超絶マリ夫兄妹!?

アイの部屋に紙芝居フェレットがやってきました。


紙芝居フェレットはたくさんいて、ワールドザワールドの町や村にそれぞれ派遣されます。筆の女神の家から遣わされるわけです。


それで筆の女神は、特殊電波意識という特有の技を使って散らばった全部のフェレットを同時に操るのです。神憑かみがかり的に筆の女神の電波意識を受信したフェレットは筆の女神に同期して、同時に口を動かし、筆の女神の声を出します。それに合わせて、さらさらと紙をめくってゆくのです。


アイはあぐらをかいて、その上にうさぎを座らせてて大好きな紙芝居を見ていました。


物語も盛り上がるところへ入ってゆきます。


ページがサラリとめくられ、ヒロインが主人公を裏切ったということが分かったとき、クァシンが入ってきました。


彼はアイの隣に座って、あることを教えました。


「ワールドザワールドの女神が、シヨク=ガヨクに攫われたよ」


「なんだって!」


と、アイは立ち上がりますが、顔だけは紙芝居に向けたままです。


「急いで追いかけなきゃ」


「でも、大して面白そうなことではなかった」


「攫われたんでしょ」


「アイが行くなら僕も行くけど、僕はこの続きが気になるからなー」


とクァシンも紙芝居から目を離していません。


「僕も、気になる……でも、ワールドザワールドの女神が攫われたんだ、大事件だ! 行ってくる」


「そう……って言いながらアイ、コカコアラ用意してるじゃないか」


「紙芝居を見ながら飲むと一段と美味しく感じるでしょ」


「僕はチョココーン持ってきたから。食べる?」


「うん。食べる」


物語は盛り上がっております。ラスボスに立ち向かうため、敵のアジトに乗り込んだところ。主人公に襲いかかる、多数の武闘家たち——


激しい音とともに、見応えのある戦闘シーンが続きます。


「僕このシリーズの一作目見逃してるんだ」


クァシンがアイの部屋の片隅にあるごみの山の奥からソファを引っぱり出してきて、その端っこにちょこんと座りながら言った。


「え、あれ見てない人いるんだ」


「うん。ちょうど『チボー家の人々』にハマってた時期で、夜中読んだからその日寝ちゃったんだ」


「正直、一作目が一番傑作」


「また今度やらないかな?」


「それで、一作目見ないで、ここらへん見てもわかるの? 最初のシーンなんて、ぜんぜん理解できないでしょ」


「まあ、なんとなく」


そのときでした。


「おい!」と声を響かせアイの家を訪れた人がいました。


「クァシン、俺がワルワルの女神をとっ捕まえたこと、アイに伝えろって言ったよな!」


やってきたのはシヨク=ガヨクでした。


「伝えたよ、一応」


「ちょっと待ってね、シヨク=ガヨク。これ終わったら行く」


「舐めてんのか!」


そう怒鳴ると彼は、フェレットを掴んで持って行ってしまいました。


二人とも「あっ!」と声を出して、シヨク=ガヨクを追うことにしました。


家を出るとシヨク=ガヨクの仕掛けた罠でしょうか、二人は鳥籠のような物の中に入ってしまい、そのままパチンコの要領で空高く投げ飛ばされてしまいました。


落ちたところは、畑のまんなか。

一体ここがどこかわかりません。


「どうしよう」


「アイ、これを見て」


鳥籠の天井には一枚の紙が貼ってありました。


『我が城にワルワルの女神は閉じ込めた。助けたくば奪いに来い。

 まあ、来れるものならな。

 お前たちが来れないばかりか、家にも帰れなくするために、栗を用意した。せいぜい楽しむがよい』


「彼って、構ってほしいんだろうね。」


「かまってちゃん」


「だから面白いことも色々してくれる」


「でもまあ行くしかない。クァシンもくる?」


「アイが行くならね」


こんな調子で二人は出発しました。


(ノ`ー´)ノ・・・~~┻━┻


『我が城』と書いてありましたが、シヨク=ガヨクは本当にお城に住んでいます。

石でできた西洋風の古城。


アイの住む巨大樹だけはワールドザワールドのどこにいても見えますので、クァシンは巨大樹と太陽から自分達が大体どこにいるのか推定し、シヨク=ガヨクの城の方角を導き出しました。


途中、アイたちの知らない村がありました。


ニッテンドー村、土管で有名な村です。


ここには地面の中から古代文明で使われたのであろう土管がどかどかと出土し、いくら掘っても出てくるのでそこらじゅうに置いてあるという変わった風景を見ることができます。


