46. 異世界197日目 収納バッグを手に入れた
今日からジェンは引き続きカサス商会で調合の体験をすることになった。知識だけはすでに勉強済みなので、あとは実際の調合の場所で習いながら働かせてもらう形だ。
自分はというと罠解除の技術を修得するために役場で行われている講習を受けることにしている。このために罠に関する勉強をしておいたので知識的には大丈夫だろう。講習は4日に1回のペースで行われているので今日から受けていけばそれなりの数はこなせるはずだ。
ジェンと一緒に朝の鍛錬に行ってから自分はそのまま講習を受けることになった。講習代は300ドールとそれなりの値段だ。罠の知識は一通りある前提での講義なので、実習がメインの講習である。今回講習を受けているのは全部で6人だ。
簡単な説明の後、郊外に造られた訓練場へ移動する。罠の探知方法や発見方法について、この訓練場で実演しながらの訓練となる。探知方法については索敵と同じような感じなんだが、罠についてしっかり把握していないとうまく探知ができないみたいだ。ここは経験していくしかなさそうだ。
もちろん罠の探知だけですべてを把握できるわけではないので、視覚や音による確認も必要となってくる。
一通り罠の探知ができるようになった人から、訓練場に順番に入って罠を探知しながら進むという実習となった。指導者と一緒に進み、罠があれば止まって確認するという感じだ。全部で30個ある罠の内、探知できたのは25個だった。初めてにしては十分優秀なレベルらしい。
この簡易ダンジョンは魔法である程度仕掛けの位置が変えられるようになっているので、繰り返し訓練に使えるという優れものだ。もちろん罠は本格的なものではないんだけどね。
そのあとは落とし穴、スイッチの仕掛け、鍵の罠などの解除、回避方法についての説明を受けていく。もちろん罠の種類や解除方法などは色々あるので、ここで体験するのは代表的なものだけで、あとは経験を積み重ねていくしかないようだ。
ちなみにこの世界には異世界もの小説であるような生き物のダンジョンというようなものはない。あくまで盗賊の隠れ家や昔の遺跡に時々ある罠や隠し扉の発見などに対応するための訓練なので、パーティーに専門職が必須という訳ではないらしい。実際蠍の尾のパーティーにはイントさんやスレインさんがその役を兼任しているくらいである。
ただ最低限の知識を持った人が一人はパーティーにいないとなにかのときに困ってしまうと言うのが大きい。
また講習では鍵開けの技術というのは教えてくれない。これは独自に訓練するしかないようだ。鍵には通常の鍵と、魔法による鍵の2種類がある。通常の鍵はシリンダー式のものが多く、コツさえつかめばある程度は開けられるようになるらしい。地球でも鍵開けの道具とかあったけど、どうにか訓練してみるしかないな。
問題は魔法の鍵の方で、これは固有の魔力で鍵をされているので、普通開錠はできないらしい。もちろんマスターキーのようなものはあるみたいだが、それ以外では物理的に壊すしかないようだ。
夕方にカサス商会に呼ばれていたのでジェンと合流してから顔を出してみると、カルニアさんがやってきた。付与魔法の講習のお礼をいうと、面白い文字を使っているんですねという話をされたので、もう少し形になったらお話ししますと言っておいた。
今日呼ばれたのはインスタントラーメンのことらしい。前に説明した事前調査と言うことでモニターに試作品を渡してアンケートをとったようなんだが、すぐに売り出してくれと言う意見が大半だったらしい。味や容器のサイズなど改善点もいくつかあったが、概ね問題はなかったようだ。
来月から販売を開始するらしく、売り上げを期待してくださいとのことだった。まずはここサクラで販売し、そのあと徐々に他の町に広げていくらしい。現在は消費期限を3ヶ月としているようだが、状況を見て使用期限は伸ばしたいと言っている。モニターの人には長期間保存の検証の依頼も行っているらしい。
しばらく話をした後で、何やら箱を取り出して渡してきた。
「よろしければこれを使ってください。」
開けてみると、中には大きさ100ヤルド四方のポシェットのような形でウエストバッグになるようにひもがついているものが入っていた。
「それは収納バッグと言われるものです。」
まじか!???
