133. 異世界651日目 鍛冶に挑戦

 1ヶ月ほどしてやっと注文の武器ができあがった。できたものはかなりの出来映えで満足している。付与魔法も結構つけてもらえたので十分だ。手になじむ感じもあっていい。


名称:ミスリルの剣(良)

詳細:ミスリルで鍛え上げられた剣。製品の強度が30%向上する。製品の切れ味が30%向上する。

品質:良

耐久性:良

効果:良

効力:強度向上-3、鋭利向上-3


名称:ミスリルの短剣(良)

詳細:ミスリルで鍛え上げられた短剣。製品の強度が30%向上する。製品の切れ味が30%向上する。

品質:良

耐久性:良

効果:良

効力:強度向上-3、鋭利向上-3



 値段はそれぞれ480万ドールと360万ドールともちろん結構な額だったんだが、かなりできもいいし、細かく調整までしてもらってこの値段だったから安かったのではないかと思っている。正直優階位の冒険者でも使っているレベルのものだからね。


「おい!!気に入ってくれたのはいいんだが、卒業試験は大丈夫なのか?」


「あ、カルマさん、すみません。頑張ります!!」


 今日は鍛治がちゃんとできるかどうかの試験をやってもらうことになっているので頑張らないといけないんだが、完成した武器を見せてもらってちょっと気がそれてしまい怒られてしまった。

 やっぱりこのレベルにはまだまだだなあと改めて考えさせられるが、まあ当たり前だな。たかだか1ヶ月やった人間に追いつかれたら立場がないもんね。




 1ヶ月ほど前に、泊まっていた貴族用の宿から鍛冶屋の近くの平民用の宿に移り、約束の朝から鍛冶屋を訪問した。すでに準備はしていてくれていて、すぐに職場の人たちに紹介され、まずは簡単な手伝いから取りかかった。

 いきなり作業をするわけではなく、まずは炉の管理方法など覚えなければならなかったが、事前に知識だけはあったのでまだよかったけどね。なかったらこのあたりを覚えるだけでも結構時間を費やしていたと思う。


 一通りの作業ができるようになった頃から少し鍛冶のやり方を習い始めた。教えてくれるのはこの鍛冶屋のベテランのムニワさんだ。他にも3人が弟子として働いており、そのうちの一人はまだ働き始めて1年くらいらしい。

 ある程度知識はあったつもりだったんだけど、やっぱり聞くのとやるのでは大違いだった。また暑くて熱いので熱を遮る魔法を使おうかと思ったんだが、熱を感じなければ温度の調整ができないだろうと言われて怒られた。このため冬になっているのに暑くてしゃれにならなかったという・・・。


 鍛冶は熱した金属をただ打つだけではなく、魔力を調整しながら金属に練り込んでいくという感じだ。これにより強度が上がるだけでなく、魔力が通りやすくなり、付与魔法も浸透しやすくなるようで、これが鋳造したものとの違いとなる。

 上位の金属になればなるほど、練り込む魔力の調整が難しくなるため、技量の劣る者が上のクラスの素材を鍛えてもあまり意味が無いらしい。たとえ形になったとしてもグレードの低い物になってしまうみたいだ。


 木製の道具についても木槌で魔力を込めながらたたいたり、道具で削ったりして調整していくようだ。ただ弓は別の技術がいるらしく、ここでは教えてもらうことができなかった。



 手伝いを兼ねているので、昼までは準備や雑用に追われるので作業ができるようになるのは昼を過ぎてからだ。最初はある程度やり方を見せてもらい、一通りの工程を確認したところで鉄を使っての鍛冶をやり始めた。

 他の金属や木材でもいいし、鉄を正式に使えるようになるのはスキルがついた後なんだが、練習や鍛錬には一番需要が高い鉄でやるのが効果的と言うことで鉄を使うらしい。

 ジェンと一緒にハンマーをふるって武器を鍛え上げていく。もちろんいきなりうまくいくわけではないので、何度も何度もやり直すことになるが、やっていくと徐々にコツもわかってくる。加護の恩恵もあるのだろう。



