69. 異世界283日目 上位レベルの魔獣を狩る

 15日間の鍛錬が終わった後、ジェンと模擬戦をやってみたが、お互いに技能が上がっているのが実感できた。剣さばきや鋭さが全く違っている。やはり指導を受けると違うね。

 1日休息をとって、準備をしてから狩りに出かけることにした。




 ルイサレムの西の方には結構奥深い森があり、この辺りになると上~良階位の魔獣が出てくるらしい。ここからだと距離が4~5時間かかるところで、軽減魔法を使っても1~2時間くらいかかりそうなのでさすがに日帰りは厳しいところだ。


 狩場の手前には町という規模ではないが、狩りをする前線基地のようなムライオカというところがあるようだ。そこからだと狩場まで60分ほどで、一応宿もあるらしい。ただ、元々野営地が集落のようになったとこで、ちゃんとした管理地ではないことからあまり治安は良くないようだ。

 その辺りで狩りをするほんとの拠点はさらに西に行ったところにあるムライという町である。ただ、こっちからのバス路線はなく、歩いていくとかなり遠いようだ。


 とりあえず行ってみて良さそうだったらそこに、不味そうだったらどこかに拠点を建てることにしよう。




 今回は島で造った拠点を持って帰って来ているし、収納バッグもあるので場所さえちゃんと確保できれば野営でも問題はないはずだ。ジェンもあの拠点なら十分休養もとれるし、魔獣のいるエリアから少し離れたところで泊まれば見張りはなくてもなんとかなるのではないかという考えだ。もし襲われても最低限の奇襲は防げるだろうという前提だけどね。


 狙う魔獣は上階位上位の牙猪、大角牛、銀狼あたりか?この辺りからは討伐すると討伐報酬が出るものも出てくるし、実績ポイントも今までのよりも多くなるらしい。また、討伐の実績を作ると、素材収集の特別依頼を受ける場合もあるようだ。



 1時間半ほどかかって前線基地のムライオカに到着する。確かに町というよりは野営地という感じで簡単な木の柵があり、いくつかの木造の建物とテントが設営されていた。バンガローのあるキャンプ場という印象だ。

 宿について聞いてみると、個室はなく大部屋での雑魚寝となるようだ。一応男女で部屋は分かれているようだが、そのレベルなのに一泊一人500ドールとかなり高い。テントを張る場合も300ドール取られるようだ。どうやらここの護衛用に人を雇っているらしく、その代金が含まれるようだ。

 食事ができるところもあるが、こちらも値段がかなり高い。まあ、こんなところで商売するので危険手当とかまで入っているんだろう。


「どこかで拠点出して泊まった方がいいと思うけどどう?」


「選択の余地なしね。」


「それじゃあ、拠点を建てられる場所を探しながら狩り場に行こう。」


 ジェンも同じ考えだったので、すぐにここから出て狩場へと向かう。ルートから少し外れて野営できそうな場所を探しながらだったので30分ほどかかってしまった。



 魔獣の多くは森と森の周辺となるため、拠点を造るのはそこから少し離れたところでいいだろう。今日は4時頃まで狩りをしてから拠点を建てる場所に行くことにしよう。



 あまり奥に行くとレベルの高い魔獣が現れるので索敵はちゃんとしとかないといけない。それでも隠密のスキルが高い魔物がいたら気がつかない可能性もあるので慎重にしたほうがいいだろう。

 他にも冒険者がいるようなのでかぶらないように森の外周を索敵していく。しばらくして見つけたのは牙猪である。大きさは牛くらいとかなり大きい。


 まず他に魔獣はいないかを注意深く確認する。攻撃する場所は頭の部分になるんだが、表皮が堅くてなかなか貫けないのが厳しいところだ。剣よりも打撃の方が良さそうなので武器を戦鎚に持ち替える。


 ジェンとタイミングを合わせて魔獣の頭に風魔法で攻撃するとこちらに気がついて突進してきた。突撃してくる進路に合わせて土魔法で足下に穴を掘り、足を引っかけたところで、ジェンが水魔法で押さえつける。このタイミングで近くに行って攻撃して無事に仕留めることができた。

 とりあえず単体であればはめ殺しのように倒すことができるな。素材を無視したらもっと楽にはなるんだが、できる限り素材は確保しておきたい。


 その後も牙猪を1匹倒したところで銀狼を発見。狼なんだが、集団行動をしないのでまだ上階位レベルだが、集団でいたらしゃれにならない。すばしっこい上に簡単な魔法も使ってくるらしいので大変だ。

 ある程度近づくと、こちらに気がついたみたいで襲いかかってきた。風魔法で攻撃を仕掛けるが、避けられてしまう。風魔法を使うらしいので読みやすいのか?自分が前に出て水魔法と風魔法の盾を展開してさらに自分の盾で最初の衝撃を受ける。さすがに三重の盾だと衝撃はかなり緩和できる。

