44. 異世界186日目 付与魔法のお勉強

魔道具の設定の話が多いので途中は読み飛ばしてもらっても今後の話の展開ではそれほど重要ではありません。

~~~~



 今日はさすがにちゃんと布団を掛けて寝ていたので朝からドギマギすることはなかった。ほんとに昨日のようなことは勘弁してほしい。もちろんうれしいと言えばうれしいけど、理性が持たないよ。



 ジェンも起きてきたところで近くのお店に朝食へと向かう。朝早くから営業しているお店も結構あるのでありがたい。お店は喫茶店という感じのところで、朝食を食べてから役場の訓練場に行って簡単に体を動かす。60分ほど鍛錬してからカサス商会へと向かう。




 受付は昨日のお姉さんだったせいか、今日はすぐに対応してくれた。しばらくするとちょっとごつい感じのひげを生やした男性がやってきた。


「あなたたちが付与魔法を習いたいという二人だね。私は魔道具部門でリーダーをやっているトルイトだ。今日から10日間講師として指導させてもらうのでよろしくな。」


「始めまして、ジュンイチと言います。よろしくお願いします。」

「初めまして、ジェニファーと言います。よろしくお願いします。」


 部門のリーダーってかなり偉い人なんじゃないのか?いいのか?


「あまり緊張しなくてもいいよ。カルニアさん直々の依頼であれば他のものには任せられんからな。」


 なんかちょっと大事になっているような気がする。


「すみません。申し訳ないですが、ほんとに付与魔法についての知識はゼロなのですがいいのですか?」


「問題ないよ。こう見えても以前は教師みたいなこともやっていたので教えることには慣れているからな。」


 そういうことではなく、そんな役職の人が自分たちに時間をとっても大丈夫かと聞きたかったんだけどね。まあこれ以上は言うまい。



 このあと作業する部屋に移動して、付与魔法についての勉強から始まった。


 付与魔法の術式の基本は二つあり、一つは頭脳部分となる付与魔法を発動するための術式、もう一つは補助的な部分となる増幅、伝達などの効果がある術式だ。付与魔法を刻んだものは魔符核と呼ばれ、ちゃんと刻印されることで効果が発揮される。


 付与魔法を発動する術式にはいろいろな文字が使われており、効果を念じながら文字を刻むことで効果を発動する。このため同じ内容でも文字数が少ない言語で刻まれるほど有利となるが、その言語をマスターしていなければ効果は得られないため、通常は母国語が使われる。おそらくそれぞれの言語レベル4とか5が必要な感じか?

 文字数を少なくするためだけにその言語を学ぶ付与魔術師もいるらしく、現在最も効率がいいとされているのはナンホウ大陸で使われている言葉のようだ。以前に簡単な記号に意味を持たせて効果が得られないかやってみたらしいが、うまくいかなかったようである。言語として認識されていなかったせいかもしれない。

 ただし付与する効果はその魔法を使えなければ付与しても効果は発揮できないようだ。このため氷魔法とか雷魔法とか上位魔法を使える付与魔法士はかなり貴重らしい。


 補助の術式は模様や記号がメインであり、多く刻めば刻んだだけその効果が大きくなるようになっている。こちらは最低限の魔力と手先の技術があれば誰でも刻むことができるらしい。このため、魔道具の製作にはメイン部分と補助部分を分業で行っていることが多いようだ。


 付与魔法の刻印を刻むサイズを大きくすればそれだけ効果が大きなものができると考えてしまうが、刻印の大きさに比例して加速的に使用しなければならない魔素の量が増えてしまう。研究用であれば魔素の使用量が多くなってもまだいいんだが、実用レベルだとその効果と魔素量はバランスが必要となってくる。

 このため、魔符核の大きさは最大でも200ヤルド(20cm)までらしく、通常のものは100ヤルド(10cm)程度に抑えられている。付与魔法の内容によっても魔素の使用量は変わるが、大きさによるインパクトの方が断然大きいようだ。


 文字を小さく、文様を細かくできればそれだけ高性能な魔道具を作れることになるので、付与魔法の技術者は精度をどこまで上げられるかが重要となる。

 刻むのに失敗するとその部分は使えなくなるので無駄なところが増えて、刻む部分が少なくなるため、効果が少なくなってしまう。失敗した場所によっては致命的で効果を発揮しなくなって使えなくなってしまうこともあるようだ。魔符核は刻んだ面積ではなく、外周となるため、円が一番効率がいいらしい。



