきた。龍の住処はこの奥にある山なんだが、山は断崖絶壁となっているので、龍の住処に行くには断崖を登るか、深い森を抜けていかない限りはこの展望台を抜けていかなければならないようだ。展望台では12時間常に見張りが立って不法侵入がないように見張っているらしい。まあ過去の経験からちょっかいを出す人間はいないらしいけどね。


 展望台は観光地となっているみたいで、塔に登るのは有料となっていた。一人300ドールと結構な値段だ。ツアーだったら護衛代もとられるのでかなりの金額になりそうだ。


 見学の時には案内がつくみたいで、他にやってきていた人たちと一緒に塔に登っていくことになった。


「ツアーになっていますが、あくまでここは監視をする見張り台です。決して勝手な行動はとらないようにお願いします。また今から行くところ以外には入らないようにしてください。

もし違反した方がいた場合、本当に牢屋行きになりますので注意してくださいね。これは冗談ではありませんからね。」


 ガイドさんから何度も注意が入った。まあ前線基地のようなところだからほんとに何かあったら捕まってしまうだろうね。

 途中でこの塔や神龍についての説明をしてくれた。


「遙か昔、神龍は魔獣という扱いでした。倒せば大きな名声が得られる、とてつもない魔獣石が手に入る、龍のためた宝が手に入るというようなことで何度か討伐隊が組織されました。もちろんすべて撃退され、そのたびに大きな被害を受けていました。

 あまりに大規模な討伐が行われたときにはその報復で、国が滅びてしまったこともあるそうです。このタイガ国の前の国のスライン国がまさしくそうでした。またその力を国の力であると偽って他の国を制圧しようとした国もありましたが、そのような国はその後龍に滅ぼされています。

 今から300年ほど前にタイガ国が建国されたとき、魔獣扱いであった龍を神龍と呼びあがめることとなりました。それに伴い、この塔を建設し、討伐しようとするものが入らないように見張ることとなったのです。これにより神龍は人を襲うこともなくなり、平和な時代が続きました。


 しかしながら今から150年前にハクセン国より侵攻を受けタイガ国は滅亡の危機となりました。その際にハクセン国はこの神龍にも目をつけ討伐をもくろみました。しかし神龍の力により兵士は全滅し、さらに遠征に来ていた他のハクセンの兵士達の多くが撃たれたのです。

 このときタイガ国の兵士にも若干の被害は出たようですが、多くのタイガ国の兵士は被害を免れました。このおかげでタイガ国はハクセン国を追い出すことができ、ハクセン国と不可侵の条約を結ぶこととなりました。

 残念ながら対等の条約ではありませんでしたが、神龍のいるタイガ国への恐怖心から現在でもハクセン国からはタイガ国に王族の方が来ることはあまりありません。

 このためタイガ国はさらに神龍への信仰を集め、現在はこのように神龍が安心して過ごせるように見張っているのです。」



 塔の上に来ると案内に龍のいる方向が示されていた。


「いつも姿を見せてくれるわけではありませんが、今は運がいいことに姿が見えるところで休んでいます。」


 言われた山の方を見てみるが、さすがによくわからない。すぐ横に遠見の魔道具があったのでそれで覗いてみる。望遠鏡ではなく、魔力で遠くを見る物のようだ。望遠鏡は開発されていないのかな?

 山の中腹のあたりの大きな岩場の上に龍のような姿を見ることができた。巣の中にうずくまっているので全体の姿は見えないが、うろこではなく毛に覆われている感じだ。龍の顔を見ていると、目が開いて緑の瞳が見えた。綺麗だねえ・・・。なんかこっちをにらまれている感じだけど大丈夫だよね?


「龍の目が開いていたので起きていたのでしょう。普段はこちらに目を向けることもないのですが、今日はどうしたんでしょうね。もしかしてどなたか何か悪いことでもしましたか?」


 ガイドの人がそう冗談で言ってきたんだけど、まさか異世界から来たから気になったって言うことはないよね?


「運がよければ飛んでいる姿を見ることもできますが、見ることができるのはかなり運がいい人だけですね。」


 そういったところで龍が立ち上がり、飛び立った。


「うわ~~~~!!!」


 あたりで歓声が上がる。


 全体の大きさがよくわからないが、ここから肉眼で見えるくらいだからかなり大きいのだろう。体は結構長いが、祭りの時の模型のように全身が白い毛で覆われているみたいで、顔つきは狼のような感じだ。なんか昔見た果てしない物語に出てきたドラゴンみたいな感じだな。


 少し空中を浮遊した後、山の奥へと消えていった。


「みなさんほんとに運がよかったですね。この国でも飛ぶ姿を見ることができた人はかなり少ないのですよ。飛んでいる姿を見たと言ったらうらやましがられると思いますよ。

 今回の訪問の記念証明をご購入いただければ、飛翔した姿を見たという証明も一緒にお出しすることができますよ。1枚200ドールで、証明証付きだと300ドールとなりますが、せっかくの記念にどうですか?」


 商魂たくましいな。でもせっかくだから買っておこう。他の人もほとんどが購入しているようだった。それだけ飛んでいる姿を見たというのは自慢になるのだろう。


 案内の人に魔獣の狩りをする場合の話を聞いて見た。この塔の奥は神龍の生息地となるため、魔獣の狩りは禁止されているようだ。狩りをするならチルト町の北の森の方に行くように進められる。




 見学を終えてから町に戻るとすでに夕方となっていた。町には観光客と思われる団体や兵士の姿が結構多い。それだけ見張りに人を使っているのかもしれない。まあ国が滅ぼされるのを救ってくれた訳だしね。


 夕食は宿の近くにあるお店に入ると神龍定食とかいうメニューとかがあったんだけどいいのか?せっかくだから食べたけど、唐揚げ定食という感じだった。なにが神龍なのかよくわからない。蜥蜴の肉だったのかな?