「ワール、ワール捕まった〜♪ ワールドザワールドのめーがみが〜♪ まーったまーたシヨク=ハヨクに捕まった〜♪」

とアイが歌っていますと。


「それは、事件じゃないか!」

「それは、事件よ」


男女がアイとクァシンの前に立ち塞がりました。

十八歳くらいの男の子と、十五歳くらいの女の子。


「だれ?」


「ぼくたち、超絶マリ夫!」

「超絶マリ子」

「二人合わせて、——超絶マリ夫兄妹!!」


どこからともなく音楽が流れ出しました。

兄妹二人がそれに合わせて歌い出します。


『ジャンプでどこでも駆けつけるー

 細いところも進んでくー

 悪者がいたらヒップドロップ

 そうさ我らが、マリ夫とマリー子ー

 アナタノココロニーダッシュダーッシュ☆』


以上、超絶マリ夫とマリ子兄妹でした。


「悪い奴に捕らえられた可哀想な人質を助けに行くんだね!」


「まあ、そんな感じだよ」


「僕たちに任せてくれ、見事にやってのけてみせる。なぜなら僕たち、超絶マリ夫」

「超絶マリ子」

「二人合わせて、——超絶マリ夫兄妹!!」


どこからともなく音楽が流れ出しました。

兄妹二人がそれに合わせて歌い出します。


『ジャンプでどこでも駆けつけるー

 細いところも進んでくー

 悪者がいたらヒップドロップ

 そうさ我らが、マリ夫とマリー子ー

 アナタノココロニダッシュダーッシュ☆』


「わかったよ、それは」

アイは二人に状況を説明しました。


シヨク=ガヨクの言う「栗」が何なのか、アイにもクァシンにもよくわからなかったのですが、この兄妹は知っているのでした。


「栗はいたる所に落ちているんだ」


「知ってるよ。イガイガのやつでしょ」


「それは秋に落ちている栗だね」


「何か違うの?」


「イントネーションがちょっと違う。秋のは栗。今話してるのは栗」


「一緒じゃん」

とアイ。


「秋のが栗。今から話すのは栗」

とマリ夫。


「だから一緒に聞こえるよ」

とアイ。


「もう、お兄ちゃんが違うって言ってるから違うの」

とマリ子。


「まあ、それはいいよ」とクァシンが話を進めるよう促します。「栗が落ちていることの何が問題なの?」


「ふっふっふ。よくぞ聞いた。栗はな、落ちてると言っても、地面に落ちているわけじゃない!」


「どこに落ちてるの?」


「次の展開の中に落ちている。文章のあるべき場所に落ちている。ちょっと下を見てくれ」


     栗





                栗


「こんな感じに落ちているんだ。だからこの先、気をつけながら進まないといけないといけない。我々はこの栗に当たると消えてしまう。だから栗の前で文章を終わらないといけない」