 一般的な魔道具は使用する魔素を魔獣石から取り込むようにしているため、メインとなる付与魔法の刻印と効果増幅、伝達の効果の刻印が使われている。


 原理的には魔素の取り込みの文様を多く入れると、魔獣石などを使わずに空気中から魔素を取り込む永久機関とすることもできるが、一つの魔符核で魔素の取り込みまでできるものは効果がかなり小さなものになってしまうのが現状のようだ。

 そもそも魔素取り込みの魔符核は作れるんだが、現代のレベルでは効率がかなり低く、魔獣石の消費の補助というレベルでしかできないらしい。魔素の取り込みの魔符核を作ってもその魔符核自体が魔素を消費するため、抽出できる魔素がごくわずかになってしまうのである。

 これを100個も200個もつなげればいいんだが、そこまでするのなら魔獣石を使った方がいいと言うことになってしまうのである。



 収納バッグなど過去の高位の魔道具には現代では解析されていない文字が使われており、またかなり緻密な模様が刻まれているため復元ができないらしい。文字も形だけ同じように作っても理解していないため発動してくれないようだ。


 現在使われている一般的な魔道具を見せてもらったが、それでも小さな板にびっしりと文字や模様が刻まれていた。

 ただ過去の高位の魔道具は見たらすぐ分かるぐらいのレベルで緻密に刻まれており、差は歴然だった。しかしメインに使われている文字は漢字のような雰囲気だ。漢字を使うと文字数が少なくて意味を持たせやすいような気もする。もちろん漢字でも複雑な場合は大変だけどね。



 付与魔法を刻むのは金属や木片などなんでもいいんだが、木など柔らかいものだとせっかく刻んだ文様が壊れてしまうことが多いため、普通は金属を使うみたいだ。この金属も種類によって効果が増幅されるらしい。

 やはりこちらの世界にもあったミスリルやオリハルコンだと効果が大きくなるようだが、価格が高い上にそれだけ技術も必要になってくるらしい。このため通常使われるのは銅や鉄になる。



 なお装備品に付与されるのは個別に依頼がない限りは30ヤルド(3cm)以下の大きさになっている。これは使用者の魔素を使う前提で作られているためで、魔素の使用量を抑えるためのようだ。複数の効果を付与する場合はさらに小さくしなければならないので複数の効果のあるものは価格が高くなっていく。

 このため耐久性向上の効果が付与されていても誰かに使われていないと付与がされていないものと同じように劣化したり錆びたりしていくらしい。



 この日は一日かけて文様や記号の意味の理解や付与魔法の使い方など座学を中心とした講義となり、最後に少しだけ実際に付与魔法を実践してみた。文様を刻む以前に刻印すること自体が思ったより大変だった。正直10日間でできるようになるのかかなり不安である。


 4時半に講義が終了してから1時間ほど図書館で勉強。帰りに夕食を食べてから宿に戻り、魔法のイメージトレーニングや勉強をすることにした。




 翌日からも朝は剣術の訓練、そのあとは付与魔法の講義、終わった後は勉強と魔法の訓練とひたすら勉強漬けだ。地球にいた時にここまで必死になってやることなんてなかったんだけどねえ。一人ではないことと、全く未知の内容を覚える楽しさがあるせいかもしれない。



 必死に勉強したせいもあって、10日目には自分もジェンも最低限の魔道具を作ることができる様になった。付与学はレベル3まであがったが、付与についてはレベル1なのでまだ駆け出しレベルなんだけどね。

 知識的には十分な感じなので、あとは刻印の技術を磨いていけばいいようだ。そうそう腕が落ちるものではないが、上達するにはできれば毎日少しだけでも練習をしていった方がいいらしい。



 試しに日本語を使った魔道具を作ってみたんだが、ちゃんと効果を発揮してくれた。画数の多い漢字は難しいが、ひらがなでも文字数的には少ないので日本語の方が良さそうな気もする。

 トルイトさんは自分が使っている文字を見て「これだけでこの効果が出るのか?」とちょっと驚いていた。「火」や「ひ」という1文字で火が出るようにもできたし、「水」という文字で水が出るようになったからね。

