第342話 宝箱の中身は

「とりあえずは解析で開けてみるか……いや、でもこれだけの数の宝箱を開けるとなると大変そうだな」

「ぷるるんっ(100個ぐらいありそう)」



よくよく観察すると広間に設置されている宝物は無数に存在し、その全てを開くのは時間が掛かりそうだった。解析と文字変換の能力で開錠するという方法ではすぐに1日の間に扱える文字数を突破してしまう。


色々と考えた末、レイナは宝箱その物に細工を施すのではなく、別の方法での解除を試みる。以前にリリスはレイナが望む物を意識すれば短い文字でも彼女が思い描いた物を作り出せるという事を証明したため、今回は「鍵」を作り出す事に決めた。



(この宝箱の鍵、宝箱の鍵、宝箱の鍵……どうだ!?)



頭の中でレナは目の前の宝箱を開く鍵を作り出したいと願いながら鞄の中から適当な道具を取り出し、鍵を作り出す。ちなみに今回使用したのは1枚の「皿」であるので失っても別に何も支障はない。



「あ、成功した?」

「ぷるんっ?」



指先で握っていた皿が光り輝くと、やがて光を放ち、あまり見た事もない形状の鍵へと変化を果たす。外見は金色に光り輝く鍵であり、普通の鍵と違って独特な形状をしていた。鍵というよりはねじ巻きを想像させ、試しにレイナは鍵を差し込む。



「おっ、嵌まった。成功したのか……あとはこいつを回すだけでいいのかな?」

「ぷるんっ(やってみたい)」

「クロミンがやるの?まあ、いいけど……ちゃんと回せる?」



クロミンが自分にやらせろとばかりに頭の上の二本の触手を伸ばし、器用に人間の腕のように利用して鍵を回し始める。本当にねじ巻きのように鍵は回転しながら徐々に奥まで入り、やがてある程度収まると鍵が開いたのか自動的に宝箱の蓋が開く。


蓋が開かれた事でレイナは中身の方を確認すると、どうやら宝物の類ではなく装備品が収められていたらしく、中に入っていたのは籠手だった。



「え、なにこれ……籠手?」



宝箱の中身が金銭の類ではない事にレイナは残念に思う一方、籠手を持ち上げようとするとかなりの重量がある事に気づく。一応は重要品かもしれず、先に回収を行う。


とりあえずは宝箱の中身が存在する事を確認すると、レイナは鍵穴に差し込んだねじ巻き式の鍵の回収を行う。どうやら鍵穴から取り外せない事もないらしく、普通に鍵穴から引き抜く事に成功する。この特殊な鍵を使って宝箱を空ける仕組みらしく、どうやらここへ訪れた人間は鍵がないから無理やりにピッキングで宝箱を開いたらしい。



(なるほど、宝箱を空けるときはいちいちこの鍵を使わないと駄目なのか……面倒だけど)



ねじ巻き式の鍵を手にしたレイナはとりあえずは他の宝箱を開く前に皆の様子を確認する。自分と同じように気絶しているだけだとは思うが、一応は容態を確認しておく。



「リルさん、リルさん起きて……」

「う、ううんっ……」

「ほら、チイも目を覚まして」

「くぅんっ……」

「ネコミンもしっかりして」

「にゃあっ……」

「ハンゾウも目を覚まして」

「ZZZ……」

「ぷるんっ(起きろやっ)」

「はぐっ!?な、何ですか!?」



レイナが優しく女性陣を起こそうとしている間、クロミンの方は呑気に眠りこけていたリリスに平手をくらわす。スライムなのにどうやって平手を喰らわせたのかは不明だが、寝ている間に叩かれたリリスは驚いたように起き上がる。


最初に彼女は真っ黒な空間に覆われている事に戸惑うが、すぐにレイナが事情を説明すると自分たちが第五階層に辿り着いたことを理解して驚く。



「ここが第五階層ですか?驚きましたね、まさかこんな暗黒空間だったとは……でも、明かりがないのは不便なので照らしますね。光球!!」

「おおっ、それも聖属性の魔法だっけ?」



リリスが掌を差し出して呪文を唱えると、掌に収まる程度の光の球体が出現して周囲を照らす。光度は強いが目には優しく、いくつかの光球を作り出す事で広間全体を照らす。



「うわ、これは凄い数の宝箱ですね!!あれ、でも何個か開いている……もう空けちゃったんですか?」

「いや、俺が開けたのは一つだけだよ。中に入っていたのはこれだけど……」

「籠手、ですか?なんとまあ変な物が入ってましたね」



レイナが籠手を差し出すとリリスは不思議そうに覗き込み、試しに受け取ろうとした。だが、レイナの手元から離れた瞬間にリリスは籠手を支えきれずに落としてしまう。



「ふぁっ!?な、何ですかこの重量……ふぎぎぎっ!?」

「え、そんなに重いの?」

「重いなんてものじゃありませんよ!!これ、どうやって持ったんですか……!?」

「ぷるんっ?」



床に落ちた籠手をリリスは必死に拾い上げようとするが持ち上げる事が出来ず、レイナは不思議に思いながらも片手で籠手を持ち上げると、リリスは全身に汗を流しながら呟く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る