②
いつもの行きつけの食堂にて、カゲヒコとサーナはカウンター越しに話をしていた。
「ローウィ・サンダロン? 聞かない名前だな」
サーナの口から出た名前を聞いて、カゲヒコが訊き返す。
店主が例のごとく買い出しに出かけているため、食堂にはカゲヒコとサーナの二人しかいない。
カゲヒコの疑問に、サーナは補足説明をする。
「スレイヤー王国宮廷魔術師、魔導研究特務、サンダロン伯爵。マジックアイテムの研究者としては有名ですよ。ほら、魔導砲の開発をした方です」
「ああ、あれか。魔族との戦争のときに兵士が使ってたな」
記憶を掘り起こしながらカゲヒコは頷く。
「それで? そのサンダロンがどうしたって?」
「はい、サンダロン伯爵ですけど、最近、魔国産のマジックアイテムを大量に入手したとか情報が流れていまして。おそらく、カゲヒコさん目当てのオーバーアイテムもあると思うんですけど……」
「へえ、それはそれは」
黒野カゲヒコ……怪盗シャドウにとって、魔国から流出したオーバーアイテムは最優先に狙う標的である。
サンダロン伯爵がそれを所有しているというのなら、是非とも盗みに入らなければなるまい。
「なるほどな……それで、サーナはどうして浮かない顔をしているんだ?」
「ええっと……」
重要な情報をもたらしてカゲヒコに貸しを作ることに成功したサーナであったが、その表情はどこか暗い。
普段は馬鹿みたいに明るくて、逆セクハラを繰り返してくる彼女にしては珍しい表情である。
「それが……どうもこの情報は胡散臭いんですよ」
「おいおい、闇ギルドなんて胡散臭い組織に入ってる奴が何を言ってるんだか」
「そういうことじゃないんですっ!」
むっ、とした顔でサーナが言い返す。
「この情報は短期間に広がりすぎてるんですよ! まるで誰かが意図的に流したみたいなんです!」
「へえ、つまり……この情報は俺をおびき寄せるための罠だと?」
「……カゲヒコさんが標的とは限らないですけど、そういうことですね」
「ほお」
カゲヒコは腕を組んで、いかにも悩んでいるようなポーズをとる。
不安げな顔をしているサーナには申し訳ないが、カゲヒコの中ではすでに覚悟が決まっている。
目の前のスリルから尻尾を撒いて逃げ出すくらいなら、最初から怪盗になんてなっていない。
「面白じゃあないか。いったい、どんな罠で俺を待ち受けているのか見物させてもらおうじゃないか」
「……カゲヒコさんならそう言うと思ってました。あまりお薦めは出来ませんけど」
気が進まなそうに言いながら、サーナはサンダロン伯爵の情報が書かれた文書を取り出した。
紙の束を受け取ってアイテムボックスにしまい、カゲヒコは立ち上がって食堂の出入り口をくぐる。
「ああ、そうだ。カゲヒコさんにもう一つ言っておくことがありました」
「ん、何だよ」
「騎士団のマティルダさんが行方不明だそうですよ。居場所に心当たりはないと思いますけど、一応は気にかけておいてください」
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