第286話 囮班

――ゴガァアアアアアッ!!



街中どころか第三階層全体に響くのではないかというほどの怒声が響き渡り、広場に埋もれて隠れていたブロックゴーレムが姿を現す。


その光景をハンゾウを筆頭とした囮班の団員達は頭の獣耳を抑えながらも確認すると、即座に動いて逃走を開始する。



「全員、予定の場所まで避難を開始するでござる!!絶対に一か所に留まっては駄目でござるよ!!」

「分かっている!!」

「分かった!!」

「ぷるるんっ」

「「ひいいっ!?」」



囮班を行うのは脚力には自信があるハンゾウ、オウソウ、サン(&クロミン)と比較的に体力が残っている獣人族の団員数名だった。彼等はひとまとめになって逃げるのではなく、それぞれが一定の間隔を開きながら逃走を開始した。


地上を駆け抜けるのはオウソウとサンが務め、2人は5メートルほどの距離を開きながら並行して駆け抜ける。更に二人の左右に広がる建物の屋根の上をハンゾウと他の団員達も駆け出し、全員が横一列に並ぶ形で逃げ出す。



「ゴオオオッ……!!」



ブロックゴーレムは動き出すと囮班の追跡を行い、地中から抜け出す際に少々もたついたが、体格差が大きすぎて歩幅が圧倒的に違うため、ゆっくりとした動きに見えながらも確実に囮班に距離を縮めていく。だが、一定の間隔を開いて闘争を行うハンゾウ達を見て誰から攻撃を仕掛けるべきか迷ってしまう。



「……ゴガァアアアッ!!」

「ぎゃああっ!?こ、怖いぃっ!?」

「こっちにきたぁっ!?」

「落ち着くでござる!!振動に足を奪われて跳躍を失敗すれば終わりでござるよ!!」



最初に狙いを定められた相手は建物の上を移動する数名の団員達であり、彼等は迫りくるブロックゴーレムを見て悲鳴をあげるが、すぐにハンゾウが彼等を落ち着かせるために声をかける。


ブロックゴーレムが踏み出す度に振動が走るため、地上を走り抜けるオウソウ達よりも建物の跳躍を行う団員達の方が危険が大きかった。もしも跳躍する瞬間に足元が震えれば飛ぶことも失敗する可能性が高く、一瞬の油断も許されない。



「逃走の基本は慌てず、騒がず、冷静に対処する事!!死にたくなかったら死んでも逃げるでござる!!」

「そんな無茶苦茶なっ!?」

「だ、誰か助けてぇっ!!」

「ちくしょおおおおっ!!」



ハンゾウの言葉に団員達は涙目で建物の屋根を駆け出すが、そんな彼等を見てブロックゴーレムは腕を伸ばす。だが、建物を跳躍する相手を狙うのはブロックゴーレムにとっても悪手である事が判明した。



「ゴオッ……!?」



建物の上を飛び回る団員達を捕まえようとブロックゴーレムは腕を伸ばすが、その際に建物に自分の体をぶつけてしまう。もちろん、頑丈な煉瓦で構成されているブロックゴーレムの肉体に傷がつくことはないが、衝突した建物は簡単に崩壊してしまう。


結果的には建物が邪魔をしてブロックゴーレムは思うように狙いを定める事が出来ず、いくらブロックゴーレムといえども建物を破壊しながらの追跡は移動速度が格段に落ちた。それを見抜いたハンゾウは敵の狙いを自分に引くために動きだし、彼女はブロックゴーレムの元へと敢えて向かう。



「拙者が敵の注意を引くでござる!!その間に皆は目的の場所まで逃げて!!」

「ハンゾウさん!?」

「無茶だ、殺されるぞ!?」

「きゅろろっ!?」



ハンゾウは大きく跳躍を行うと街道の反対側に存在する建物の上に移動を行い、迫りくるブロックゴーレムと向き合う。そんな彼女の行動を見て誰もが危険すぎると判断したが、ハンゾウは腰に差していた短刀を引き抜くとブロックゴーレムに向けて駆け出す。



「うおおおおっ!!」

「ゴオオッ……!?」



自分に向かってきたハンゾウを見てブロックゴーレムは反射的に腕を伸ばすが、それを利用してハンゾウはブロックゴーレムの伸び切った腕の上に着地すると、そのまま短刀を握りしめて走り出す。腕の上を走りながらもハンゾウは短刀を片手で握りしめた状態で攻撃を仕掛ける。



「疾風剣!!」

「ゴアッ……!?」



ブロックゴーレムの顔面を想像させる頭部の皺の部分に彼女は目にも止まらぬ速度で攻撃を仕掛けると、一瞬ではあるがブロックゴーレムの動作が止まった。その隙に彼女はブロックゴーレムの身体を滑り落ちるように降りると、地上へ着地した瞬間に姿を消す。


攻撃を受けて怯んだとはいえ、目の前に存在したはずのハンゾウが消えた事にブロックゴーレムは戸惑い、周囲の建物に視線を向ける。だが、彼女が隠れた様子はなく、本当に消えてしまった事にブロックゴーレムは動揺の声を上げる。



「ゴ、ゴガァッ……!?」

「何を呆けている!!俺達はここだぞ!!」

「きゅろっ!!お尻ぺんぺんっ!!」

「ぷるるんっ(かかってこいやぁっ)」



しかし、そんなブロックゴーレムに対して地上で駆け抜けていたオウソウとサンが挑発じみた言葉を与えると、ブロックゴーレムは言葉の意味は理解できなかったが、獲物がまだ残っていると判断して追跡を再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る