第12話賢者との出会い
目を覚ますと、俺はふかふかのベッドの中だった。何だか良い匂いもする。
夢じゃ無い。俺は生きている様だ。ここは普通の宿舎の部屋の中の様だ。
『?』
正体不明の暖かく柔らかいものが俺を包んでいる。
だが柔らかいものの正体はすぐにわかった。
「賢者様?」
そこにいたのは賢者のマリア様だった。勇者パーティに配属される前に王都で世話になった。
賢者様はクラス4『賢者』のタレント持つ、王都の魔術士兵団の団長を務める要人だ。
「う、うん。レオン、起きたのか? その、あまり見ないで欲しいな」
賢者マリアは少々機嫌が悪そうだった。
マリアは全裸だった。
「すみません」
賢者マリア様、宮廷魔術師の彼女が何故俺の横で裸でいるんだ?
いくら意識が朦朧としていても、俺には賢者様を襲う程の度胸はない。
怪我も酷くて、そんな余裕があるはずもない。
そもそも、そんな事しようものならあっさりと魔法でどうにかされてしまうだろう。相手は最強の魔法使い、賢者マリア様だぞ?
どうなってるんだ?
「賢者様、俺、何もしてないですよね?」
「当たり前だ。なんで唐突にそうなる!」
「じゃ、この状況は一体どういう事なんですか?」
「リザレクションだ。理由は分からんが、道端でお前が死にかけていたから、リザレクションの魔法を使ったまでだ。リザレクションは身体を密着させた方が効果が高いからな。変な勘違いをするなよ」
凄い勘違いだっだ。実は犯されたかと思った。
俺は賢者様に命を助けられたらしい。
『だが、何故?』
なんでそんな偶然が?
答えは賢者様の質問でわかった。
「レオン、お前、あの不思議な魔力はお前が原因なのか? それに、その左腕と右目、更に奴隷の烙印まで......一体何があったのだ?」
俺は気遣ってもらえる事が嬉しかった。久しく感じた事のない感情だ。
俺はここ暫くの自分に起こった出来事をありのまま話した。
勇者エリアスとアリシア、ベアトリクスの裏切り。
奴隷商人にエリスと一緒に売られ、俺が貴族に買われた事。
買われた先の貴族の娘に拷問されて左腕と右目を失った事、そして、俺を拷問した貴族の娘を殺した事。
「おまえが、人を殺しただと.......それにエリアスがお前を奴隷として売ったなど、俄かには信じられない」
賢者様は俺が人を殺した事と勇者エリアスの所業にショックを受けた様だ。
「でも、どうやって貴族の屋敷から逃げだす事が出来たのだ? その体で戦う事なんて出来ないのではないか?」
そこで俺は虚数の魔法使いになった事を話した。
「俺のタレントは虚数魔法使いだったんです。だから、虚数魔法で貴族の娘も、娘の従者も殺しました」
「クラス4のタレントが開眼か、それは良かったな。だが、その魔法で人を殺したのか......あの不思議な魔力は虚数魔法の発現だったか......」
「賢者様、あの時俺が殺らなければ殺られていました。あの屋敷では何人もの奴隷が貴族の娘の快楽の為だけに無惨にも殺されていました」
「やむを得まいか、その状況ではな。そもそも、そんなことが世間に露見でもしたら、その貴族の方が困るか」
「俺はエリアス達に奴隷として売られました。奴は特別な奴隷にすると言ってました。ベアトリクスは1年も生きていられないと」
「正直に言うと勇者エリアスは多分、お前を奴隷商人に売り飛ばしたんだろうと思う。実は私も最近あいつの正体に気がついてきた。あの男は最悪の女たらしの上、冷酷非情な腐れ外道だ」
「アリシアやベアトリクスの事も知っているのですか?」
賢者様は顔を伏せた。
「良くない噂ばかりだ......アリシアとベアトリスは勇者エリアスと淫らな関係にある事。それに奴らは王都に来た時、国費で豪遊しておる。今、この国は飢饉の真っ最中なのにな。だから国民からはたくさんの不満が出ておる。それとは別に、エリアスはこの付近の貴族共の弱みを握って、かなりの金を強請り取っているという噂だ。それも、尋常ではない金額だ。貴族達はそれで、やむなく税を上げた。
その所為で、国民は勇者エリアスとその従者のアリシアとベアトリクスを憎むところまできておる。あの3人はいつも一緒に豪遊しておるからな」
賢者様は俺の知らないアリシアやベアトリクスの事を教えてくれた。
俺はショックを受けた。
アリシアやベアトリクスは俺を裏切っただけでなく、国民から忌み嫌われる存在へと成り下がっていた。
「お。俺には俄かには信じられません。アリシアやベアトリクスがそんな......それに豪遊していたとしても、悪事はエリアスがやった事だと思います」
「お前はアリシアやベアトリクスの事をどう思っているのだ? まるで二人を庇っている様だが?」
「庇っている訳では......単に二人とエリアスの悪事は関係ないと思います。そんな事までする様な......」
「そんな事する訳のない二人に殺されそうになったのだろう? まぁ、いい。お前の言う通り、二人はエリアスの悪事自体には絡んでいないのかもしれない。ただ、エリアスに騙されているだけなのかもな」
「......」
「それは信じてやれ。少し安心した。お前が心の奥底迄どす黒い復讐心にかられておらんで」
「いえ、俺はエリアスだけでなく、三人共この手で殺してやりたい! 特に、アリシア、アリシア......」
俺はアリシアを思い出すと涙が出てきた。変わってしまったアリシア。
でも、俺の脳裏には故郷での昔ながらのアリシアが思い出された。
「無理はするな。お前はアリシアとベアトリクスの二人の事を忘れた方がいい」
「忘れられる訳がないじゃないですか! あんなに愛しあっていたのに、たった3ヶ月前に会った男に身体を許したんですよ! 俺は隣の部屋にいるのに、エリアスはわざと聞かせる為に、ベアトリクスだって」
「レオン、憎しみは憎しみしか呼ばん」
「しかし!」
「妹のベアトリクスはともかく、アリシアはただの幼馴染だ。お前に相応しい女はアリシアではなかっただけだ」
「......」
「しばらく、この宿に泊まれ。そして落ち着いたら違う街へ行け。王都ではエリアス達の目にふれる恐れがある。あいつらの目の届かぬところで新しい生活を始めろ。幸い、お前は虚数魔法の使い手。レベルが上がれば、勇者エリアスと同等の存在にもなれる」
「......エリアスと同等」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「馬鹿な事は考えるなよ。今のお前ではエリアスの足元にも及ばない。今はエリアス達の目の届かないところでレベルを上げろ」
賢者マリア様は俺のために衣服を買い求めて、さらには幾ばくかのお金もくれた。
賢者様は用事があると言って出かけたので、俺にはちょうど良かった。
俺はエリスを取り返そうと思っていた。
そして、あの奴隷商人に復讐するつもりだった。
あの拷問の牢獄の人達はおそらく大半があの商人が売ったものだろう。
普通の奴隷の取り引きでは無い。彼らは特別な奴隷と言っていた。
この国では奴隷とはいえ自由に殺害する事は許されない。立派な違法行為だ。
違法行為を犯す奴隷商人がそうそういるとは思え無かった。
違法な奴隷販売は重い罪なのだ。
賢者様には俺が人を殺すことを知られたくはなかった。
多分、ガッカリされてしまうだろうな。
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