第70話 脚下照顧

「ほな、会議を始めるで」


 ある日曜の昼下がり。沈痛な面持おももちでベルが言った。

 机の上にちょこんと座る彼の前には、私をはじめ悪の組織のメンバー。みんな、例によってベルからのLINEで招集されたのだ。


「さっそくやけど、各自意見を――」

「ちょっと待ってよ」

「なんや」

「会議はいいけど、議題をちゃんと言ってよ」


 周りのことはお構いなしに話を先に進めてしまう。それがベルのよくないクセだということは、知り合って数週間の私でも理解していた。


「そんなん決まってるやろ。この前の反省会や」

「あー……」


 この前、つまりは駅前での一件。

 牛丼怪人を含む3体の怪人が暴走。最終的には私とホワイトリリーが力を合わせてなんとかたおすことができた。


「一時的やけどホワイトリリーを追い詰められたんは大成功や。せやけど、結局は敵の手を借りることになってしもうた。仕方しゃーなかったとはいえ、悪の組織のメンツ丸つぶれや」


 負けっぱなしの悪の組織私たちにもともとメンツなんてないような気もするけど。


「ん? そういえば二階堂にかいどうのやつがおらんな」

「あ、子どもが風邪ひいたんで休むそうです」

「まったく……まあええ」


 ベルは身体と同じ真っ黒なしっぽをくるりとひねらせて、


「そんなわけで、今日は反省会や。みんな反省点を述べていってくれ」

「反省もなにも、ベルが怪人を暴走させたのが悪いだけじゃないの?」


「……」

「……」


「よし、まずは橋本はしもとからや。どんな反省点があると思――ぶにゅう」

「誤魔化さないの」

「ふごご……」


 逃しはしまいと、黒猫の頬をつまむ。


「ベル、言ってたじゃない。自分がマイナス感情エネルギーを注入しすぎたのが原因だって」


 ホワイトリリーを一度退けたことで調子に乗った結果、あの暴走を招いてしまったのだ。いわば自業自得。


「まあまあ千秋殿、あれはワシも悪かったからそれくらいで」

「ダメですよハカセ。いつもエラそうに言ってくるんですから、こういうときは自分からビシッとしてもらわないと」


 今日だって、私がプリピュアのアニメを楽しんでいるときにいきなり「会議や!」だなんて連絡してきて。計画的にってあれほど言ったのに。


「ていうか、反省会よりも謝るのが先じゃないの?」


 みんな、あの一件でどれだけ振り回されたか。

 私なんか、怪人をたおすためにマントをめくって極小ビキニを露出したんだから! どれだけ恥ずかしかったことか!


 今思い出しても顔から火が出そうになる。肌がほとんど隠れていない黒ビキニ姿の私に、周りの人たちが送ってくるエッチな視線。


「人に反省させるよりも、まず自分が反省するべきなんじゃないの?」

「い、いや~。ん~となあ~」

「ベ~ル~?」


 汗をだらだら流してあさっての方向に目を泳がせるベル。かと思えば、ぽんと柏手かしわでをうった。


「せ、せや! 今日集まってもらったんはもうひとつ理由があったんやった!」

「理由?」

「ああ、だーいじなことや」

「本当? その場しのぎでデタラメ言ってるだけじゃないわよね?」

「も、もちろんや」


 ブンブンと首をたてに振る。


「……なによ、もうひとつの理由って」


 くだらない理由だったら今度こそレッツゴー保健所だ。


 じいっと見ていると、ベルはごほんとわざとらしい咳払いをして、言った。


「それはなあ……ボーナスや!」

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