 剣で首に攻撃を加えるが、なかなか切り落とせない。ジェンにも風と水魔法で攻撃してもらい、攻撃を加えていく。なんとか耐えきってとどめを刺すことができた。


 正面からの戦いだったが、引っ掻き傷くらいの怪我をしたというレベルなのでまだいい方だろう。さすがに治癒しないといけないレベルだけどね。普通だったらここで薬を使って出費がかかるんだろうけど魔法を使えるのは大きい。


 最後の銀狼の毛皮は結構傷が入ってしまったので買取額はあまり期待できないが、3匹の大物を倒せてちょっとテンションも高い。普通は1日1匹倒せればいい方だしね。


 結局この日は牙猪2匹、銀狼1匹、大偽狼、大狼、牙兎、大山猫と結構な数を討伐することができた。今日だけで1万ドール近くはいきそうだ。


「やっぱりまだ決定力に欠けるなあ。一撃とは言わないけどもう少し攻撃力がないと集団で来られたらまずいんだよね。」


「でも、それはしょうがないんじゃない?素材確保を無視したらもっと強力な魔法を打てるんだし、素材を確保できるだけ十分だと思うわ。

 前に他の人が狩った魔獣を見たけど結構酷いものも多かったわよ。階位と同じレベルの魔獣は倒すことができるという目安というだけで素材確保は別だからね。」


「まあ上階位になったばかりで上階位上位の魔獣を素材確保レベルで狩れるだけよしとすべきか。魔法がなければアウトだけどね。」



 いったん街道から離れたところにある岩場の陰に移動。ここに拠点を出してから夕食の準備に取りかかる。今日は出来合のもので済ませることにしたが、お湯を沸かしたりして一応温めて食べる。電子レンジが欲しい。

 快適に寝るために魔獣よけと、今回購入した防犯ブザーをセットしておく。一定の範囲に魔素を持つ何かが入ってきた場合に反応するようにセットすることができるものだ。消費する魔素が一晩で100ドールくらいというものだが、何かに襲われるよりもいい。


 今回は拠点のベッド用に今までのものよりも質のいいマットを購入してきていたので寝るのも快適だった。まあそれだけ出費はあったけど。一つ7000ドールってしゃれにならなかったけど、快適な睡眠のために購入したよ。ジェンは「このくらいは欲しかったのよね。」と余裕な発言をしていたけど。


 いつものように眠りについたんだが、特に襲撃もなく朝を迎える。結構ぐっすり眠れたな。相部屋より断然いいだろう。




 翌日からも同じように狩りをして行くが、やはり奥の方に行くと良階位の魔獣もいるみたいでちょっと危ない感じがする。いずれは挑戦したいが、今は上階位の魔獣で経験を積んだ方がいいだろう。索敵レベルが広がったので魔獣を探すのが大分楽になったよなあ。


 5日間の狩りで牙猪、大角牛、銀狼だけでなく、このクラスで最強となる大熊も討伐できた。さすがに姿を見たときはやめようかと思ったが、ここでやらなければいつまでたってもできないと思い、攻撃をしかけた。

 さすがに素材のことを気にしたらやられる可能性も高いので初っぱなから最大の魔力で風魔法攻撃を仕掛ける。うまい具合に片手を切り落とすことができたのでラッキーだった。このあと土魔法で誘導して魔法攻撃を行い、最後は剣でとどめを刺す。狼や猪よりも突進力が低いので魔法を使って倒すのはまだ楽な方かもしれない。



 食事を作る手間はしょうがないけど、出来合のものを食べるようにするなら正直宿とあまり変わらない生活という感じだった。まあ食事だけがそのままだと冷たいというのだけが難点だ。

 早めに狩りを終えた時は調理をしたりはしたけどね。でも簡単なコンロとかだとなかなか難しい。屋外で使えるいいものを買うのもありか?


 それと浄化の魔法が使えるとはいえ、やはり気分的にはシャワーを浴びたい。気分の問題だけなんだけどね。

 やはり外に泊まっているので、魔獣に襲われないか緊張しているとは思うけど3日目くらいにはだいぶぐっすり眠れるようになってきた。



 ほんとなら5日目の昼に切り上げて町に戻る予定だったんだが、拠点も快適だったので5日目も狩りをして拠点に泊まってから翌朝に戻ることにした。


 町に戻ってからまずは精算をするが、さすがに量が多くてごまかしはできないので係の人には収納バッグのことを話すしかない。牙猪、大角牛、銀狼、大熊は素材の買取もポイントになるのが大きい。買い取り店に卸すよりも安くなるけどそれは仕方がないところだ。解体については特に問題ないようだ。


 この日は買い物をしたり、食材を追加したりして休息をとり、翌日から2日間は実践をベースにやったことの復習として再び道場に行って鍛錬を行う。




 基本的にこのサイクルで狩りと鍛錬を繰り返す。遠征先で雨に降られたときは拠点で魔法の鍛錬や勉強や付与魔法などの鍛錬をする感じだ。


 この途中でジェンの鑑定レベルがついに4になったようだ。レベル4は予想通り触らなくても鑑定ができることだった。その他の効果については特にないみたいだ。自分も早く4にあげたいなあ。

