第212話 白狼騎士団と黒狼騎士団

「そ、そんな……父上、どうか御考え直しを!!」

「黙れ!!これは王命である!!お主はもう国王に就く資格はない、しばらくの間は謹慎させる!!ライオネル、連れて行け!!」

「はっ!!」

「待ってください、父上!!父上ぇええっ!!」



必死にガオは泣き叫ぶが、そんな彼を見たくもない国王は目を反らし、ライオネルに玉座の間の外へ連れ出すように命じた。残されたギャンに関しても兵士達が連行し、これで二人の処罰を見届けたリルは国王に頭を下げる。



「陛下、お疲れ様でした」

「……もうよい、しばらくの間は一人にさせてくれ。全員、出て行ってくれ」



国王の立場として実の息子であるガオに罰を与えた事に対して国王は落ち込み、誰とも話したくはなかった。国王の気持ちを察した他の人間達は玉座の間から離れると、レアは連れ去られた王子の事を思い出す。



(……子供だったな、思っていたよりもずっと)



リルの弟だと聞いてはいたが、まさか訪れたのが自分とそんなに年齢の変わらない少年だと知ったレアもショックを隠せない。結果的にはレアの行いによってガオ王子もギャン宰相もあのような姿になってしまった事に心苦しい。


だが、悪事を行った彼等を許すわけにはいかず、今回の国王の判断は正しかった。このまま二人を放置すれば国に災いを引き起こす可能性がある以上、許すわけにはいかない。ギャンの命を奪わなかったのは国王の最後の恩情であり、ガオの方も謹慎だけで済んだ。



(同情するな、ここからが大切な場面なんだ)



気持ちを切り替えてレアは共に歩いているリル達に視線を向けると、彼女達は頷いて城内の敷地で待機している黒狼騎士団の元に赴く。その人数は300人は超え、ガオが集めたこの国の中でも武芸に秀でている者達が集まっていた。



「聞け!!黒狼騎士団の猛者たちよ!!ここにおられるのが白狼騎士団の団長であり、このケモノ王国の王女にして王位継承権を持つリルル王女様だ!!」

『っ……!?』



最初にチイが黒狼騎士団の者達にリルの紹介を行うと、騎士団の人間達は目を見開き、リルル王女と知ってその場で跪く。彼等からすれば自分達の主人であるガオが敵対している存在が現れた事に心中穏やかではないだろう。


黒狼騎士団はガオが結成した集団であるため、彼に忠誠を誓う事を条件に彼等は騎士団に入った。しかし、そのガオと敵対しているはずのリルルが今後は黒狼騎士団に管理を任された事に彼等は自分達がどうなるのかと不安を抱く。その気持ちを読み取ったようにリルは語り掛けた。



「最初に私がお前達に命じる事はただ一つ!!黒狼騎士団は本日を以て解散とする!!」

「そ、そんな!?」

「俺達はどうなるんですか!?」

「こっちは仕事を辞めて入ったんですよ!?」

「静まれ!!リルル王女様の御言葉を遮る気か!!」



リルルの発言に黒狼騎士団は騒ぎ出すが、それを見かねたハンゾウが剣を引き抜いて怒鳴りつけると彼等は黙り込む。そんな彼等に安心させるようにリルルは語り掛ける。



「案ずるな!!今後は黒狼騎士団の団員は白狼騎士団に加入してもらう!!待遇に関しては今まで通りと変わりはない!!」

「おおっ……」

「よ、良かった……」



待遇が変わらないという発言に団員達は安堵するが、そんな彼等を見てリルルは表情を一変させて怒鳴りつけた。



「しかし!!この中にもしもガオの命令を受け、悪逆非道な真似をした者がいれば私は容赦なく切り捨てる!!事前に言っておくが騎士という身分を利用して民を乱暴に扱う者は決して許さないぞ!!」

『はっ、はい!!』

「それと今後は私の管理下に入る以上、私の指示に従ってもらう!!私に忠誠を誓えっ!!何があろうと私を裏切らないと誓えるかっ!?」

『はい!!リルル王女様!!』

「王女ではない、今から私の事は団長と呼べ!!」

『団長!!』



300人の騎士を相手にリルルは堂々とした態度で対応を行い、それだけの事で騎士達の中には彼女に尊敬の念を抱く物もいた。彼等はガオに集められた武芸者だが、ガオと比べてもリルルは王族としての覇気と威風を持ち合わせていた。


ほんのわずかな時間で騎士達の不安を取り除き、自分に忠誠を忠誠を誓わせたリルルにはレアも尊敬せざるを得ず、他の者達も誇らしげに彼女を見つめる。一方でリルルは真剣な表情を浮かべ、黒狼騎士団に命令を与える。



「黒狼騎士団はこの日、この場を以て解散を宣言する!!お前達はこれからは白狼騎士団を名乗れ!!」

『承知しました、団長!!』

「また、お前達に紹介したい人がいる。ここにおられるのが帝国から訪れた勇者、レアだ!!」

『勇者……!?』

「あ、どうも……」



勇者という言葉に騎士達は驚くが、そんな彼等にレアはいつもの調子で軽く頭を下げる。そんな彼を見て騎士達は呆気に取られるが、ここで勇者という存在を軽く見られるのはまずいと思ったリルはレアにある事を頼む。

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