⑩
『あ、お兄さん。待ってたよ』
「ああ、待たせたな」
ロット夫人の最期を看取ったシャドウは、転移魔法を使ってサブロナ城まで戻ってきた。城に入ると不思議なことに前回は絶え間なく襲いかかってきたアンデット達がおとなしくなっており、シャドウが城の奥に進んでいくのを邪魔されることはなかった。
シャドウが宝物庫へ足を踏み入れると、満面の笑顔のルリアが出迎えてくれる。
『ねえねえ、どこに行ってたの? もうどこにもいかないよね?』
「ああ、ルリアちゃんさえ良ければ、この城で暮らしたいと思っているんだけど………」
『本当!? 嬉しいな!』
にこにこと笑いながら抱きついてくるルリアの頭を撫でて、シャドウはアイテムボックスから預かっていたペンダントを取り出した。
「ルリアちゃんにお土産があるんだ。受け取ってくれ」
『おみやげ! お父さんとお姉ちゃんがいなくなってから初めて! 嬉しい!』
半透明のルリアの手の上にロット夫人のペンダントを落とす。ルリアはそれを小さな手の中で転がして、やがて目を見開いた。
『これ………お姉ちゃんの?』
「ああ、そうだ」
『お姉ちゃんにあったの! どこにいたの!? 元気にしてたの!?』
「落ち着け、ルリア。君の姉さんはそこにいる」
『え?』
火が付いたように興奮したルリアをなだめながら、ペンダントを指さす。
「心を鎮めろ。感じるんだ。君ならできる」
『え、ええ………何言ってるかわからないよう………』
「大丈夫だ。俺がついてる」
『うん………』
ルリアの肩を抱いて落ち着かせる。
目の前にいる幽霊の少女は間違いなく当代最高峰の死霊術使いだ。冷静になって魂を感じれば、それに気がつかないわけがない。
『あ………』
やがてペンダントの中から青白い人魂のようなものが浮かび上がり、人間の形へと変わっていく。そこにいたのは白髪頭の老婆ではない。妙齢の美しい女性の姿であった。
『お姉ちゃん!』
現れた女性――サリア・サブロナにルリアが抱きつく。
大きな両目からポロポロと涙を流しながら、ようやく出会えた姉の胸に顔を埋める。
『どうして戻ってきてくれなかったの!? ルリア、ずっと待ってたんだよ………!』
『ごめんなさいね。ルリア』
『ルリアが悪い子だったから帰ってきてくれなかったの? お姉ちゃんに言われた通りに、ずっと宝箱を守ってたんだよ………』
『違うの、ルリア。全部、私が悪いの。ごめんなさい。本当にごめんなさい』
『いいの。戻ってきてくれたから、もういいの。お姉ちゃん、お姉ちゃん………お姉ちゃん………』
ルリアとサリアは抱き合って、互いに涙を流し合う。
やがて、抱き合う二人の身体が色を失っていき、白い光の粒になって天へと昇っていく。
『お兄さん! ありがとう! 本当にありがとう!』
『ご迷惑をおかけしました。ありがとうございました』
最後にそう言い残して、最高の笑顔を残して消えていく。
二人の幽霊が還るべき場所へと還っていったのを見送って、シャドウは静かに姉妹の冥福を祈った。
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