第6話 ストロングチューハイって、そんなにおいしいの?

 屋上までたどりつくのは、5分とかからなかった。


 重たい扉を開けると同時、私を呼んだ人(猫?)の名前を呼ぶ。


「ベルさん!」

「おお、めっちゃ早いやん! 助かるわ!」


 私を見るやいなや、声を上気させて顔を明るくする。どうでもいいけど猫ってけっこう表情豊かなんだ。ベルさんが普通の猫じゃないのはさておき。


「いったい何があったの?」


 きながら、屋上の端にいるベルさんに近づく。その質問の答えは、屋上から見下ろせる駅前広場にあった。


「あれは……」


 いつもなら学校や会社帰りの人で賑わう時間帯の、駅前広場。


 そこに、明らかにおかしな存在がいた。


「缶、チューハイ……?」


 語尾に「?」がついてしまう。だって、私の目に映るそれが、ありえない大きさだったからだ。はっきりとはわからないけど、2メートルくらいだろうか。しかもにょきっと手足まで生えてる。やたらマッチョな手足だし。


「ガハハハハハ! ストロング系ばんざああい!」


 でっかい缶チューハイはよくわからないことを言いながら(ていうかどこから声を出してるんだろう)両手を上げて威嚇いかくするようなポーズをとっている。

 えっと……。この期に及んでCMの撮影、とかじゃないよね。


「怪人や」

「怪人?」


 状況がまだうまく飲み込めていない私に、ベルさんが説明をしてくれる。


「せや、ほんであれを見てみ」


 再び怪人の周囲に目を移すと、


「なんだありゃあ!」

「うわああ!」

「とりあえず逃げろー!」


 撮影とかでないことを直感的に悟ったのか、慌ててその場から離れようとする人々。


「ガハハハハー! そうはいかんぞー!」


 そんな人たちを、等身大缶チューハイこと怪人が追いかけ回している。


「俺は社畜の必需ひつじゅ品、ストロングチューハイだ! お前たちも酔いしれるがいい!」


 言ってることはよくわかんないけど。


「ああして不安や恐怖みたいな、人のマイナス感情をエネルギーにしてるんや」

「そう、なんですね……」


 駅前広場はすでに騒ぎになっている。たぶんそのうち警察とかもやってくるんだろうけど、あの現実離れした怪人に普通の人が太刀打たちうちできるとは思えない。

 だからこそ、私の力が必要なんだ。

 悪と戦う力が。


「頼むで」

「……はい」


 ベルさんの言葉に、私は小さく返す。ぎゅっと力を込める拳は汗ばんでいた。

 ここから、始まるんだ。


 私の魔法少女としての戦いが。

 初めてでどこまでやれるかわからないけど、きっと私しかできないことなんだ。どんな強い敵だろうと、困難に直面しようとも、私は諦めない。


「みんなのために……あの怪人を、倒します」


 私は決意を口にして――


違うちゃう違うちゃう。あんさんにはアイツの手助けをしてほしいんや」


「……は?」


 ベルさん、今なんて言った?

 手助けする? 私が? あの怪人を?


「えっ……と、もういっかい言ってもらっていいですか?」


 もしかしたら聞き間違いかもしれないもん。うん、だって今の私、緊張きんちょうしてたんだし。

 しかし、私のあわい希望はいとも簡単に打ち砕かれた。


「だから、あの怪人に加勢してほしいって言ったんや」

「……」


 んんん???


「あの、ベルさん」

「あん?」

「一応確認しておきたいんですけど」

「なんや」


「私……魔法少女になったんですよね? 悪いやつらと戦うために」

「そんなわけあらへんやろ。オレら悪の組織、その幹部として戦ってもらうためや」


「え?」

「え?」

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