エコノミカル・ロマンチスト

白石ハル

月に願いを(掌編)

 明日はスーパームーンらしい。いつものように寝っ転がってネットサーフィンをしていたら知った。どうせ夜は家にいる僕にとっては月が大きかろうが小さがろうが知ったことではないのだが。


 それでも、このことを伝えたい人がいた。久々に連絡を取ろうか取るまいか、小一時間思案した。その人が月が大きく見えることを知ってどうするというのだろうか。咄嗟とっさの思いつきを押さえ付けるような理性的な思考を振り払うように窓際に向かう。カーテンを開けると、窓にはいつもよりかっこいい僕の顔が映った。そこで僕は明日はスーパームーンである旨をその人に伝えた。


「だからどうしたいの?笑」


 相変わらずのあの人に窓の影は少し笑った。少し火照った顔を冷まそうと、窓を開けて月を眺める。


明日はスーパームーン。


この手が届きそうなほど明るい月は、おおよそ35万7000Km離れている。最も地球へと歩み寄る明日の瞬間でさえ、絶望的なへだたりが存在しているのに、僕はまだ知らないふりをする。

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