鏡の国の色男(掌編)

 「中々の色男ではないか?」

夜は9時、密かに美男子びなんし披露宴が開かれていた。


 恥ずかしながら、私には鏡を見るたび自身の容姿について褒める癖があったのだ。

「うむ、今日も一段と良い顔だ」だとか

「なかなか端正な顔立ちではないか」であったり、「やれやれ、天は私にを与えなさった」なんてことも呟いたものだ。


 その日、なんだか私の容姿がやけに格好良く思われたのだった。静かに鑑賞するのもなんだったので、思い切って、


「あなたは!?驚いたな……急に美男子が現れたものだから、腰を抜かすかと思ったが、私だったか」


などと言ってみた。

始めは自らの行為を嘲笑したものだが、どうしてなかなか気分がいい。


「これは世の婦人方をとりこにしてしまうのも無理はない。罪なことだ」


全くその通り。


「世の男性が、私を憎むだろうか。悲しいかな」


やれやれ、辛いものだ。


「嗚呼、もはやスタァにだって劣りはしない。溢れ出る光が隠しきれない」


存分に褒めちぎったあと、熱い自信が湧いてきた。勇気と気力と魅力とが、混ざり合い、全身をほとばしる。


「素晴らしい!まさに10年いや!100年に1人の輝かしき美貌!!」


自然と拍手していた。噛み締めるように頷いた。




ヨシ、風呂に入るとするか。

よく冷えた脱衣所でのぼせたまま、風呂場へと足を踏み入れた……!

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