4-4

 アーシック・レコードの件が表面化し、様々なまとめサイトが再び草加市を炎上させようと動き始める。


 それが八月という時期だった。何故に八月を狙っていたのかは定かではない。一説によれば、大型イベントを前に騒ぎを起こしてイベント中止を狙っていると書いているサイトもあるが――。


【この時期に草加市を襲撃して何になる?】


【都心をピンポイントに狙えば、逆に大規模テロと勘違いするだろう】


【その路線ではない。あくまでも草加市周辺のSNS炎上が目的では?】


【どうしてそう思う?】


【七月には例の事件があっただろう。その熱が冷めない内に追い打ちをかけるつもりだ】


【追い撃ち? 炎上サイトが壊滅するの間違いでは。返り討ちになったのは、まとめサイト側だぞ】


【果たしてそうだろうか。確かにまとめサイトとしてはマルスを利用して炎上を仕掛けようとはした】


【しかし、マルスは第三者が倒したと言うのが公式見解だ。これ以上は――】


【果たして、その公式見解を鵜呑みにして事実だと考えている人物が何人いるか?】


【しかし、SNS上ではまとめサイトのマッチポンプ説、広告会社が別作品をアピールする為に起こした事件と言う説もある】


【誰ガそう言う夢小説系の二次創作みたいなストーリーを信じる? ありえないだろう】


 SNS上のスレでは、今回の事件は様々な憶測が炎上のきっかけを作っていると言う見解もあった様子。この書き込みさえも一連のマッチポンプと言及し、信用出来ないとするまとめサイトがいるほどだ。


 他にも存在するまとめ記事も似たような切り口ばかりで、まるでコピペのように量産されているようにしか思えなかった。


 そして、一連のスレを自作自演と疑うのはまとめサイト管理人だけではない。



「大型イベントを中止にしてまで、観光客の横取りをするとは――考えにくいかな」


 電車を降り、草加駅に到着したハットリ・シズは――駅周辺の客層を見て昨日に見たスレの内容を疑った。


 あの内容が事実であれば、更なる混雑があってもいい。仮に外出自粛関連で客足が鈍っていた時期ではないが――。


(あの時は、文字通りのコンテンツ市場は壊滅危機を迎えようとしていた。それこそ二次創作勢力が暴走する位に)


 ヴァーチャルレインボーファンタジーは、外出自粛絡みとは別件かもしれないがコンテンツ流通に打撃を与えたのは言うまでもない。それからしばらくして発生したあの事件――ガーディアンも色々と暗躍する訳である。


 彼女が数分歩き、看板が気になった大規模ショッピングモールのような施設を発見した。これこそが、例のオケアノスと呼ばれる施設――。


(見た目はゲーセンに見えるけど、本当に現れるのかな)


 シズが右手で指をパチンと鳴らすと、次の瞬間には私服姿が巨乳をアピールしたようなくのいちへと姿を変えた。


 当然、この瞬間葉や着替えは周囲のギャラリーには把握できていない。これを見る為には特殊なガジェットが必要なためだ。


 この仕掛けは、さりげなくヴァーチャルレインボーファンタジーでも使われている物だが、あまり知られてはいない。その理由に、あまりにもアニメやゲームキャラが自意識を持ったかのようなアバターに、本物と疑う物もいたためだ。


 高度な科学技術は魔法と差異がなくなるという――誰が言ったかは知らないが、そう認識されている。



 その後、シズはシュテン・ドウジとも遭遇するのだが、リアルであの人物に会う事は出来ずじまいに終わった。


 止む得ないので日を改めて訪れた方が早い、そう考えていたシズは実際にゲームへ触れてから帰ろうとも考える。


(今日は――様子見と言う事で)


 シズもゲーマーであるのだが、草加市では認められていないゲーマーだった。それを言えば、シュテンも同じような物に見えなくもないが――向こうは仮にもプロゲーマーライセンスは持っている。


 シズとシュテンの違いはライセンスの有無だけではない。単純に彼女は『自称』プロゲーマーなのだ。


(プロゲーマーじゃなきゃ、ここではゲームをプレイできない訳じゃないし)


 草加市がARゲーム等で盛り上がっている理由は草加市公認プロゲーマーの存在もあるが、それ以上にファンの存在が大きいのだろう。その証拠が、先ほどの観戦していたプレイにも――出ていたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る