第204話 説教
「――レアさん、貴方は結構なお馬鹿なんですか?」
「ううっ……言い返す事も出来ない」
ライオネルとの試合の後、気絶してしまったレアは王城の医療室と呼ばれる場所に運び込まれ、目を覚まして早々にリリスから説教を受けていた。彼女以外の人物の姿はなく、リル達の場合は騎士団としての業務があるので残る事は出来ず、レアは起きてから自分が気絶した後に何が起きたのかを彼女に語られる。
レアはライオネルを倒した後に急に倒れ込んだために大勢の人間が慌てふためき、すぐに二人は治療室へと運び込まれる。ライオネルはかなりの深手を負っていたために治療に時間は掛かり、現在も意識は戻っていない。最も彼の回復力ならそれほど心配位する必要はなく、治療室の担当医の話によるといずれは目を覚ますという。
リリスはリンゴのような果物を剥きながら意識を取り戻したレアに事情の説明を行い、彼の身にいったい何が起きたのかを尋ねる。その結果、ライオネルに勝つためといえ、とんでもない無茶をして呆れてしまう。
「いくら勝つためだからと言ってレベルを倍近くも上げたらそれは倒れるでしょうね。ほんの1レベルを上げただけでも凄い激痛が襲うんでしょう?」
「今思えば冷静さを欠いてました……」
「全く、確かにレアさんの文字変換は素晴らしい能力です。だけど、能力を扱いこなせないようでは意味はありませんよ。今後はもう、こういう無茶は止めてくださいね」
「はい、分かりました」
レアの口元に果物を差し出しながらもリリスは厳しく叱りつけ、今回のような無茶な真似は止めるようにと念入りに注意する。もしも対処が遅れていたらレアは本当に死んでいたかもしれず、そうなった場合は取り返しのつかない事態に陥っていた。
もしもレアの身に何かあればリル達だって悲しみ、リリスとしても興味深い能力を持つレアを失うのは惜しい。だからこそ念入りに説教を行って今後は迂闊な行動を避けるように注意を施すと、隣のベッドで眠っていたライオネルが目を覚ましたのか彼は身体を起こす。
「ぐうっ……こ、ここは?」
「あ、ライオネル将軍……大丈夫ですか?」
「むっ!?お前は……そうか、ここは医療室か」
ライオネルは自分がベッドの上に横たわっている事に気付き、隣のベッドに存在するレアに気付くと、事情を察したのか彼は殴りつけられた腹部を抑えて笑い声をあげた。
「なるほど、俺は負けたのか……だが、最後の攻撃は素晴らしい一撃だったぞ」
「ど、どうも……」
「一応は引き分けみたいな形で終わりましたけどね」
「ふっ……こんな若造と引き分けるようでは俺の負けだ」
試合の結果に関してはどちらも気絶したので結果から見れば引き分けに終わった。これでライオネルは面子を保ち、同時に勇者であるレアはライオネルと引き分けるほどの実力者であると周囲に示したが、ライオネルとしては自分よりもずっと若い人間の少年に気絶させられた時点で自身の敗北を認める。
「勇者殿、今までの無礼を許して欲しい……お前は強い、それだけで勇者の証明は十分だ」
「あ、ありがとうございます」
「男同士の友情ですか、こういうベタな展開も嫌いじゃないですよ」
お互いに全力で戦った事でわだかまりが解けたのかライオネルはレアと握手を交わし、彼が勇者である事を認める。一方でリリスの方はこのような機会でしかライオネルと話す事はないため、この際に質問を行う。
「そういえばライオネル大将軍に聞きたいことがあるんですけど、ギャン宰相はどうなりました?」
「ああ、奴か……奴は今でも性懲りもなく騒いでいるぞ。自分は騙された、嵌められたのだとな」
「ああ、やっぱりですか……」
「ギャン宰相か……」
レア達の作戦によってギャンは国王からの信頼を失い、宰相としての地位を奪われるどころか現在は囚人として地下牢に閉じ込められている。彼の監視はライオネルが行い、脱走させないように見張り役はギャンとは関わり合いの無い自分の部下を配置させていた。
ライオネルとしても人の好い国王を利用して宰相にまで上り詰めたギャンの事は気に喰わず、この機に彼の悪事を全て暴くつもりだった。だが、ギャンと親密な関係を築いていた大臣達は彼の無実を訴えていた。
「ギャンの派閥に属していた大臣共が国王様にギャンの話を聞くように促している。今の所は国王様は聞く耳は持たないが、もしも時間が経過してギャンの悪事の証拠を掴めなければ国王様も奴を解放する可能性もある。どうにか捕まえている内に何とかしなければ……」
「今の所は悪事を働いた証拠はないんですか?」
「残念ながら見つかっていない。奴と親しい間柄の大臣共を絞り上げれば吐くかもしれんが、それをすれば俺の立場が逆に危うくなるしな……」
「ふむ、困りましたね。私達としてもギャンが宰相に戻るのは色々と不都合なんですが……あ、そうだ。だったらギャン宰相に会わせて貰えませんか?」
「何?お前がギャンに会うのか?」
「いいえ、正確には私とレアさんですね」
「え?」
唐突に自分の名前が上がった事にレアは驚くが、リリスが耳元で囁く。
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