第202話 大将軍としての意地
(ひ、響く……何だ、こいつの拳は!?)
想像以上のレアの拳の重さにライオネルは目を見開き、彼は後退して危うく倒れそうになった。しかし、それでも持ち直したのは大将軍として大衆の前で惨めな姿を見せてはならないという意地だった。
攻撃を受ける寸前に襲いかかった腰痛によりライオネルは大きな隙を作ってしまい、その隙を逃さずにレアは攻撃を繰り出した。しかし、冷静に考えればレベル58のライオネルにレベルが30程度しかないレアの攻撃が通じるはずがない。
レアは身体能力を強化する技能をいくつか持ってはいるが、それはライオネルも同じ条件であり、しかも彼の場合は獣人族なので人間よりも身体能力の基本値は高い。レアが攻撃力を上昇させるフラガラッハを装備していたのならばともかく、今回のアスカロンは特に素手の攻撃を強化する能力は持ち合わせていない。
――しかし、レアは事前に自分の覚えている「剛力」「金剛」「神速」の4つの技能の強化を行う。この3つの技能は攻撃力、防御力、速度を「4倍」に強化させるという能力だが、リリスの助言を受けてレアは倍率を変化させて「9倍」にした。
今までどうして倍率を変化させる事を思いつかなかったのかとレアは不思議に思うが、冷静に考えればそもそも使う機会がなかったという方が正しい。大抵の魔物は聖剣を扱えば簡単に倒せ、しかも苦戦するような相手と戦う場合は解析と文字変換の能力で地球の武器を作り出したり、あるいは敵の能力を下げて倒してきた。そのせいで自分の力をわざわざ強化する機会がなかった。
しかし、今回の戦闘に限ってはレアはライオネルに勝つために剣に頼らず、素手で倒す為に戦う必要があった。技能の効果でレアの肉体は限界近くまで強化されているが、それでもライオネルを一撃で倒すには至らない。
「ぐうっ……な、中々の拳だな」
「それはどうも……」
「だが、今度はこちらの番だ!!」
明らかにやせ我慢ではあるがライオネルは笑みを浮かべてレアと向き直ると、彼は腹部と腰の痛みを抑えて鍵爪を振り翳す。それを見たレアは直感的に彼が「戦技」を発動させようとしている事に気付き、距離を取る。
「牙斬!!」
「うわっ!?」
ライオネルはリル達も愛用する戦技を発動させ、鍵爪を振り下ろす。結果として石畳で構成された床が削られる程の威力を誇り、腰痛と腹痛に耐えながらの攻撃でありながら凄まじい威力を誇る。もしも万全の状態で発動していればレアも攻撃を避けきれずに受けていた可能性があり、大将軍という肩書きは伊達ではなかった。
「ぐうっ……!?」
「ら、ライオネル大将軍!?」
「あの大将軍がふらついているぞ……さっきの一撃が余程堪えたのか?」
「巨人族の攻撃すらも受けたあの御方が……」
しかし、攻撃を行っただけでライオネルは身体が大きくふらつき、それを見た観衆も動揺を隠せない。ライオネルの強さを知っているだけにレアの一撃を受けただけで損傷を受けたライオネルの姿が信じられず、同時にレアも隙を逃さないために動く。
(躊躇するな、ここで決めるんだ!!)
まともに動けない内にレアはライオネルを仕留めるため、危険を承知で敢えて近寄る。この際にレアは「瞬動術」を発動させ、一気に距離を詰めた。
「だあっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「あの距離を一瞬で詰めただと……!?」
「何という瞬発力だ!?」
まるで瞬間移動の如く速度で距離を詰めてきたレアに誰もが驚き、神速の効果のお陰でレア自身の移動速度も跳ね上がっていた。更に剛力によって腕力も強化され、金剛の効果で肉体の防御力も最大限に高められている。
現在のレアは金剛と硬化と握力によって限界近くまで拳を固め、更に神速と剛力を兼ね合わせた一撃を放つ。ライオネルとしては岩石を想像させる拳が超高速で叩き込まれる感覚に等しく、彼の肉体に強烈な一撃が放たれた。
「このぉっ!!」
「ぐおっ!?」
「せいっ!!」
「がはぁっ!?」
一方的にライオネルは打ちのめされ、その光景を見ていた者達はレアの強さに驚きを隠せない。しかし、それでもライオネルは倒れず、いくら攻撃を受けようと耐え陵ぐ。
「ぐうっ……舐めるな、若造がっ!!」
「うわっ!?」
ライオネルは両腕を振り払うと、レアは咄嗟に後方に回避するしかなく、そんな彼に対してライオネルは踏み込むと、前蹴りを放つ。
「ぐおおっ!!」
「ぐぅっ!?」
「レア君!!」
前蹴りをまともに受けたレアは吹き飛ばされ、それを見たリルが声を上げるが、レアは寸前で硬化を発動させて防いでいたのでどうにか着地する。それでもライオネルの強烈な一撃で身体に痛みが走り、眉を顰める。
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