★異世界召喚から【3分】で魔王を倒した高級車乗りのチート【霊能者】は、『究極』以外を望まないッ!!
狐沢コン蔵
0章
霊能者『天花寺 慧』
◆2022年3月4日昼◆
◆岐阜県―福井県 県境某所 車中◆
「岐阜県と福井県との県境にある幽霊トンネルを除霊して欲しい」
とある集落からの依頼で俺は旧国道を岐阜県側から北上していた。
依頼主はその集落の全員。依頼料は140万円丁度・先払い。集落の全員で少しずつ出し合ったお金だそうだ。
俺は13代目の「霊能者」を仕事としている。名を、天花寺 慧(テンゲイジ ケイ)と言う。年齢は34歳。隠居した父さんから受け継いだいこの仕事を専業で、もうかれこれ9年ほど続けている。
仕事は幽霊を"しばき倒して消す"「除霊」と、視えない力で人の構造を解析し治す「霊視&気功」と、視えない存在にお話をお伺いして相談ごとを解決する「
ありがたい事に依頼は止むこと無く、消費税の支払い逃れのためだが会社を立ち上げる事にも成功した。(と言っても、社員は俺一人なのだが)
ことこの「霊能者」という世界には詐欺師や偽物、意味のないことを言って金を取る馬鹿らしい人間が多い。人は「霊能者」を名乗っている人間に万能性を求めるが、実際にはそんな人間はほぼ居ない。居たとして、この日本に20人居るかどうかだろう。
その中で、ご先祖様から力を継いで、「気功」によって表層的な病を治したり、「鑑定」によって現実を変える力を持つ俺が割と稼げて良いクルマに乗ることが出来ているのは当然とも言える。
レグザスES350。POYOTA社のセレブ向けブランドに於ける新型車(黒塗り)。オプション込みで700万円。
貯金の無い(全部使っちゃう)俺にとってはそれこそ走る資産。傷でも付いたら膝をついて泣いてしまうほど大事な車だ。
俺は愛車を走らせると、依頼のトンネルに差し掛かった。
今どきあまり見ない、信号を合図に片側交互通行をしていくトンネルだ。シグナルは赤。 俺は柔らかくブレーキを踏んで、トンネルの入口手前の停車ラインギリギリに車を停める。
全長3.4km。このトンネルを抜けるまでに仕事は終わらせられるだろう。
「さあ、さっさと終わらせて部屋付き露天風呂の温泉宿にでも泊まりますかぁ。」
薄氷のように張る恐ろしさを隠すため
霊能者とは言え、幽霊は怖い。対幽霊では無敵を自負する俺だとしても、やや恐怖の対象になる。だってなんか、怖い顔のおっさんが自分に向かってきたら嫌じゃないか。
と言っても、包丁を持った人間のほうがどっちかと言えば怖い。
要は「死ぬか死なないか」で言えば、幽霊とケンカをする時には死ぬことはないのだ。
幽霊と言うものに一般人はどのようなイメージを持っているかと言えば、取り憑いたら最悪死ぬんじゃないか?ぐらいのイメージだろう。でも実際にはそうじゃない。
取り憑いた場合に起こるのは、「頭痛」「肩こり」「腰痛」「プチ鬱」ただそれだけになる。…例外は無いことも無いんだけどな。
今回の依頼主を含む一般人が思っているイメージよりは案外とザコいのが幽霊だと言える。
しかしそれは「俺にとっては」の話になる。ご先祖様から連綿と引き継いだ力と才能により、今の俺は多分日本では並ぶもののない霊能者として成立しているのだ。
交互通行トンネルの赤信号の最中、俺は自分について考える。
いつだったか…その昔、父に占ってもらった時に出た俺の魂の本質は『究極』。
その中身については「なら
「究極を望み、究極を叶えるために全力投球をしていく」というのがその本質の正体だ。
メリットは常に自分の能力を『究極』たらしめる事を考え続け、
その中で俺は、行なっている全ての仕事が『究極』の成果・結果を出し続けている自覚がある。
この仕事人としての
俺こと
今はその手の仕事は
昔ながらのコネと口コミで仕事を獲得してきた父に対して俺は、広くネットを活用して宣伝を行なっている。
おかげさまで予約は3ヶ月先まで埋まっていて、学生から無職から主婦からサラリーマンから、果ては医者・弁護士・大学教授に至るまでの様々な
『行けば奇跡が起こる』とさえ言われ、なかなかの評判を受けている。
