⑤
「だあああああああああっ!」
シャドウは地面を転がるようにして迫りくる凶刃から逃れた。
顔にかけていた銀仮面スレスレのところを白い剣先が通り抜けていく。
「巨乳好き、コロス! 百回コロス!」
地面に転がるシャドウへとマティルダが追撃をしてくる。上段に剣を構えて、躊躇うことなく振り下ろしてきた。
「くっ、【怪盗】!」
シャドウは咄嗟にオリジナル魔法を発動させた。
シャドウの体をとらえたマティルダの剣であったが、その体を通り抜けて地面へと突き刺さる。
『ほう、それが噂の壁抜け魔法か! 実に興味深いのう! …………しかし』
「セクハラ男絶対殺すソード、発動!」
「なあっ!?」
マティルダが手にしている剣が白い光を放った。朝日のように闇夜を照り付ける光を受けて、シャドウの背筋に悪寒が走る。
『その魔法は肉体をアストラル体に変換することにより物体を透過させるのじゃろう? つまり、ゴーストなどに特攻を持つ『聖』属性の攻撃は防ぐことができない。違うかね?』
「……嫌らしいじいさんだな。女の肌だけじゃあなくて、男の体にまで興味があるのかよ!」
『ほっほっほっ、優れた被検体であれば性別など関係ないわい!』
「女の肌、見るダメ絶対。超殺そう。千回コロス!」
「どわあっ!」
シャドウはゴロゴロと地面を転がって光の剣を躱す。そのまま何とか姿勢を立て直して、屋敷の窓へと飛び込んだ。
いまだに【怪盗】は発動したままである。窓を割ることなく屋敷の中へと侵入することができた。
『ほっほっほっ、逃げるのは結構じゃが、屋敷の中にワシはおらぬぞー。せいぜい頑張って逃げ回ることじゃな』
「ああ、うるせえじじいが! 覚えてやがれ!」
揶揄するような声に叫び返して、シャドウは廊下を走って逃げる。
「変態がいっぴーき、変態がにひーき……」
ガシャン、と背後で壁が切り崩される音がする。
ホラー映画のモンスターと化したマティルダが屋敷の中へと足を踏み入れる。
「想像以上にやばいな、これ! ホラー系のスリルは予想してなかった!」
ぎゃあぎゃあ、と喚きながら屋敷の中を走り回る。シャドウの命がけの鬼ごっこが始まったのだった。
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