第210話 幻の第五階層

「しかし、今はここに勇者がいます!!彼と力を合わせ、我々は誰一人として成し遂げられなかった巨塔の大迷宮の「踏破」を目指します!!幻の第五階層まで辿り着いてみせます!!」

「踏破、だと……」

「勇者の力を借りれば必ずやあの塔の大迷宮を攻略出来ます!!そのためにどうか父上も彼に力を貸してください!!」

「ぬうっ……!!」



リルの言葉に国王は黙り込み、他の者達も厳しい表情を浮かべる。だが、そんな時に助け舟を出したのはライオネルだった。



「陛下、俺はリルル王女の意見に賛成するぞ」

「ライオネル大将軍!?何を言っておるのだ!?」

「俺もリルル王女と気持ちは一緒だ……もうこれ以上、他の国の連中に馬鹿にされのは気に喰わん!!我々はヒトノ帝国の属国ではない、誇り高き獣人の国だという事を示す!!そのためには大迷宮の踏破が必要なのだ!!そして幻と呼ばれた第五階層が本当に存在するのかを確かめたい!!」

『っ……!!』



ライオネルの言葉に大臣達も目を見開き、国王も思い悩む。だが、ここでレアは先ほどから彼等が語る「幻の第五階層」というのは何の事なのか気になり、質問する。



「あの、幻の第五階層とは?」

「……巨塔の大迷宮は複数の階層に別れ、現在確認されているのは第四階層までだ。しかし、かつて一人だけ偉大な冒険者が巨塔の大迷宮に挑み、第五階層の存在を確認した。その場所には巨万の富が存在し、実際に彼は黄金の宝玉を持ち帰った。だが、その冒険者は第五階層に辿り着くまでの道のりで深手を負い、戻って来たときには既に致命傷を受けていた。彼は第五階層の存在を知らせると死んでしまい、そこから先は誰一人として第五階層に辿り着いた者はおらぬ……だからこそ幻の第五階層と呼ばれておるのだ」

「幻の第五階層……」

「この冒険者の言葉は嘘だったのか、それとも本当なのか、それを確かめるためには第四階層を完全に踏破して第五階層に繋がる場所があるのかを確かめなければならん。しかし、かつてケモノ王国は国中の冒険者や兵士を動員して探せたが、結局は半数以上の者が第三階層にも辿り着けず、第四階層に辿り着いた者も殆どが殺されてしまった……巨万の富があるという第五階層に辿り着いた者はいない。いや、そもそも第五階層自体が本当に存在したのかどうか……その冒険者が虚言を吐いた可能性もある」

「しかし、彼が持ち帰ってきた宝玉は我が国の国宝として扱われています。陛下!!今こそが好機なのです!!第四階層を突破し、第五階層を見つけ出して巨万の富を得られれば我々はもうヒトノ帝国の援助など受けず、対等に渡り合えます!!どうか、大迷宮の踏破は勇者殿と私の白狼騎士団にお任せください!!」

「むむむっ……」



リルの申し出に国王は繭を顰め、確かにレアの勇者としての能力は見せてもらったが、それでも易々とは認める事が出来なかった。第一に仮にも王女であるリルルを危険な大迷宮へ赴かせる行為は流石に国王も躊躇した。



「しかし、リルルよ。大迷宮の踏破するといっても何もお前が無理をする必要はないではないか。国に戻って来たばかりで疲れているだろう?」

「何を行ってるのですか、こんな事はいつもの他国への潜入調査と比べればどうという事はありません」

「そ、それはそうかもしれんが……」



国王の言葉にリルは平然と言い返し、言われてみれば彼女は常日頃から王女が行う必要もない危険な仕事を行っていた。


実際の所はギャン宰相の策謀で彼女が危険な任務ばかりを就かせていたのだが、それを承諾したのは国王である。危険だからという理由で反対されてもリルが納得できるはずがなく、そもそもレアを他の人間に任せるつもりがない。



「それに勇者殿も気心の知れた我々と行動を共にするのが良いでしょう。そうだろう、勇者殿?」

「え?あ、はい……リル王女と一緒の方が安心できます」

「むっ!?ま、まさかお主……リルにまで手を……!?」

「陛下、落ち着いてください。私と勇者殿はそんな関係ではありません……私の配下の何人かは通じ合っているようですが」

「あうっ……」

「にゃうっ……」

「はうっ……」

「はわわっ」



リルの言葉にチイ、ネコミン、ハンゾウが頬を赤く染め、リリスはわざとらしく顔を隠す。その行動を見て国王はレアが昨夜の内にこの4人と肉体関係を築いているという報告を受けたことを思い出す。


確かに勇者としては自分の心を許す女性達と一緒に行動するのが気が休めるだろう。白狼騎士団は実績もあり、少人数ではあるが実力は確かな者ばかりだった。それでも5人で挑むのは少なすぎると思うが、ここでリルは口を挟む。



「それにお忘れですか?今後はガオが率いる黒狼騎士団も我々の管理下に入るのです。ガオが国中から集めた武芸者たちも加われば国王様も心強いでしょう」

「黒狼騎士団がどうして……い、いや、そうだったな!!確かにその通りだ!!」



リルの言葉にすっかり忘れていたが、ガオの配下がリルの暗殺未遂を企てたという事で国王は彼に罰を与えるためにリルが要望した黒狼騎士団の解散、及び人員の引き抜きを行う事を約束している。

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