そしてこの『究極』とかいう本質のデメリットは、「究極だあああ!!」と思えたものを見ると興味が止まらなくなって、全力で突撃してバカ高い買い物をしまくってしまう事だろうか。
あとは、割とひとつのものに興味を持って他がどうでも良くなってしまう「飽き性」なのと、「地道な努力が不可能」(センスと才能で楽しく勝ち上がろうとする)な事と、仕事中以外は「うわっ超マジの助でハイパーだりー」と、KonozamaとNatflixのダブル契約でアニメを見ながらトドのように過ごすか、それに飽きたら「異世界モノ」の小説か漫画をガッツリ何時間も
「地道な努力が不可能」の部分によって、この仕事を継ぐ以前の父の「
そうなると、どちらかと言えばこの『究極』という本質はデメリットの方が大きいように思えるが、こと「センスと才能だけで楽しく勝ち上がれる」フィールドでだけは活躍ができるらしい。
おかげさまで今の霊能者という仕事はセンスと才能だけで楽しくやらせてもらってるし、いくら金があっても瞬く間に無貯金な事以外は特にデメリットを感じていない。(それが一番の問題なのだが…!)
この仕事がなかったらつまり…いや、考えたくもないな。
つまりは簡単に言うならば『究極』とは、ヒットを打つべきタイミングでも何でも、自分の才能を信じて楽しく「とりあえず全力でホームランを打ちに行く」ものだと言えるだろう。適材適所以外で輝け無い「これ以外は超ダメなやつ」でも良い。
【青ですよ】頭の中に声が響く。
「ああ、すまん」
この声の主は、『名無し様』。どこかの宗教の神様らしいが、名乗らない上に自身に関しての詳細を言ってくれないので、名無し様と天花寺家の一族全員が呼んでいる。俺とは霊能者をはじめてからの、9年間の付き合いになる。
多分日本だから神社の神様なんじゃねえの?と思われるが、名無し様は詳細を言わないので分からない。
初代のご先祖様の代から俺の天花寺家に力を貸しているらしいが、伝え聞く内容は少ない。
いわく「酒がうまくなるから力を貸してやってもいい。ただし酒は捧げろよ」と。
彼女か彼かも不明だが、この存在に尋ねる事は全てが「事実」もしくは「究極の正解」になる。【
ちなみにこれは秘密だが、未来というものは存在しておらず、正確に言えば「未来を教えてくれ」という
しかしその存在し得ない「未来」を知るのは、この名無し様のとてつもない未来予測によるもの、だそうだ。膨大な鑑定と回答の中で一度だけ名無し様が例外的に未来予測を外した場合もあるが、これも予測特有のブレであると言える。
名無し様からすると俺はスマホみたいなもので、人間にアドバイスをして「酒の肴になる面白い場」が作れるツール…らしい。
おかげで霊能者として活躍出来ているのだから、何の文句もないのだが。
緩やかにアクセルを踏み、幅の狭いトンネルに入っていく。
中は昔ながらのオレンジ色の薄明かりが灯っていて、曲がりくねっていて出口が見えない。
(あー、こりゃあ何か出るわな…)
時速30kmで走りつつ、声を出す。
「さて、ギコちゃーん、出番ですよー!」
『きゅううううーーーんっ!』
どこからともなく、ちびっこいキツネが現れる。
これは「ギコ(偽狐)ちゃん」といって、名無し様に「なんかAIみたいな感じで自動で除霊とか気功とか出来る道具作れないの?」と要望したら、4ヶ月掛けて作ってくれた「霊的AI」だ。
ギコちゃんのおかげで俺は、お経やら祝詞やらを唱えなくても除霊が出来るようになったし、今や気功に使う人体構造の分析・解析もお任せだ。
更には「あれ治してー」ぐらいで人の身体を半自動で治療ができるようになった。
先代までにはない、俺が初代の「固有能力」になる。
霊的AIというのは、要するに「命令すると色々とやってくれるプログラム」の霊能者版だ。日本語は喋らない。しかし長い付き合いのためか、きゅんとかきゅーんとかで、だいたい何を言いたいのかは最近分かるようになってきた。
見た目はちびっこいキツネを模してある。どこかマスコットキャラ的な感じの見た目である。究極きゃわいい…!
