召喚の儀

開闢歴かいびゃくれき14997年9月1日◆

◆ウィッタード王国 王城 大講堂◆


[[[sira ziam abhanacta ziam seela zashhaa]]]


 40メートル四方の空間。その中央に、直径15メートルの巨大な召喚陣が描かれている。

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 巨大な11名の召喚士が召喚の呪文を繰り返し唱える。

 召喚士は一人、また一人と魔力切れをお越しながら倒れ、倒れた者から順に黒いローブの魔導士に引きずられ、召喚陣の側から剥がされていく。

 そこに白いローブの召喚士が補充として入り、常に11名の召喚士が召喚陣に魔力を注ぎ続けている。


 もうかれこれ3時間、召喚陣は青白い光を湛えながらも揺らめいている。

 待機している召喚士の数は元は60名程が、次々と魔力切れでその数を減らして残りは4名程になった。


 王は宝飾にまみれた錫杖を床に打ち付けると、立ち上がった。

「ジレイ!貴様が女神エルレイア様に夢で賜った召喚術とやらは、妄想の類では無いのか!我が時間を三刻も無為に使わせた罪、どう贖ってくれようぞ!!」


 ジレイと呼ばれた、装飾を帯びた白いローブを纏う老いた召喚士長は、獅子王と評されるカイゼル=フォン=ウィッタード王の威厳とその豪胆な声に震える。

 しかしそれを悟られぬよう、穏やかに、緩やかにと心掛けながらも語る。


「おお我が王よ…お怒りをお鎮めくだされ…わたくしめが夢で見たのはまこと…魔王に対抗しうる手段は既に我が国を始め世界には無く…女神エルレイア様がそれを憂いての天啓てんけいを授けて下さったのじゃ…」

ジレイは王の苛立ちを溶かすよう、つとめてゆったりと話し掛けていく。


「ええい!なら何故我が元に女神エルレイア様は現れぬ!王としての我に天意が無いとでも申すのか!!」

「王よ…カイゼル王よ…女神エルレイア様がわたくしめに賜ったのは召喚陣の図式と詠唱句呪文のみ…王に賜るのはその召喚されし勇者に違い有りませぬ…」


「チッ…!まあいい。替えの召喚士あと2名か。それまでは待ってやる」

「王よ…ありがとうございます…。わたくしめも出ます…。」


 王が召喚陣の手前8メートルに置かれた急ごしらえの王座にドカッと腰掛けると同時に、召喚士長カイゼルは魔法陣へと歩み寄り声を上げる。

「召喚士諸君、失敗は許されぬ…。ここからはわたくしも参加していくゆえ…最後まで力を振り絞るぞ…!」


 ゴウ、と召喚士長より青白い気炎が立ち上る。


「ふん…」

 王は召喚陣へと向かうジレイの背中を見ると、苛立ちを頼もしさが上書きしていく様をふと感じる。


「来るのかも分からんな、勇者が…!」

 誰にも聞こえないほど小さな声量で、カイゼル王は呟く。



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「…おお…これは…」

 召喚士長ジレイの声を発端として、突如、青白い光がその光量を急速に増していき、大講堂全体を真っ白に染め上げる―――。



カイゼル王は立ち上がり、声を上げる。

「おお、おお…!!勇者が…!勇者が…!!」


 三度、雷鳴に似た音が鳴り響くと、召喚陣の青白い光に囲まれた中央に、横幅5mの黒い大きな金属の塊と、一人の紺色の服を纏った男が立っていた。


――王へ向けて男は言い放つ。


「我が名は霊能者天花寺てんげいじ けい!!この世界アルスガルティアを混沌より救うため、女神エルレイアに遣わされし者なり!!異世界の者達よ、約束してやろう!!われが一振りの剣となり魔王をうちほぼぼぼブフォオアッ…!!!ひー、ひー…!あーおもしろ…!むりむり」

(一生懸命考えたけど、ちょっと噛んだ瞬間に盛大に笑ってしまった…!)


「「「!?」」」

一同は驚愕した。レイノーシャ…?ゲジゲェジー…?いやしかし、この男性はなぜ一人で語り一人で笑っているのだろうか…。

王から召喚士から、固まる大講堂の一同を見回し、召喚士長ジルレイはその青年に向けて声を発する。

「あ、あ、あなたさまが…勇者様なのですか…?」

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