第4話(1/3)

「三人。タバコは吸わない派です」


 今日は火曜日、つまり後輩部の活動日だったが、俺達は部室ではなく学校から程近いファミリーレストランに来ていた。

 姫宮が「今日ヒナが学びたいことは、部室じゃ出来ないんです!」と言い出したからだ。詳しいことは店に着いてから、とのことだったので、俺と藤和は何も分からないまま店へ向かったのだ。


 店内は比較的空いていて、順番待ちなくボックス席へ案内される。三人だと席の割り振りに困るものだが、自然と一年と二年に別れた。


「私、家族以外とファミレス来るの初めてです……」

「マジですか。センパイ、ヒナたち藤和さんの初めて奪っちまいましたよ」

「ありきたりな言い回しするな」

 今どき男子中学生でも言わないだろうに。


「で、学びたいことってなんだよ」

 俺は頬杖をついて訊ねる。


「あ、センパイ、メニューどうぞ」

「お、おう……」

 しかし姫宮は答えの代わりにメニュー表を手渡してきた。


 まぁファミレスに来ておいて水だけというわけにもいかないので、注文を考える。しかし家に帰れば晩ご飯が待っている。あんまりガッツリ食べるわけにはいかないだろう。


「と、いうように、良い後輩とは気が利くものだと思うんです」

「はぁ……」

「なるほど」

 今のメニュー表はそういうことだったのか。


「で、ここに来たわけです」

「いや話が飛びすぎ」

 気が利く後輩はもっと順を追って説明してくれるだろうに。


「気が利く行動をしたいけど部室だと動きがないから、そういう機会がありそうなファミレスに来た、って感じでしょうか」

「そう! さすが藤和さん! センパイと違って物分かりがいい!」

「……なんで分かんだよ」

 この二人、対極のように見えて案外相性良いのかもしれない。


「ということで、藤和さんと親睦を深めることも兼ねて、ファミレスでだらだらお喋りしつつ気を利かせるトレーニングをしようかと」

「ふむ」


 それでトレーニングになるのかはさておき、藤和の歓迎会というのはそれこそ気が利いたことだと思った。


「藤和さん、何か食べたいものありますか?」

「うーん……特には。あ、でも夕ご飯前なので軽いものがいいかもです」

「ならポテトでいっか」

 無難なチョイスだが、コスパ良いしこれでいいだろう。無難には無難となっただけの魅力がある。


「せんぱ~い♪ 後輩らしいことといえば、先輩に奢られるっていうのがあると思うんですよ~」

「……ポテト分だけだぞ」

「わーい♪」

「あ、ありがとうございます」


 ということでポテトとドリンクバーの注文を済ませると、


「藤和さん! どっちがセンパイの好みのドリンクを入れて来れるか勝負です!」


 なんか始まった。


「え、あ、はい!」

「いや一杯で十分なんだけど……」

「まぁまぁ。期待しててくださいって! 必ずセンパイが『そう! それを待ってた!』って言うような飲み物を取って来ますから!」

「ほんとだよな? ふざけたりとかしなくていいからな?」

「分かってますって~♪ さ、藤和さん行きましょう♪」


 本当に聞き入れてもらえたのか分からないまま、二人は揃って席を立ってしまった。

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