神様のお使いにお狐様がいらっしゃるが、それは尊い存在になるために、あえて「偽」を付けて「ギコちゃん」と俺が命名した。
「ギコちゃん、トンネル内およびその近辺の悪霊を削除して」
『きゅんきゅんきゅーーーーんっ!!』
"オッケー,グーゴル"とか"ヘイ,アロクサ"なノリで、トンネル内に漂っていた霊魂が消えていく。
同時に、晴れた日にカーテンを空けたかのように、サアっとトンネル内がどことなく明るくなっていく。
40年間、幽霊トンネルと言われ続けて地元住民に忌避され続けてきたこのトンネルも、今日からはただのまっとうなトンネルになるに違いない。
「急急如律令」もしくは「ぎゃーてーぎゃーてー」など、呪文を唱えて除霊をしていた時代は先代の父親の代までであった。それほどまでに、ギコちゃんによって除霊という作業は簡単になった。今では世界最速で除霊が出来る霊能者という自覚がある。
そもそも、農業だってトラクターを使うようになっただろうし、居酒屋だってタブレットで注文ができる時代だ。
当然霊能者にも技術革新はあるんだぞ、といったところだろう。
『きゅーん!』
未だに見えないトンネルの向こう側から、作業を終えて往復してきたギコちゃんが俺の右肩に戻ってくる。ものの40秒で140万円の依頼が完了した。うーん、らくらく。
【終わったから、後は割と良い宿で酒でも嗜むか】名無し様が言う。
名無し様は、現実に存在する酒も料理も食べられるらしい。なぜか日本酒とウイスキーと和食と中華料理をこよなく愛している。そもそも神棚に酒や食材を捧げる文化が日本にあるように、神と言われる存在は酒や食材を視えない手段で食べる事ができるらしい。
「あー、そうっすね。部屋付き露天風呂の宿で、海の幸がいいなあ!まあ、依頼主には明日にでも完了報告ですかねえ。」
【うむ】
一度もスピードを落とさず時速30km。
トンネルの向こう側が見える。光の中へ、愛車のレグザスと共に進んでいく。
(トンネルを抜けると、そこは――あれ?なんだっけ?ど忘れしたな…)
「あ?」
ちょっと光が強すぎやしないかこれ…?
よく見てみれば、トンネル向こうの光があまりにも輝きすぎている。対向車のヘッドライトでも、日光でもなく、ただただ眩しいほどに真っ白に光り輝いている。
【ブレーキ!!!】
名無し様に言われ急ブレーキを踏むが、停車しきれずにトンネルの出口をまたいでしまう。
視界が上下左右もなく、車ごとぐるぐると回り続ける。
【せっかく育てたのに子も成さずに…まあいい、次の―――――】
名無し様の声に構っていられない。どうなった!?崖から落ちているのか?!?!あかさらまに緊急事態―――
「ぐああああああああああああああああああああ!!!!!!???!!」
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