第242話 キングボア
(そうだ、解析を使ってあいつのステータスを改竄する?それとも名前を変えて別の魔物に変化させるか!?)
走り抜けながらレアはキングボアに対抗する手段を考え、真っ先に思いついたのは解析と文字変換の能力で対処する事であった。追いつかれる前にレアはキングボアへと顔を向け、解析を発動させた。
「かいせ……うわぁっ!?」
「フゴォオオオッ!!」
しかし、解析を完全に発動する前にキングボアはレアに向けて槍のように尖った牙を突き刺し、危うく串刺しにされそうになったレアは回避する。距離はもう大分縮まっており、このままでは圧倒的な巨体に押し潰されてしまう。
(くそ、こいつ厄介すぎる……そうだ、あそこだ!!)
レアは近くに存在する岩山に視線を向け、後方から突き出してくるボアの牙をどうにか回避しながら岩山へと向かう。その様子を後ろから追っていたネコミンは驚き、注意する。
「レア、そっちは行き止まり……!?」
「フゴォオオオッ!!」
「うおおおおっ!!」
岩山に向けてレアは全力疾走で走り抜けると、キングボアも進路方向に岩山が存在する事に気付いたが、獲物に夢中になったキングボアは気にせずに駆け抜ける。やがて岩山の付近にまで迫ると、レアは固有能力の「瞬動術」を発動させ、上空へと跳躍した。
「突っ込め!!」
「フガァアアアッ!?」
上空へレアが飛んだことでキングボアは意識を上に反らしてしまい、それが仇となって顔面から岩山の岩壁へと衝突してしまう。派手な轟音が鳴り響き、岩山の岩壁に亀裂が走ると、やがて岩壁が砕けて瓦礫がキングボアの身体に降りかかる。
あまりの突進力に岩山が粉々に砕け散り、キングボアの身体へと降り注ぐ。その様子を見てレアは地上へと着地すると、キングボアの悲鳴を耳にする。
――フガアアアアッ……!?
調子に乗って獲物を追い続けて周囲への集中力が散漫になった事が仇となり、自滅してしまったキングボアに対してレアは額の汗を拭く。その様子を見ていたネコミンは驚いた表情を浮かべながらもレアの元へ向かい、キングボアが存在した場所に瓦礫の山が形成されたのを見て拍手を行う。
「おおうっ……流石はレア、頭が良い」
「いや、こいつが単純だっただけだよ。それにしても大迷宮……相変わらずとんでもない場所だな」
まさか第二階層にてこのような化物といきなり遭遇するとは思わず、レアは瓦礫に埋もれたキングボアを見て冷や汗を流す。大迷宮が自分達の常識が通じない場所だとは理解していたが、それでもここまでの化物が現れるなど思いもしなかった。
だが、どうにかキングボアを自滅に追い込む事が出来たのは喜ばしく、これほど大物ならばレアは自分のレベルが上がっているだろうと期待してステータス画面を開く。だが、どういうわけなのかステータスに変化はない事に気付き、不思議に思う。
「あれ?おかしいな……こんなでかい奴なら経験値もたくさん持ってそうなのにレベルが上がってない」
「レアが直接倒したわけじゃないから経験値は貰えなかった?」
「え、そういう事もあるの?いや、そうか……そうだよね」
冷静に振り返ればレアはキングボアに接触すらしておらず、あくまでもキングボアが岩山に突っ込んだのはキングボア自身の自爆である。確かにレアはキングボアを岩山に誘導したのは事実だが、やはり直接的に倒さなければキングボアの経験値は得られないのだろう。
惜しい事をしてしまったかと思ったが、全長が30メートルも存在する化物を倒す自信もないため、自滅に追い込んだだけでも運が良かった。レアは瓦礫の山に埋もれたキングボアから視線を話し、こんな化物がまた現れる前に場所の移動を提案する。
「ネコミン、急いでここから離れよう。こんな奴とまた出会ったら今度こそ終わりだよ」
「うん、分かった。何処へ行く?」
「とりあえず、もう一度高い所から辺りを見渡そう。さっきはネコミンに岩山を登って貰ったけど、冷静に考えたら俺が空を飛べば良かったんだ」
「空を?」
レアは先ほどのキングボアとの戦闘で自分が覚えている「瞬動術」の固有能力を使用すれば空高く跳躍できる事を思い出す。この能力はレアの脚力に応じて効果が高まるらしく、神速のお陰で以前よりも跳躍の飛距離も大幅に伸びていた。
試しに足に力を込めてレアは前方へと瞬動術を発動させると、以前は10メートル程度しか移動出来なかったが、今回は2~3倍の飛距離を楽々と移動する。足の具合を確かめたレアはこれならば瞬動術を連続で発動できる事も確認し、わざわざネコミンに岩山を登らせて周囲の光景を確かめさせる必要もない。
「よし、せぇのっ!!」
「にゃっ……!?」
上空へ向けて思い切り飛び上がった瞬間、レアの身体は30メートル近くまで上昇した。相当に力を込めなければここまでの距離を飛び上がる事は出来ないが、そのお陰で周囲の状況を確認し、祭壇らしき建物を発見する事に成功した。
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