⑪
その後、怪盗シャドウが盛大に火を上げたのを目印に、冒険者ギルドから送り込まれた増援がゴブリンの集落へと突入してきた。
スクロールで帰還してきた『銀翼の乙女』の報告を受けて、王都の冒険者ギルドはすぐさま、他の町のギルドへと応援を頼んだ。
転移魔法やマジックアイテムを使って最速でやってきた冒険者の合同部隊により、残っていたゴブリン達は残らず討伐された。
ゴブリンに捕まっていた女性達も全員、救助されて、事態はひとまずの解決をみせた。
「クラスアップ。おめでとさん、ってな」
あれから1週間後。カゲヒコは冒険者ギルドで、新しいタグを受け取っていた。今度のタグは、アイアンではなくブロンズである。
今回のゴブリンとの戦いによって、大勢のブロンズ、アイアンランクの冒険者が亡くなってしまった。
これにより、王都のギルドは大きな人材不足に見舞われ、カゲヒコをはじめとした生き残りのアイアン冒険者全員がブロンズに昇格することになった。
カゲヒコにとって冒険者という身分は、夜の仕事を隠すための仮初の職業である。それでも、こうして目に見えて昇格の証をもらえるのは悪い気がしない。
(ま、その気になればゴールドにだってすぐになれるんだけどな)
何か楽そうな仕事はないかと依頼ボードの前まで来ると、そこには顔見知りとなった少女の姿があった。
「や、ライムちゃん。元気かい」
「・・・・・・アイアンの、人?」
「残念。ブロンズに昇格したんだ」
「・・・・・・」
見せびらかすようにタグを見せると、少女は無言で胸元のシルバーのタグを掴んでこちらに見せつけるようにする。
「・・・私のほうが、上・・・調子に乗らないで・・・」
「そりゃ、失敬。ところで何を見てるんだ?」
「ん・・・」
ライムが見ていた依頼書を横から覗き込むと、それは「怪盗シャドウの捕獲」という内容の依頼だった。
「シャドウに興味があるのか?」
「シャドウ・・・捕まえられるの、私だけ・・・」
「へえ、そりゃ知らなかった」
カゲヒコは以外そうに目を細めた。一応、目の前の少女の命の恩人のつもりだったのだが・・・何か恨まれることをしただろうか?
「ま、金貨1千枚だもんな。そりゃ魅力的な依頼か」
「ん・・・お金、いらない・・・」
「金目的じゃないのか? じゃあ、捕まえてどうするんだ?」
「・・・・・・」
何気なくカゲヒコが聞くと、ライムはじっと黙り込んでしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぽっ」
「ぽ?」
少女の無表情な顔が、心なしか赤く染まっている。ライムは依頼書をはがして、自分の顔を覆って隠した。
「・・・・・・内緒」
それだけ言って、ライムはパタパタと走っていってしまった。
依頼書を持ったままギルドから走り去ってしまった少女の背中を、カゲヒコは呆然と見送るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます