「どうやらまだ悪い夢の中にいるようだ。二度寝するとしようか」


「そのまま永遠に眠りたくなければ、起きてください」


「スヤスヤ、グースカピー」


「てい」


「うおおっ!?」


 サクッ、と剣で刺してきた。

 避けるのが遅かったら、カゲヒコはベッドごと串刺しにされていただろう。


「何しやがる!」


「人の話を聞かないあなたが悪いです」


「真夜中に人の家に入ってくるほうが悪いだろ!?」


 カゲヒコは当然のことを突っ込むが、相手は正真正銘の魔人である。

 至極まっとうなツッコミを平然と受け流して、自分の用件だけを伝えてきた。


「とある人物を探しています。手伝ってください」


「・・・単刀直入だな。前振りとかないのか?」


「生憎と言葉を飾るほどの語彙は持ち合わせていません。私は武人ですので」


「相変わらずで安心したよ・・・ぺろ、いやキャンティ」


 カゲヒコが愛称で呼ぶと、キャンティはやや表情をしかめながらも文句を言うことなく流した。


「私は人間界には不慣れです。武人ゆえに探し人を捕まえる術も持ってはいません。貴方の力を貸してください」


「一応、俺達は殺し合いをした中だと思ったんだけどな。いったいどの面下げて頼み事しに来たんだよ」


「先代様の時代のことでしたらすでに決着がついているはずです。これは魔王様の命令です。魔王様と契約を結んでいる貴方にも手伝う義務があるかと」


「んー・・・」


 先代の魔王を討伐したカゲヒコであったが、その跡目を継いだ現・魔王とはとある契約で結ばれた関係である。

 キャンティからの要求は魔王との契約の範囲外にあること。キャンティの言葉を聞いてやる義理はないのだが・・・


(こいつに恨まれるのはおっかねえなあ・・・)


 魔王軍四覇天、とくに【剣鬼】のペロペロキャンティの恐ろしさはカゲヒコが誰よりも知っている。

 キャンティに恨みを買うのは避けたいところだ。


「まあ、いいだろう。それで? いったい誰を探してるんだよ」


「初めからそう言えばいいのですよ。時間を無駄にしましたね」


「・・・・・・」


 こいつは俺に恨みでもあるのか?

 そんなふうに思ったカゲヒコであったが、そりゃあるかと思い直して抗議の言葉を飲み込んだ。

 キャンティの前の主人を殺したのはカゲヒコだ。


「探し人の名はクリョウカン。【闇欲】と呼ばれた元・四覇天です」

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