第247話 レイナとして
どうして勇者レアとして団員に受け入れられたにも関わらず、レイナの格好で行動しなければならないのかというと、団員の中に未だにオウソウのようにレイナが新参者でありながらリリス達と同じ地位に就いている事に不満を持つ者もいた。
もちろん、レイナの実力はここまでの道中で示しているが、彼女が気に入られているのは勇者レアがレイナを気に入っているだけに過ぎないと思い込む物も多い。
一応は他の人間の印象をよくするために食材調達も兼ねた狩猟を行うときはレイナは率先して魔物を退治している。だが、彼女の部隊に所属する者たちの多くは実力者のため、いくらレイナが頑張っても戦っている姿を見ていない者は他の人間が魔物退治に尽力しただけでレイナは何もしていないのではないかと疑う輩もいた。
「レイナ君には苦労を掛けるが、ここまで君の存在が他の人間に知られた以上はレイナ君がレア君であることを明かすわけにはいかない。それに女性の姿の君の方がいろいろと都合がいいことも多いだろうし、明日からはその姿で存分に手柄を立ててくれ」
「はい……まあ、実を言えばこっちの姿の方が戦闘に慣れてますからね」
「明日からは拙者たちも他の部隊と共に大迷宮に挑むのでござるな?」
「ああ、といっても全員で赴くわけじゃない。今回は君たちを筆頭に第一から第三部隊と共に行動してもらう。あまりに大人数で動きすぎるとこちらも対処しにくいからな。今回はチイも同行させるから安心してくれ」
「チイも?」
「ああ、私が3つの部隊の指揮を行う。だが、次の階層は資料によると最も過酷な環境のようだからな……準備は怠るなよ」
チイの言葉にレイナたちは頷き、明日から挑む第三階層は現在確認されている階層の中で最も環境が厳しく、同時にこの場所に訪れて迷宮の攻略を断念した冒険者も多い。
「明日からの探索は全員、長袖とマントを身に着けていくんだ」
「え?熱いところに行くのに長袖とマントを身に着けるのでござるか?」
「熱いからこそ身に着ける必要があるんだよ。肌を晒しているとだけで火傷を起こすこともあるからね」
「なんとっ!?それは盲点でござった……レイナ殿は物知りでござるな」
「それと水分補給は小まめに行う事、砂漠は乾燥しているから汗もかきにくいけど、知らないうちに相当に水分を消耗している事があるらしいからね。定期的に水を飲んで進まないとすぐに脱水症状を起こすよ」
「ほうっ……そんなことも知っていたのか」
「レイナは物知り」
地球の砂漠の知識を語るレイナに他の者たちは少し意外そうな表情を浮かべるが、リリスが最後に注意を付け足す。
「それと砂漠での移動は相当に体力を消耗するので気を付けて下さい。敵は魔物だけではなく、環境そのものだと考えてください」
「リリスの言うとおりだ。皆、明日以降に備えて今日はもう休んでくれ」
リルの言葉に全員が従い、明日以降の探索に備えて万全な体力を身に着けておくために身体を休めることにした――
――翌日の朝、全員が準備を整えると転移台の元に集まり、今回は4つの部隊が挑む事になるが、一度に転移を行える人数は限られているため、2つの部隊同士が転移台に乗り込んで転移を行う事が決まる。
「転移を行う際、最初に行うのは部隊の合流だ。今回の任務は転移台の祭壇を見つけ出さない限り、我々は戻る手段を失う。そのために失敗は許されない、だからこそここに集められたのは白狼騎士団の精鋭だ!!」
「精鋭……!!」
「俺たちが……!!」
副団長であるチイの言葉に団員達の指揮は上がり、今回の階層の攻略は決して失敗は許されず、祭壇を見つけ出さない限りはレイナ達は戻る手段がない。非常に危険だが、成功すれば第三階層を突破し、危険を冒さずに第四階層まで辿り着くことが出来る。
「第三階層か……ふうっ、気合を入れないと」
「レイナ殿、そう気負わずとも良いでござる。困ったときは仲間同士で助け合うのが一番でござるよ」
「ありがとうハンちゃん……でも、その恰好だといわれるとすごく違和感があるな」
現在のハンゾウは男物の服装に着替え、現在はレアの変装を行っていた。彼女は女性だけではなく、背丈が近い人間ならば男性にも変装する事が出来るため、傍から見れば他の人間には勇者レアにしか見えない。
ネコミンのように鼻が鋭い獣人には気づかれてしまう恐れがあるが、そのためにハンゾウは「消臭石」と呼ばれる魔石を装備しており、これを身に着けていれば体臭を完全に消すことが出来る。そのお陰でハンゾウの正体に気づく者もいない。
現在もレイナを落ち着かせるために近づいたハンゾウだが、傍から見ればレアがレイナのことを気遣っているようにしか見えず、そのせいで他の人間の中には好奇の視線を向ける者もいた。
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