「たしか収納バッグってかなり値段のするものでしたよね?さすがにこんなに貴重なものをもらうわけにはいかないですよ。」
「容量は1キリル(1m3)くらいと収納バッグにしてはかなり小さなものなので、商売に使うとしてはそこまで大きなインパクトはないんです。会長からせっかくならジュンイチさんに役立ててもらった方がいいと言われたんです。」
たしか前に調べたときは8キリルの容量で800万ドールとかで、大きくなればなるほど加速的に値段が高くなっていたはずだ。1キリルのサイズでも50万ドールはしていたと思う。それ以前になかなかものが出ないのでお金を出せば買えるものでもなかったはずだ。
たしかにこの間の輸送の時も収納バッグにも荷物を入れて輸送しているとか言っていた。どのくらい持っているのかは分からないけど、商会によっては冒険者を雇って探しているという話も聞いたことがある。
商売では使い勝手があまりよくないと言っても1キリルの大きさがあれば今持っている荷物は余裕で運べるくらいだ。たしかに欲しいものだけどいいのか?蠍の尾ではデルタさんが収納魔法を使えるのでだいぶ楽みたいだが、それでも収納量は10キリルくらいらしい。
他に収納バッグは3キリルくらいのものを持っているらしいが、やはりもう少し大きなものがほしいと言っていた。
「とてもありがたいお話なんですが、さすがにただでこれをもらうというのは・・・。」
結局レンタル代というわけにもいかないので、期限は設けないが借りると言うことで落ち着いた。
いきなり渡されても使い方がわからないので、使い方について話を聞く。
収納バッグは中に入れるサイズが決まっており、容量を超えるとそれ以上は収納できなくなるらしい。まあこれは予想通りだな。
容量は決まっているんだが、収納するものによって使用する容量が異なるらしく、軽いものは多く入り、重いものはあまり入らないという感じで、中に入れるとある程度圧縮した感じで詰まっているイメージのようである。このため、ここでいう容量については水を入れたときの入る体積で確認されているようである。
使い方はバッグに使用者の魔力を登録することから始まる。登録した人しか保存ができないし、保存した人しか取り出しはできない。登録できる人数は1人だけなので、登録した人が収納しているものがある間は他の人は使えないことになる。
ものを中に入れるときはバッグにくっつけた状態で入れたいものに魔力を込めて、バッグ収納をイメージすると中に入る。バッグの口の大きさは気にしなくていいらしい。
中に入れたものはバッグに手を当てて魔力を当てると取り出せるものが頭に浮かぶようだ。その中で取り出したいものを念じると自分の周り1キヤルドの範囲に取り出すことができるようだ。ただしバッグから出てくることになるので、ものがあると認識されている空間には出せないようだ。
水を挟んで出そうとした場合には水がはじけ飛んでしまうし、ものがあった場合は取り出せないか、ぶつかってしまうらしい。
装備品と同じく、使用者の魔力を使って収納を維持しているらしいが、魔素の回収効率が高いのか、魔力の供給がなくなっても1年は持つらしい。ただその魔素が切れたときの中身がどうなるかは最初に登録したときにどうするか考えることで決まるようだ。
ほとんどの人がバッグから出てくるというのを選択するんだが、消えてしまうを選択する人もいるらしい。「これは誰にもわたさん!」と考えている人は後者のようだ。おかげでその人が急死したときとかに大変なことになるらしい。
まずは自分の魔力をバッグに流し込んで登録するが、思ったよりも時間がかかる。もちろん魔力切れの時は出てくるようにイメージしておく。それから持っている盾に魔力を込めて収納を意識すると盾が消えた。バッグに手を当ててバッグの中を見ようとすると、頭の中に「鉄の盾」のイメージが浮かんできた。それから鉄の盾を自分の手の上に出るようにイメージすると出てきた。なるほど・・・これは便利だ。
入れたものの重量についてはそれぞれのバッグで違うみたいだが、このバッグは元々の重さの千分の1になるようだ。程度の低いものでも百分の1くらいで、優れたものになるとほとんど0になるものもあるらしい。
バッグにさらに重量軽減をかけられればほんとに気にしなくていいレベルになりそうだ。まあ千分の1なので1トンでも1kgになるので十分かな?
バッグに入れている間の時間経過についてはよく分かっていないみたいだ。ものは腐らないので時間経過がないようなんだが、熱いものを入れてすぐに取り出しても冷えてしまうし、取り出すときの温度は大体同じ温度で出てくる。氷など室温で溶けるものは残念ながら溶けて出てくるようなので、バッグの中身は常に一定温度になると考えられている。
あとの注意点としては簡単には壊れないようなんだが、もし壊れてしまうと、中身がその場で全部出てくるようだ。ただ運が悪いと消えてしまうこともあるらしい。
ちなみに収納バッグにも魔符核があり、いろいろと研究はされているみたいなんだが、いまだに解明はされていないようだ。まあそれ以前に次元魔法を使える人が少ないのでそれも問題のようだけどね。
よくわからないけど、入れるときに大きさが関係なく入ってしまうことから、分子レベルに分解されているような気がする。分子レベルに分解されているのであれば体積はあまり関係ないし、消えてしまう場合も理解しやすい。
あと収納されたもののイメージはインベントリみたいにできないかやってみよう。鑑定も一緒に表示できればかなりイメージしやすくなるからね。
ただ収納バッグはかなり貴重なものなので、あまりおおっぴらに使わない方が良さそうである。そういえば輸送の時も荷物の一番奥とかにしまっていたなあ。
お礼を言ってからお店を後にする。
お店を出るとおもむろに頭の中に声が聞こえてきた。
「タミスだ。今回の新しい食品の開発見事だった。今後も新しい食や技術の開発に努めてくれ。私の加護を与えておくぞ。」
どうやらジェンにも同じように聞こえていたらしく、調べてみると、タミスの加護がついていた。この世界ではそれぞれの神の分野に貢献したものには加護がつくことがあるらしいが、こんな感じで付与されるのか?効果を確認したら「技術力吸収向上」がついていた。ありがたいけど、もう少し早かったら付与魔法の技術の向上が早かったのかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます