第18話エリスの冒険者試験

俺は唯一の攻撃魔法『ダムト』を発動してキングタイガーを攻撃した。


立ち込める黒煙と降り注ぐ粉塵のなかで横たわるキングタイガー。


気のせいかな? 死んでいるような気がする。


あれ、一人で殺せるものなのか?


俺は恐る恐るギルド長を見て言った。


「あの......このキングタイガー......もしかして?」


「ええ、死んでいます」


……いやいやいやいや、無理だから、あんなの一人で倒すとか。


「い、いや、これは、あの、そのですね」


何故かわからないけど、俺はバツが悪くなった、そして。


「おそらく、皆さんが作ったヤツの傷が急所になって、運よく俺の魔法の当たり所が良くて……」


言い淀んでしまったが、ここでキチンと言わないと!


「だから、みんなが作ってくれた急所に運良くですね。俺のささやかな魔法があたっただけで、俺は運がいいだけのごっつぁんゴールを決めただけなんです!」


「「「「「「「「「「そんな訳ないでしょうぉおおおおおおおおお」」」」」」」」」」


総勢十数人に一斉に突っ込まれた。


なんかS級の魔物が弱いようない気がする。


☆☆☆


「はあ、はあ、お待たせしました。例のS級の魔物の件で色々ありまして」


「大丈夫です。今日は特に用事もないですし、な? そうだろエリス?」


「はい。エリスはレオン様と一緒ならどこでもいいです」


にっこり笑うエリスが天使のように思える。


「そろそろ試験官も到着する筈です」


しばらく待つと、やはり、あの感じの悪いAクラス冒険者がやって来た。


「ちきしょう。パーティを追放された。俺が何したってんだ?」


ぶつぶつ言いながら不満げな顔で登場するAクラス冒険者ギルバート。


しかし、追放されても仕方ないけど、仲間もなんだよな。


ギルバートの意見に同意してたような気がする。


「先ずは俺の試験からですか?」


「ひぃー!!」


ギルバートは俺の顔を見るなり叫び声をあげるとへたり込んで......股間が濡れていた。


人の顔を見るだけで叫び声あげたり、漏らしたりするの止めて欲しい。


「いえ、レオンさん。あなたの実力に疑いの余地はございません。残りはお連れのエリス様の実力だけです」


「エリスの?」


俺は思わずエリスの顔を見た。


不安そうな顔だ。当然のことだ。彼女に実戦経験はない。


「どうしても、エリスの試験は必要ですか?」


「申し訳ございません。一応ギルドの規定でそうなります。賢者様のご紹介があったのはレオン様だけです」


俺はエリスをみつめて言った。


「大丈夫、エリス。スキルを使いこなせれば、必ず勝てる」


「はい。私、頑張ります!」


とは、言ったものの、俺に自信は無かった。


「え? こいつの連れ、戦闘のジョブ持ってない? ぎゃはは! それで冒険者やろってか?」


例のAクラス冒険者ギルバートは相変わらずだ。エリスのタレントが良妻賢母であることと、ジョブを一つも持ってないことを知ると、エリスを舐めてかかった。


エリスが虚数戦士のタレントを持っていることは報告していない。


「始め!」


ギルド長が開始の掛け声をかけた。


「へっ」


ギルバートが歪んだ笑みを見せる。


「俺に恥をかかせた罪を償ってもらうぞ!」


全く、エリスには関係ないだろう。つくづくそう思う。


エリス、頼んだぞ。君なら必ず勝てる筈だ。


「レオン様! 私、頑張ります!」


エリスはそう言うと、不意に姿を消した。


『え? き、消えた?』


俺は驚いた。


「ふぎゃぁあああああああ!!」


とたん、ドコーンという乾いた音が突然あたりに響き渡った。


見るとギルバートの姿が見えない。


「ギルド長、ギルバートさんは何を遊んでいるのですか?」


「い、いや! レオン様のお連れもぶっ壊れなのですか?」


は? ぶっ壊れ?


なんか失礼だな。俺やエリスのどこがぶっ壊れなんだ?


しかし、ギルド長も受け付けのお姉さんも声が出ないようだ。


ギルバートは1歩も動けず敗北していた。


今は空をクルクルと回りながら飛んでいる。ギルド長が上を向いていたので、わかった。


どうやら、エリスに吹っ飛ばされて空に吹き飛んだらしい。


エリスはスキル『加速』を持っている。


消えたのでは、なく、とんでもない速度で走ったのだ。


「エリス、すごいぞ! 良くやった!」


「レオン様、私、凄く早く動けましたよ!」


「そう、それがエリスのスキルだよ」


「私のスキル」


エリスの顔に笑みが拡がり。


「やりましたー!」


「......判定、エリス嬢の勝ち」


唖然としていたギルド長がようやく我に帰り、エリスの勝ちを認めた。


「大変失礼致しました」


「いえ。でも、これで冒険者ギルドへの加入試験は合格ですか?」


「もちろんです。何よりも高レベルの冒険者はギルドにとっての宝ですから。フィーナさん、至急手続きを進めて下さい」


「わかりました」


ギルド長はすぐに手続きを再開するよう指示してくれた。


「本来、冒険者ギルドへの新規加入の説明は担当が行っていますが、お時間をとらせてしまったので私の方から説明させていただきます」


「その間に手続きを進めていただけるのですか?」


「勿論です。あと、私の名前はフィーナと申します。今後、私のことはフィーナと呼んで下さい」


受け付け嬢はフィーナと言うらしい。


「わかりました。ではフィーナさん、改めましてよろしくお願いします」


「こちらこそ。それでは、レオン様とエリス様はギルド長とあちらへ」


それからギルド長とフィーナさんは俺達に冒険者の事について説明してくれた。


主に、禁則事項についてだ。


・冒険者は職務上、人を殺める事がある。


・護衛などの任務中の犯罪者等への殺害や傷害は罪に問われない。


・冒険者同士お互いに相容れない事象が発生した場合、決闘で解決する事が認めらていれる。

 この場合、誤って殺害してしまっても、罪には問われない。

 ただし決闘は双方の意思を確認した者がいないと成立しない。


「だいたいはわかりました」


「最後に、初めのうちは薬草集めなどの簡単な依頼から初めて、地理やフィールドの魔物の知識を手に入れる事が大事です」


「そうさせていただきます」


「あとは、誰かの冒険者パーティに加入する事をお勧めします。最初のうちは色々と教えてもらう先輩が必要です。冒険者ごときと侮らないで下さい」


「パーティへの参加は......」


俺は口篭った。他所のパーティに参加すれば、俺やエリスの特異なスキルや魔法がばれてしまう。


「もちろん加入するしないは個人の自由です。ただ、一流の冒険者でも、初歩的な情報が欠落することで命を落としてしまう事も稀ではありません」


「ありがとうございます。検討してみます」


だいたいの説明が終わるとフィーナの手続きも終わっていた。


「これをどうぞ。冒険者プレートです」


白い金属のプレートを手に取る。


「最初はFクラスからのスタートになります」


「わかりました」


「プレートは身分証明書にもなります。他の街へ行く際の通行証にもなります」


「わ~綺麗!」


エリスはプレートをえらく気にいった様だ。


たしかにアクセサリーの様にもみえる。


「ありがとうございます。早速、何か依頼を受けてきます」


「お気をつけて」


二人に見送られて、俺達は冒険者ギルドへ向かった。

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