「栗をまたいで文章が続くと、ダメってこと?」


「そうだ。さすが白髪の。飲み込みが早い。けれど、決して栗は飲み込んじゃダメだぜ。ちゃんと噛むんだ。でないと、水分のすくな栗


「おにーちゃーん!」


妹マリ子が叫びました。兄マリ夫が点滅して消えたのです。


アイとクァシンは思わず顔を見合わせました。

これはちょっと簡単じゃなさそうです。  栗


二人とマリ子は用心に用心を重ねて村を出ました。

マリ子の案内によるとここから古城までは坂を上がると見えてくる森まで歩き、そこから森に沿って北へ歩くとそのままたどり着けるそうです。


さて、二人。 栗

無事に辿り着けるでしょうか。


ようやく森が見えて来ました。

坂道ももうすぐです。


「案外楽なもんだね」とアイが言いました。


「それは文章を大きくはしょったからよ」とマリ子が説明します。

「文章が長く続けば続くほど、展開が詳しく描かれれば描かれるほど栗の危険性は高まる。どれだけ歩いたかは関係ないの。道には落ちてないんだから」


「なるほど」         栗

「おっと危ない」とクァシンは言葉を区切ってうまく避けました。「じゃあ、何も起こらずに、何も会話せずにけば、まあまあ楽に到着できるわけだ」


「そうね」


しかし、そうはいきません。

森に着いたところにある曲がり角には、とある二人が待ち受けていました。

アイは、すぐにその存在に気づきました。


「誰?」


二人は木の影から姿を表します。アイより少し歳下の少年少女。二人はいたずらな笑みを浮かべて、三人の前に立ち塞がりました。


「ぼくの名前は、コザル」

「わたしの名前は、ツキヨ」

「ぼくたちは、昨日、シヨク=ガヨクさまの元へ弟子入りした!」


アイもクァシンも何も言わずにそんな二人のことをただ眺めていました。


「おい、なぜ何も反応をしない!」


アイが答えました。

「え、歌は歌わないの?」


「なぜ、歌を歌う必要がある」


「いやいや、流れがあるでしょ。さっきマリ夫マリ子兄妹が2回歌ってフリを作ってくれたんだから、てっきり歌うものだと思ってたから……。なんか、ごめんね」


「なんの話だ!」           栗


「アイ、まだ出て来たばっかりの新人キャラなんだよ。しょうがない」

クァシンが言いました。


マリ子も言います。「そうよ。内輪ノリを強要するのは、古事記でも天つ罪としてしてはいけないことに決められているのよ」


「あ、君、博識だね」とクァシンはどこか嬉しそう。 栗


「何を言っているかわからん。それはそうと、ここは通させないぜ」栗

「そうよ、通させない。やりましょ、コザル」          栗

「おう」


二人はそれぞれ武器を取り出しました。

コザルは槍、ツキヨは剣つるぎ。

そして「えいっ」とアイとクァシンに飛び掛かりました。


アイとクァシンはさっと身を躱かわして避けました。そしてアイはコザル脇腹目がけて足を蹴り出します。コザルはそれを身をよじって受け流しました。が、そのせいで着地には失敗し、転んでしまいます。それを目がけて、今度はアイが飛び膝蹴りを仕掛けます。間一髪のところで転がって避けるコザル。  栗

「あぶねー」

アイとコザルが声を合わせて栗の方を見ました。そしてすぐにまたアイは槍の届かない位置まで距離をとり、体制を立て直そうとします。コザルは逆に間合いを詰める機会をうかがいます。


一方のクァシンとツキヨも激しく攻防を繰り広げていました。

ツキヨは身軽で、しかも彼女にあった薄く軽い剣をシヨク=ガヨクに用意してもらっていたので、次々に目まぐるしく攻撃を繰り返します。しかし、クァシンも大したもので、それをものの見事にすべて交わしてしまう。そして隙をついて、間を詰め肩にむけて手刀を繰り出そうとするのですが、あと一歩のところで届きません。   栗

またツキヨがぐっと身を低くしたので、クァシンは虚をつかれてしまいました。

低い姿勢からツキヨは剣を大きく振り上げるようして、クァシンの首を狙いました。クァシンは大きくのけぞって間一髪のところで躱します。剣は顎先をかすめました。

クァシンはバランスを崩し、後ろへ転んで腰をついてしまいました。

それを目掛けて、ツキヨがぐっと剣を握り締めると、跳び上がり、大上段に構えた剣をそのまま振りおろ栗


「あ」

とクァシンが声を上げたときには、ツキヨは点滅して消えてしまいました。


「ツキヨ!」


コザルが叫んだ瞬間にアイはコザルの手を打ち、槍を落とすと同時に胸を蹴り上げました。

コザルは派手に転んで、後ろにあった木へぶつかりました。


「観念しろ」アイが槍を構え、歌舞伎のようなそぶりで言い放ちます。


「しねえ」とコザルはよろめきながらも、どうにか立ち上がりました。まだ闘うつもりです。

「観念なんか、しねえ。お前らなんかな、シヨク=ガヨクさまが本気を出せばな、すぐにお前らなんかやられてしまう。シヨク=ガヨクさまはすごいんだぞ。シヨク=ガヨクさまは天才なんだ。シヨク=ガヨ栗


「あ」


とアイもクァシンもマリ子も合わせて声を出しました。


しかし、不思議なことに、コザルは消えてしまいませんでした。が、どうやら最後の気力は使い果たしてしまったみたいで、そのまま気を失って倒れてしまいました。


アイとクァシンが森沿いを北へ歩いて行くと、向こうからワールドザワールドの女神が歩いてきました。


「無事だったの?」


「あら、アイ。どうしてここに?」


「ワルワルの女神を、助けに来たんだよ」


「ありがとう。でも、もう大丈夫よ。何があったか知らないけど、シヨク=ガヨクが突然消えちゃったの」

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