⑧
「・・・・・それで、事情を説明していただけますよね?」
平原でカゲヒコはなぜか正座で座らされていた。
目の前にはびっくりするほどの笑みを浮かべたキャンティが立っている。顔こそ桜の花がほころぶような笑顔であったが、その背後には般若を背負っている。
カゲヒコの隣にはクリョウカンも正座をしていて、その膝の上にはフィギュアサイズのニクジャガンが胡坐をかいている。
「~~~~~~~~~~~~♪」
クリョウカンは世にも幸せそうな鼻歌を口ずさみながら、ニクジャガンの小さな頭をナデナデしている。
黒いフードのせいで顔は見えないが、確実に幸福に満ち足りた表情をしているだろう。
「まあ、話せば長くなるんだがな・・・」
口火を切ったのはカゲヒコであった。
それは魔王討伐から1ヵ月経った頃のこと。
勇者パーティの仲間達と別れて怪盗になったばかりのことである。
その日、カゲヒコは珍しく菓子店で買ったスイーツに舌鼓を打っていた。
普段は甘いものを食べないカゲヒコであったが、月に一度くらいは甘味を食べたくなる時がある。
「うむ、美味だにゃー・・・・ん?」
当時、住んでいた宿屋でスイーツを堪能していたカゲヒコの身に突然の異変が襲い掛かった。
目の前の空間に蜘蛛の巣のようなヒビ割れが入り、ぽっかりと黒い穴が開いたのだ。
空間魔法による攻撃かと身構えたカゲヒコであったが、穴の中から飛び出してきたのは見知った顔の男であった。
「菓子をよこせええええええええっ!」
「ま、魔王っ!?」
空間に開いた穴から飛び出してきたのは魔王ニクジャガン。カゲヒコ達勇者パーティが討伐した魔族の総大将である。
なぜか手の平サイズに縮んでいるニクジャガンは、カゲヒコが食べていたスイーツへと水泳の飛び込みのように襲いかかり見る見るうちに食べ尽くしていく。
「うめえええええっ! やっぱり人間界のケーキ、パネエ! あー、幸せ。ウマウマ!」
「・・・・・・とうっ!」
「げぶっ!?」
驚きのあまり硬直していたカゲヒコであったが、しばしの時間を要して正気を取り戻して魔王に拳を振り下ろした。
ニクジャガンは生クリームまみれになりながら拳に押しつぶされ、テーブルの上にべちゃりと潰れた。
「なんだこれ・・・新種のモンスターか?」
珍妙な虫を見るように潰れた魔王を見つめていたカゲヒコであったが、一つの可能性に思い至ってアイテムボックスの中を探ってみた。
時間が停止しているアイテムボックスからはカゲヒコの予想通り、永久封印していたはずの魔王ニクジャガンの心臓が消失していたのであった。
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