第175話 女騎士レイナ、解析の勇者レア

「それだけではありません、旅の途中で私は新たに有力な人材を発見しました。それがここにいる彼女です」

「あ、えっと……は、初めまして」

「む?其方は……人間か?リルルよ、その者は何者だ?」



急に呼び出されたレイナは慌てて国王に頭を下げてから跪くと、リルは彼女を呼び寄せて紹介を行う。



「彼女の名前はレイナ、私がヒトノ帝国で見つけ出した優れた才能を持つ娘です。陛下、私はこのレイナを私の騎士団に入れたいと思っています」

「何だと!?人間を騎士団に入れるというのか!?」

「何か問題がありますか?」

「いや、問題はないが……」



リルの白狼騎士団は全員がケモノ王国の住民であり、必然的に全員が獣人である。それにも関わらずに人間を騎士団に招きたいというリルの言葉に国王は驚くが、別に騎士団の規定の中で他種族を入れてはならないという決まりはない。


しかし、いくらリルが見出した人材と言えども人間と獣人の間では身体能力に大きな差がある。仮に高レベルの人間だったとしても獣人よりも身体能力が勝る逸材はそうはおらず、それに仮にも王女が率いる騎士団に入るのであればそれ相応の実力者でなければ認められない。



「リルよ、白狼騎士団はお前の管理下にある以上は騎士団に人員を補充するのはお前の自由だ。しかし、その人間の娘に本当に騎士として相応しい実力を所持しているのか?」

「ええ、当然です。何ならば腕試しをしても構いませんよ?ここにいる誰かと戦わせますか?」

「ええっ!?」



リルの言葉にレイナは驚くが、彼女はウィンクを行って自分に任せろとばかりに頷き、仕方なくレイナはリルに従う。一方で国王は難しい表情を浮かべるが、すぐに話を戻す。



「……いや、今はその娘の事よりも勇者の件が先じゃ。お前達が連れ帰ったという勇者はいったい誰だ!?」

「名前はレアという少年です。この少年は他の勇者よりも能力が劣るという理由でヒトノ帝国から追放されましたが、実際の所は私の見立てでは勇者の中で最も実力がある人間だと思います」

「何?そんな実力を持つ少年がどうして追放されたのだ?」

「どうやらウサン大臣の不興を買ったらしく、身勝手な理由で投獄された所を自力で脱出し、私達と接触してヒトノ帝国ではなくケモノ王国に迎え入れられる事を承諾しました」

「ほう……それが事実であるとすれば素晴らしい手柄じゃ」



過去に勇者を召喚した事もあるケモノ王国だからこそ、勇者という存在がどれほど重要なのかは理解していた。異界から訪れた勇者は非常に特別な存在として崇められ、一部の地域では神に等しい存在として崇められている。


もしもリルの言葉が真実ならばヒトノ帝国から勇者を連れ帰り、その勇者が協力的な存在ならばケモノ王国にとっても大きな利となり得る。話を聞いた国王は早速勇者の姿を探すが、何故かリル達の側にはそのレアという少年の姿は見当たらない。



「リルよ、そのレアという名前の勇者は何処におるのだ?」

「安心してください、王都からそれほど離れていない場所に隠れています」

「隠れているだと?どういう意味だ、どうしてここまで連れてこなかったのだ?」

「それは勇者殿が警戒しているからです。なにしろ、王女である私が襲われた所を見られましたからね……本当に自分を受け入れてくれるのか心配になったんでしょう」

「な、なに!?」



リルの言葉を聞いて国王は動揺し、ここでリルは先ほど自分がガオの配下に襲われた話に戻る。



「陛下、今回の私の暗殺を企てたのはガオである事はこの二人が証明しました。いくら弟と言えど、姉である私の命を狙った事に関して陛下はどう思いますか?」

「い、いや……それはだな」

「まさか、何の処罰も与えずにガオを許すつもりですか?」

「そんな事はしない!!奴を許すつもりはないが……」



ガオが義理とはいえ、自分の姉の命を狙ったという言葉に国王は慌てるが、はっきりと罰を与えるとは言い切れない。彼からすれば間違いを起こしたとはいえ、大切な息子に罰を与えるのは忍びないのだろう。


しかし、リルの立場から考えれば今回のガオの行動は許されるはずがなく、国王が自分に対して負い目を感じている今の内にガオに対して処罰を与えるように乞う。



「陛下、いくらガオが王子だからといって仮にも姉弟である私の命を狙った事は事実です。ならば王子であろうと関係なく、罰を与えるのが当たり前ではないですか?」

「し、しかし……本当にガオがお主の命を狙ったのか?やはり、ガオを呼びつけて直々に確認した方が良いのでは……」

「確認も何も、ここにいるガオの側近が自白しています。そうだな、ケマイヌ?」

「王女様のおっしゃる通りです、私はガオ王子から確実に王女様の命を奪うように命じられました。その際に王女様を辱めても構わないとも言われて……」

「何だと!?貴様、なんて事を……許せん!!今すぐにガオを呼び出せ!!この者達を地下牢へ放り込むがいい!!」



よりにもよってリルを辱めても構わないという言葉に流石の国王も許せず、激高してケマイヌと警備隊長を城内の牢獄に閉じ込めるように命じた。慌てて兵士達は二人を連れ出し、それを見送ったリルは国王に向き合う。

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