 やはり鍛冶の仕事は男が多いため、ジェンはすぐに人気者になった。ここのお店の人だけでなく近くのお店からも注目を集めていたみたいで、帰り道とかでも食事に誘われたり声をかけられたりすることがしばしばあった。

 もちろん自分も一緒にいるんだが、見えてないように振る舞われるのはちょっと悲しくなる。しかも断られるとこっちをにらんでいくからたちが悪い。同じ宿どころか同じ部屋に泊まっているとばれた後はかなり怖かったよ。




 毎日頑張っていたせいもあり、最初の1週間で鍛冶のスキルがつき、さらに3週間でスキルレベルが2に上がった。なんとか鉄まではうまく魔力を練り込むことができるようになったので鋼にも挑戦してみたが、やはりなかなか難しい。それでも少しは取り扱うことができるようになったのでうれしかった。

 さすがに短期間でここまでできるようになったことにカルマさんやムニワさんも驚いていた。一番若いタレンダさんが最近になって鋼を鍛えられるようになったと喜んでいたらしく、すぐに追いつかれてかなり落ち込んでいたようだ。やはり事前に鍛冶の知識については習得していたことと、加護の恩恵が大きいのだろう。



 最初に武器ができても鉄の鍛錬がちゃんとできるまではやっていくように言われていたので、その技能についての確認が今回の卒業試験なのである。


 数日前から弓以外の一通りの装備について造らされている。金属は鉄、木製の物は硬樹といわれる種類の木材、革製品は牙猪の革を使っている。今日は付与魔法まで入れており、最後の仕上げを済ませてなんとか完成することができた。

 できた物を自分で鑑定してみると、品質、耐久性、効果ともに高レベルのものが多いが、品質と耐久性だけは並レベルのものがときどき混じってしまっている。ただ本体のレベルとしては高レベルと出るのでとりあえず大丈夫かな?まあほんとは全部が高となっておかないとだめなんだろうけど。


 カルマさんだけでなく、他の人達から確認をしてもらう間はかなり緊張してしまった。しばらく装備の確認を終えた後、打ち合わせが行われる。しばらくしてカルマさんがやってきた。


「よくがんばった。合格だ。」


「「やった~~~!!」」


「ただし、合格ラインは達成できたと言うだけだからうぬぼれるんじゃないぞ。あと、鍛冶はやらないと腕はなまっていくからな。最低限鍛錬は続けてくれよ。」


「「わかりました。ありがとうございます。」」


「しかし、1ヶ月くらいでこれだけのことができるようになるとは正直驚いた。おまえ達ももう少し頑張らないとな?このまま本気で二人がやったらすぐに追い抜かれてしまうぞ!明日からもっとみっちりとやってもらうからな。」


「「「「「・・・・」」」」」


「それじゃあ卒業祝いに飯に行くぞ!!」


 最後の送別会と行って夕食をごちそうになった。他の従業員も一緒に焼き肉屋みたいなところでたらふく食べて満足だ。ジェンは結構お酒も飲んでいたけど大丈夫かな?よほど楽しかったのか、最後はダウンしてしまったので帰りはおんぶしていくことになったよ。飲み過ぎだよ・・・。


~ジェンSide~

 この一ヶ月ちょっとの間は本当に忙しかったわ。とりあえず鍛冶の技術を習得することに全力をかけた感じだった。時間があまりないのと、最低限のスキルを手に入れなければと言うことで結構遅くまで作業させてもらった。防音の魔道具を見せたときはかなり驚いていたけどね。

 なんとか無事に卒業試験をクリアしてほっとした。まだいくつかは劣っているところもあるので自分的にはちょっと不満だったけれど、それはこれから修練していけばいいかな。


 鍛冶の世界では女性が少ないと言うこともあって、かなり目立っていたみたい。結構な頻度で告白されたんだけど、好きな人がいるからと言うと、あっさりと諦めてくれたので助かったわ。イチのことをにらんでいる人もいたけどね。


 いろいろと考えることもあるんだけど、こうやって何かに打ち込んでいるとある意味楽だった。真剣に考えないといけないと思いながらもこのままでいいと思う気持ちがあるからね。

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