 トルイトさんがかなり興味を引いていたんだが、もう少しいろいろやってものになりそうなものができたら連絡するように言っておいた。まだまだ刻印のレベルが低すぎるからねえ。



 予定していた講義が終了したのでお礼を言ってからいつものように図書館にお勉強へ。夕食の後はお風呂に入り、この日は早めに寝ることにした。とりあえず付与については最低限の知識と技術を手に入れたので、次は罠について本格的にやっていくことにしよう。




~トルイトSide~

 俺はカサス商会のサクラ支部にある魔道具部門をとりまとめている。魔道具部門は魔道具の生産と、新たな魔道具の開発を行っているところで、生産品の管理や研究の進捗具合の管理で忙しい日々を送っている。

 いつものように魔道具に関するとりまとめをやっていたらサクラ支部のカルニア支店長から呼び出された。特に問題は起こしていないはずだが・・・と思いながら訪ねると、10日間ほどある人物を教育してくれないかと言うことだった。


 若い二人だが、商会でいろいろと世話になっている人で、今度は付与魔法について勉強をしたいと相談に来たのでうちで学べると伝えたようだ。もしなにか新しいことを発見したら優先的に情報を出してくれるようだ。人選は任せると言われたんだが、せっかくなので俺が行うことにした。10日間はかなり忙しくなるが、それはしょうが無い。



 目的の人物が来たというので受付に行ってみると、成人したばかりと思われる男女がいた。若いとは聞いていたが、まさかこんなに若い二人とは驚いてしまった。



 さっそく講義を始めるが、付与魔法については全くの素人だった。しかし講義を始めると、思った以上に吸収力が高く、数日で付与魔法の内容を一通り理解してしまったのには驚いた。付与魔法のことは知らなかったが、それの元になる知識量が多いように感じる。


 さすがに刻印の技術は0からだったが、知識の講義が短かったことと、かなり集中して取り組んでいたこともあり、10日間で簡単なものではあるが販売しているレベルの魔符核を作れるようになった。もともとは学識と簡単な実技の講義で終わる予定だったんだがな。


 一番驚いたのは俺の知らない文字を使って刻印をしていたことだ。文字としては1文字なんだが、それだけで効力を発揮していた。古代の魔道具に刻印されている文字に似ている印象も受ける。時々二人の会話で使われている言語だろうか?


 せっかくなので譲ってほしかったが、もう少し改良したいので、確認が終わったら連絡すると言われたのでおとなしく引き下がった。カルニア支店長からも無理強いをしなければちゃんと連絡をしてくれるということを聞いていたので素直に待つしかないだろう。


 もともとは会長のコーランさんがジュンイチさんを見つけてきたらしく、その知り合いがジェニファーさんらしい。下にも置かない対応をしているのも分かるような気がする。正式には聞いていないが、最近の商会で行っている数々のアイデアを出した人なのだろう。



~ジェンSide~

 しばらくサクラでいろいろな技術を身につけようという話になった。今後生活していくためにいろいろなことを知っておくのはいいことだと私も賛成してやることにした。


 付与魔法を習いに行くと、かなり偉い人が指導してくれるみたいなので、やはり私たちの利用価値が高いと考えているのだろう。ただ無理は言ってこないので今のところはいい関係を築けていると思っている。


 トルイトさんはかなりわかりやすく指導してくれたので付与魔法についてかなり理解することができた。イチと二人で色々と確認しながら付与魔法を覚えていく。10日間だけだったが、それなりの魔符核ができるようになったのでよかった。


 やっぱり日本語はこういうものには向いているみたいで、かなり少ない文字で効果を出すことができたみたい。他の言語はどうかと試したみたところ、スキルレベルが4のスペイン語では刻印できたけど、日本語やドイツ語などのスキルレベルが3以下のものでは効果が発揮できなかったのでスキルレベル4以上の語学力がいるってことみたい。日本語はもう少し頑張ろう。


 日本語の刻印を見たトルイトさんはかなり興味を引かれたみたいだけど、もう少し改良したいと言うと、すぐに引き下がってくれた。変な方向に行ってしまうと使い潰されてしまうかもしれないので慎重に進めた方がいいわね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る