第50話アリシアとベアトリスの処刑
目が覚めた。ここは?
そうだ、二人は?
「ここは何処だ?」
見知らぬ豪華な装飾がされた部屋。
「気がついたか? そろそろ目が覚める頃と思っておったら、やはり」
そこには賢者マリアがいた。
「ここは何処ですか?」
「私の屋敷だ」
「あれから何日経ったんですか?」
「1週間だ」
「二人は、二人は?」
「二人の刑は執行された」
「......」
「そ、そんな、何故マリアさんは俺の意識を奪ったんですか?」
「お前はあのままでは不敬罪となっていた。それに、何をするかわからん」
「二人には会えないのですか?」
「......もう、この世にいないのだ。それと、私はレオンに詫びなければならない」
「何故ですか?」
「二人の刑が執行された折、天に聖紋が顕現した」
「聖紋?」
「女神様の怒りの現れだ。無実の罪の者が害された時、現れると言われている。国王が誤断し、無実の者を死罪とした際に出るものだ。4年ぶりだ。私は法務省から調査を命ぜられた」
「何を調査したのですか?」
「二人の事、そしてエリアスとエリアスのこれまでの悪行、大変な事実がわかった」
「どんな事実......なのですか?」
「エリアスは『魅了』の魔法を使っていたのだ。『魅了』の魔法とは禁忌の魔法、異性の心を自由に操る魔法。魅了状態の者は全ての思考、感情をコントロールされる。人の意に反する行動、愛する人をさえ殺してしまう事させてしまう魔法、だから、禁忌の魔法として、忌み嫌われ、禁止されている魔法だ。私もまさか、実在するとは思わなかった。私はエリアスに『スカウター(対象者のステータスを覗き見る伝説の魔道具)』を使った。彼は間違いなく、『魅了』の魔法を有していた。そして、剣豪アリスは『魅了』の状態異常のステータスだった」
俺の目はこれ以上とは言えない位、開いていただろう
「では、アリシアとベアトリスは?」
「そうだ、無実だ。それに、お前を裏切ってなどおらん、二人はエリアスの犠牲者だ」
「そ、そんな」
『そんな事ってあるか?
そんな事あっていいのか?
エリアスだけが死罪になれば良かったじゃないか?』
突然、マリアは腰を折って、俺に頭を下げた。
「すまない。すまない、エリアスの為に、エリアスが......私のせいだ」
俺はマリアの行動がわからなかった。悪いのはエリアスだ。マリアであるはずがない。
「レオン、私を抱け」
「何を言い出すのですか? マリアさん」
俺はマリアの言動に驚いた。一体何を言い出すんだ?
「私がエリアスの幼馴染だとわかってもそう言えるか?」
「エリアスの幼馴染?」
「私とエリアスは幼馴染だ。私達は15才の頃まで一緒に遊んだ。屋敷を抜け出して、街で遊んだ幼馴染同士だ」
「だからと言って、エリアスにとって、女性は物に過ぎないのでしょう? 今までのあの男の所業を見れば、わかります」
「......私とあの子だけは違うんだ」
マリアは涙を流していた。
「一度だけ、晩餐会であいつにあった。あいつは私だと気づかず、私を自室に誘った。そして、あの時のマリアだと言ったら、エリアスはあの白々しい笑顔でも、あの悪辣な顔でもない。本が好きな、大人しい性格の、あの頃のエリアスの顔になった。エリアスは私を抱かなかった。私が愛の告白をしても抱いてはくれなかった。エリアスは言った。自分の中に、一つだけある綺麗なものを汚したくないと」
「だからと言って、マリアさんを汚していい理由にはなりません」
「エリアスはきっと、悔しがるぞ? 復讐できるぞ?」
「復讐は復讐しか呼びません。いつか、あなたが言った」
俺はマリアの気持ちがわからなかった。だが、マリアさんのエリアスへの気持ちはわかった。
だからと言って、マリアさんが俺にそこまでして詫びる必要はない。
エリアスの罪はエリアスの罪だ。マリアさんの罪ではない。
「マリアさん。あなたに罪はありません。俺にはエリスがいるのです。困ります」
「ああああああ、いっその事、私をめちゃめちゃにして欲しい、エリアスがああなったのは、私達のせいなのだから!」
一体、マリアさんとエリアスに何があったのか?
「エリアスは平民ではない。私と同じ貴族で私の婚約者だった。だが、エリアスの家と私の家は仇敵だったのだ。そして、4年前、私の家がエリアスの家を陥れた。エリアスの家の者は皆、死罪になった。エリアスだけは勇者のタレントが判明して命が繋がった。エリアスの両親も妹も処刑された」
「......マリアさん」
「私の家がエリアスをあんな化物にしたんだ! 私達が悪いんだ」
俺はわかった、エリアスを包んでいるものの正体に、それは、かつて俺を包んだ、あのドス黒い復讐という名の黒い霧。
俺の霧はエリスやみんなが晴らしてくれた。だけど、エリアスは......
「それと、奴隷の子、エリス、あの子も私達の幼馴染だ」
......エリスがエリアスの幼馴染。
俺は意外過ぎる事実に驚くばかりだった。
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