 宿に戻ってからジェンと少し話をする。


「ここ最近まともに狩りをしてないからここで少し狩りをしていこうと思っているんだ。」


「たしかにそうね。最近は冒険者カードの維持のために少し狩りをしたくらいだったわね。」


「こっちしかいない魔獣を中心に狩りをしてみようかと思っているんだけど、できれば年内にヤーマンには戻りたいので結構期間的に厳しいかもしれないね。」


「まあ、そのときはまた考えればいいでしょ。とりあえずはやれるだけやってみましょう。」


「うん。そのあと4月にはサクラに戻らないといけないけど、雪解けとか確認しながら北上していくことになると思うよ。」


 とりあえず大体の方針を決めたところに眠りにつく。




 宿で朝食をとってから準備をして早々に出発する。狩り場までは日帰りで十分行けそうなので宿は連泊にしておいた。


 狩ったことのない魔獣は初階位の魔猫、土蛙、並階位の魔豹、牙豹、魔鹿、岩蛙、上階位の大牙豹といったところだ。ただ豹関係はあまり見つからないらしいのでどこまで見つけることができるかがネックだな。収入はあった方がいいけど、まずは倒したことのない魔獣を狩るのを優先だ。



 北の森までは走って30分ほどで到着。このあたりまでやってきている冒険者は少ないみたいで魔獣の数はそれなりに多い。冒険者だけで討伐が間に合わず、兵士がやっていることも多いみたいだしね。


 まずは森の周辺から索敵して魔獣を倒していく。さすがにこのあたりの魔獣だと特に問題なく倒していくことができる。

 豹関係は隠密のスキルを持っているみたいで索敵しにくいが、索敵レベルも3まで上がっているのでまだ大丈夫だ。解体は後回しにしてからまずは見つけた魔獣を片っ端から狩っていく。今回は訓練よりは殲滅速度を優先なので魔法もどんどん使っていく。


 さすがにミスリルの剣は前に使っていた鋼の剣とは切れ味が違う。重さは前の鋼の剣よりは若干軽くなったんだが、手になじむ重さだ。重い方が威力は増すんだけど、その分扱いにくいしね。骨があっても結構すっぱりと切れてくれるのはありがたい。


 ジェンの短剣の重さはあまりかわらなかったみたいだが、やはり切れ味がよくなっていい感じらしい。切った後の切り口を見ると一目瞭然だ。しかもミスリルは切れ味が悪くなりにくいのでその点も助かる。


 さすがに大牙豹は体躯が結構大きくて結構驚いた。牙豹までは猫といった感じだったのに、いきなり地球の豹レベルになるんだもんなあ。最初に風魔法でダメージを与えたのでいいけど、最初はちょっと怖かったよ。


 一応交代で前衛を務めながら森の奥へと入っていき、日が傾いてきたところで町の近くの川に移動してから魔獣を解体する。初めての魔獣は自動で解体はできないので数をこなさなければならない。まあ1週間も狩りをすればなんとか自動解体ができるようになるかな?


 解体が終わった後は浄化魔法で綺麗にしてから町に戻る。素材関係はここよりも他の町の方がいい値段がつくみたいなので売るのはやめておいた。まあ収納バッグにはまだまだ余裕があるから大丈夫だろう。


 町の戻った後は装備の手入れをするが、防具とかの調整や修理も簡単にできるようになっているので助かる。まあ本格的な作業は道具を出さないとできないので無理だがそれでも今までよりもきちんと整備できるので装備の持ちが変わってくるからね。



 翌日からも同じように狩りをしていたんだが、一度空から魔獣に襲われそうになって焦ってしまった。索敵はさすがに上方向には行っていないので気がついたときにはかなり近くまでやってきていた。先にジェンが気付いて攻撃してくれたからよかったが、肩をかすめてしまった。

 すぐに風斬と水弾で攻撃すると、運良く当たってくれて地面に落ちてきたので大慌てでとどめを刺す。襲ってきたのは魔鷹という良階位の魔獣である。よく倒せたな。

 良階位ではあるが、今のような不意打ちをするためにやっかいな魔獣とされているが、ちゃんと落ち着いて戦うことができれば上階位とそこまで強さに差がないものらしい。この攻撃を受けてから索敵の範囲を面ではなく、球体に変えることにした。このため索敵範囲が狭くなってしまうのはしょうが無いところだ。



 朝から晩まで狩りを続け、9日目になんとか目標の自動解体ができるようになった。ただやはりレベルは4にはなかなか上がってくれない。まあ魔獣の解体回数が絶対的に足りていないんだろうけどしょうが無いよね。

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