第20話【未来】
ライチとキロルの娘はキロルの遺品を整理しようと部屋に入る
部屋には大きな本棚があり、その中のほとんどはキロルが書いた予言本が沢山置いてある
「教祖の部屋は昔からずっとここだからこの部屋も片付けないと。お父様の遺品は歴代の教祖が眠る墓に一緒に埋めるのがここの決まりです。お父様の形見が無くなるのは事実ですが、いつも見守って頂ける気がします」
キロルの娘は頬に大粒の涙を流しつつも遺品の整理をし始める
中から見たことの無い程大きな本が出てきた。とりあえずこれはここに置いとこう。でも手が塞がっていたので「ライチちゃん、これはここに置いといて」とお願いをした
「おっけ」
本を動かそうとしたら1枚紙が落ちてくる
その紙はつい最近描かれたかのように綺麗な状態だった
そして、文字はキロルの物だった
これはキロルの遺書だった
娘に宛てた最初で最後の手紙。中にはこう書いてあった
親愛なる娘へ
この手紙を読んでいるという事はザンロとの戦いに無事に勝ったということか
わいはザンロの戦いの時に死ぬ。
この事はもう知ったいたのだ
焔を初めて体に宿した時、未来が見えたのだ。親父と同じような未来予知能力が使えたが副作用が大きすぎた。だからこれ以降使わなかった
ヨルナミやワタにはこの事は教えるつもりはない。心にしまっといてくれ
それとだ。お前の名前はナロルだ
28代目教祖として頼んだぞ
手紙を読み、自分が28代目教祖としての自覚がやっと湧いてきた
「自分は……教祖……」
自分に暗示を掛けながらも現実を受け止めることに必死だった
「ナロルちゃん……大丈夫? 」
いきなり止まるナロルの事を心配し、ライチは声を掛ける
「うん、大丈夫。あの時お父様に言われた時から今まで実感出来なかったんだ。でもやっと実感が出来た。そんな気がする。明日はお父様の葬式と教祖の就任式。頑張らなくちゃ」
自分の意思を固めたナロル
「ヨルナミくんってどこにいるっけ? 」とヨルナミの部屋の事を聞く
「ヨルナミの部屋はここだよ」
ライチは部屋を案内した
「入ります」
ナロルは部屋に入りヨルナミに1つお願いことをした
「わかった。んじゃ明日ね」
ヨルナミの了承を獲たナロルは自分の部屋へと帰っていった
翌日
「今から、ノルト教の27代目教祖様のお葬儀と28代目教祖様の就任式を実施致します」
ヨルナミは進行役を任されたのだ
本来、進行役は旧教祖又は現教祖が行うものだったらしく教祖以外がするのは初だった。しかも教祖が初めて女性だった。その理由からとても批判が最初は飛び交った
「ノルト様の血を引き継ぐもの以外は立つな」「ノルト様の能力を持たないものは消え去れ」「女は教祖になれない」など明らかに差別をもたらすものもあった
この時、ナロルはその文句を言う信者たちに向かってこう言った
「それは、ノルト様の考えである平等愛に反していませんか? 確かに自分は女です。この者もノルト様の血を受け継いでおりません。ですが、そればかりに囚われていては差別と同じことなんじゃないでしょうか? 私はまだ若いですし未熟です。でも、まだ熟していない。つまりこれから良いことが起きたりするかもしれないのです。なので頑張りますので教祖として、お願いします」
その言葉に信者たちを理解し、ナロルは受け入れられた
その後就任の儀式として教祖のみが1度だけ許される金の聖杯への口付けや教祖の祈りを行いナロルは教祖としての道を歩みだした
儀式が終わり、キロルの葬儀が始まる
教祖だった時代、共に過ごした信者や仲間達がほとんどが溶けてなくなってしまった遺骨を箱に入れた
本来は棺に入れるのだがもう残ってなかったから箱にとりあえず入れる
教祖の誰かが言った
ノルト教の教祖は信者に名前を明かしてはならないと言う決まりがあり、墓石にも名前は刻まれない。生きた時間やその証拠もほぼ抹消をしろという。何故かは分かってないが前教祖のことをいつまでも引っ張ってしまっていると教えに影響を及ぼしてしまう可能性があるからだ
遺品も残せない。名も残らない
それがノルト家に生まれた人達の運命。だがその教えは永遠に語り継がれる
教えを後世に伝え、それで人々の生きる意味を教えるのが宗教と言うものだ
骨を箱に入れている時、ヨルナミは1つ提案をした
2人はこれから隣の国に行くことになっている
ヨルナミが本当に王子なのなら、なぜ殺されなくちゃ行けなくなったのかを追求したかった
キロルが城に乗り込む前、もし生き延びたらアクアヒルス国は景色が綺麗だから見に行きたいと提案していたのだ
「キロルの意思を尊重してね、欠片でいいんだけど遺骨を貰えないかな? 勿論、ダメ元だけど持って歩いていたらキロルが見てみたかった事をキロル自身が見れると思うし……だから……」
ヨルナミの提案はナロルの心を動かした
父は死んだ。もう心もないと考えていたのでその考え方はなかったと思った
「いいですよ。お父様もそっちの方が喜ばれる気がしますので」そう言うとナロルはいちばんきれいに残っていた小指の第一関節の上のパーツをヨルナミに渡す
「ありがとう」とヨルナミはいい、自分のペンダントにしまう
その後、 骨箱は地面に埋められる
そこには昨日部屋を片付けた時に出てきた本や筆記用具、チロルの遺書なども入っていた
墓石にはこう刻まれていた
ノルト教28代目教祖
ここに眠る
平等愛を生き甲斐とし
皆に愛された
あなたは最高の方でした
ありがとう
キロルはもう居なくなってしまったけど、これは生きた証になる
ヨルナミとワタはキロルの分まで生きてやる
そう決意したのだった
「ここは……」
キロルは世界一面が花で覆われている所で目を覚ました
空はとても綺麗な晴天だった
雲がひとつもない
自分に起こったことを思い返し、自分が死んだ事を悟る
「そうか……わいは死んだのか」
辺りを見回し誰か居ないかを確認する
見覚えのある顔の人がこちらに向かって走ってくる
「キロル……お前死んだのか」
それは父だった
「親父……」
「あの時は悪かったな……」
「いや、大丈夫だ。」
「そうか、ならいいんだが。そういやお前目が明るくなったか? 12年前と比べてとても輝いて見えるぞ」
「うーん、多分あいつらのおかげかな」
「あいつらって?」
「話すよ。わいの最高の仲間たちを」
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