 対象物を見て意識するだけで鑑定できるので、魔獣の鑑定を行ってもらい、特殊なスキルがないかなどのチェックを行ってもらうことにした。もちろん気になるスキルについてはチェックして、討伐の時には気をつけるようにしている。


~魔獣紹介~

牙猪:

上階位上位の魔獣。森や草原に生息している猪の形状をした魔獣。体長は2キヤルドくらいの大きさで、獲物を見つけると突進してくる。

突進力が強力で、風魔法を使って方向を変えることができるみたいで突進を躱すのは難しい。ただし魔法で攻撃をされたという報告はされていないため、あくまで補助的な使い方しかしないと言われている。

頭の頭頂部が弱点だが、かなりの衝撃を加えなければ表皮を貫くことができない。また危険性も高いため、よほど自信が無ければ正面からの攻撃は避けた方がよいだろう。最初の突進を止めた後は周りを囲って徐々に体力を奪っていくのが有効となる。

素材としての買い取り対象は革で、防具の材料として広く使われている。牙は装飾品として加工され、肉はかなりの量がとれる上、人気も高いため買取額は高くなる。この魔獣と大角牛を上手に狩ることができるようになると、収入や能力的に一人前と判断する冒険者も多い。


大角牛:

上階位上位の魔獣。森や草原に生息している牛の形状をした魔獣。体長は2キヤルドくらいの大きさで、獲物を見つけると突進してくる。

突進力が強力で、風魔法を使って方向を変えることができるみたいで突進を躱すのは難しい。ただし魔法で攻撃をされたという報告はされていないため、あくまで補助的な使い方しかしないと言われている。

最初の突進を止めた後は周りを囲って徐々に体力を奪っていくのが有効となる。

素材としての買い取り対象は革で、防具の材料として広く使われている。肉はかなりの量がとれる上、人気も高いため買取額は高くなる。この魔獣と牙猪を上手に狩ることができるようになると、収入や能力的に一人前と判断する冒険者も多い。


銀狼:

上階位上位の魔獣。寒い地域の森に多く生息する狼系の魔獣。集団で行動することは稀で、繁殖期以外は単独行動をする。

牙と爪で攻撃してくるが、風魔法も使えるため遠くにいても油断はできない。木々の間を縦横無尽に動き回るため、魔法や弓の攻撃も当たりにくい。まずは動きを止めて接近戦に持ち込んだ方がよいだろう。

素材として牙と毛皮が使用されるが、毛皮の需要は高く、特に傷がないものは重宝される。肉は固く、臭いもきついため食用にはされていないが、食べることは可能。


大偽狼

上階位下位の魔獣。草原や森に生息する狼系の魔獣。1~3匹で行動することが多く、大きさも狼もどきよりも二回りほど大きいくらいで狼よりは小さい。

牙と爪もそれほど鋭くないが、その分攻撃された後の傷が治りにくい。群れで行動しているため連携されないように1匹ずつ確実に倒していく必要がある。遠距離攻撃が有効となる。

素材としての買い取り対象は上顎の牙と肉となるが、若干臭みがあり人気は低い。ただし思った以上に肉の量がとれるため単価は安いがそれなりの収入となる。


大狼

上階位下位魔獣で、草原や森に多く生息する狼系の魔獣。集団行動をすることが多く、多いときは10匹を超える群れになることがある。群れの数に比例して脅威度は変わり、10匹以上だと上階位上位~良階位下位と脅威度が一気に高くなる。

牙や爪が鋭いため攻撃には注意が必要。集団で襲ってくる場合は連携してくるため、リーダーと思われる個体を優先して倒した方がよい。遠距離攻撃の手段があれば遠くから攻撃して群れを分散させることが有効となる。

素材としての買い取り対象は上顎の牙と毛皮となる。肉は固く、臭いもきついため食用にはされていないが、食べることは可能。


牙兎

上階位中位の魔獣。森に穴を掘って生活しており、角兎の特徴である角はなくなり、体と牙が大きくなっている。耳が大きく、音に敏感なため、先に見つけるのは難しい。

獲物を見つけると一気に突進してくるが、その突進力のまま鋭い牙でかみついてくるため、最初の突進を止めることが重要。装甲は固くないので一度捕まえてしまえば討伐は容易となる。まずは動きを止めることができるかが鍵となる。

素材としての買い取り対象は肉となるが、角兎の肉よりは若干味が落ちる。


大熊

上階位上位の魔獣。森に生息しており、上階位では最強と言われる魔獣だが遭遇率は低い。最大で3キヤルドを超える体躯をもつものも報告されている。良階位の冒険者でも討伐には注意が必要。

最も恐れられるのは大きな体から振り下ろされる太い腕お攻撃で、爪に引っかかれただけでもかなりの怪我を負ってしまう。威力は岩をも破壊する。遠距離から魔法や弓矢による攻撃でできるだけ弱らせることが鍵となる。ただし、個体により水魔法を使うという報告もあり、遠距離の場合でも注意が必要。

素材としての買い取り対象は毛皮と肉であるが、肉は若干癖があるため買い取りの単価は低い。毛皮も服などには利用できないため、大きさの割には単価が低くなっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る