第154話 覚悟
「レイナ、私達の存在をこの男は知っていたというのか!?」
「はい。といっても、俺達を見つけたのは只の偶然です。前に立ち寄った街で俺達の情報を聞きつけて追いかけてきたようです。あの盗賊達はただの付き添いで事情は説明してなかったみたいですけど……」
「ぐっ……な、何故そこまで知っている!?お前はいったい何者だ!?」
「なるほど、その様子だと私達の事は知っていてもレイナ君の事は知らないのか」
メイはレイナが自分しか知り得ない情報を次々と明かす事に恐怖を抱き、いったい何者かと疑問を抱く。しかし、その態度が彼がレイナの正体を知らない事を示していた。
「俺の事は本当に何も知らないんですか?あ、嘘を吐いても分かりますよ」
「……とある街でリル王女の傍にいる女が黒色の牙竜を召喚してアンデッドの大群と吸血鬼を屠ったという噂は耳にしている。だからお前は召喚魔術師ではないのか?」
「召喚魔術師?」
「転移系の魔法で物体を移動させたり、あるいは契約を交わした精霊を呼び寄せる事が出来る魔術師の職業だ」
「なるほど、つまりレイナ君の事は召喚魔術師だと勘違いされて噂は広まっているのか……確かにあの時、レイナ君の正体を話してはいなかったからな」
アンデッドが襲撃された街でレイナはクロミンを黒竜へと変化させ、アンデッドを一掃したのは事実である(実際はアンデッドを操っていた吸血鬼を聖剣で倒したのだが)。
既に噂は他の街にも流れているらしく、どうやら一般人の間でもリルが戻って来たという話は知れ渡っている様子だった。
「メイ・ルン、お前の雇い主が分かったぞ。大方、ガオの奴かあるいは奴に与する人間に私を殺して連れてくるように言われたんだろう?」
「……知るか、俺を雇ったのは金払いが良い黒ずくめの男だった。前金で金貨10枚、お前を殺したら金貨100枚、更に死体を運んで来たら金貨200枚払うと言ってきたんだ」
「やれやれ、私の首が金貨200枚とは安く見られたな」
「リル様!!冗談でもそのような事を言うのはお辞めください!!それではまるでリル様が賞金首のようではないですか!!」
「縁起でもない」
「それもそうだな……だが、暗殺者を依頼して高額な報酬まで約束するとは、ガオの奴め本気でこの機会に私の命を狙うつもりか」
弟の企みを知ったリルは眉を顰め、やはり昔は仲が良かった相手だけに彼女も思うところはあった。だが、敵として命を狙うのならばリルも本気で逃げなければならず、まずは王都へ向かう必要がある。
「とりあえず、こいつらはどうしますかリル様?まだ生きてはいますが、動けるまでに回復するには時間が掛かると思います」
「多分、数日ぐらいは筋肉痛で悩むと思います。回復薬とかがあれば別だと思いますけど……」
「本来ならば街まで連れて引き渡すべきだが、このまま戻る事は出来ない。もしも弟が放った刺客がいれば命を狙われかねないからな」
「じゃあ、始末する?」
「え、殺すんですか……?」
「ぷるぷるっ?」
ネコミンがあっさりと始末するのかを聞いてきたため、クロミンを抱いていたレイナは驚くが、リル達の状況を考えたら生かしておく必要がない。自分達の命を狙い、更には野営用のテントまで破壊された。このまま逃がせばリル達の情報が他の人間にも伝わり、再び命を狙いに訪れる可能性もあった。
ここは平和な日本ではなく、日常で人が死ぬことが珍しくない世界である事はレイナも理解していた。しかし、いざ相手が魔物ではなく人間となるとレイナは躊躇してしまい、本当に他に方法はないのかと思う。
(リルさん達の立場を考えると敵は見逃せないのは分かるけど……)
リル達もこれまでに人を殺した事がないわけではなく、実際にレイナはリルと初対面時に殺されかけた。彼女達は目的のためならば邪魔をする存在を排除する覚悟があった。
(……そういえばあの二人も元々は人間だったんだよな)
レイナの脳裏に彼が倒した二人の吸血鬼の事を思い出し、片方は理性を失った少女、もう片方は少女を吸血鬼へと変貌させたアルドラをレイナは既に切っている。彼女達が多くの人間を殺めたのは事実であるし、レイナが倒さなければ大勢の人間が命を失っていただろう。
しかし、どちらも元々は人間であった事は間違いなく、少女の方はともかくアルドラは人間に等しい存在だった。レイナが倒してきた魔物とは違い、彼女の場合は吸血鬼でありながらも人と同じ意思を持っていた。
(もう、ここは俺の世界じゃないんだ……受け入れろ、受け入れなければ死ぬんだ!!)
自分を言い聞かせるようにレイナは唇を噛みしめ、そんなレイナの考えを察したのか、リルは地面に埋もれたメイに淡々と告げる。
「悪いが、お前達をここで生かして帰すわけにはいかない。ここでその命を絶たせてもらう」
「……覚悟はできている、殺せ」
「そうか、分かった。苦しまずに逝かせてやる」
リルは剣を引き抜くと、頭だけの状態のメイに刃を構え、勢いよく振り翳す。刃がメイの頭部に触れる瞬間をレイナは見て居られずに瞼を閉じるが、耳元に血飛沫が舞う音が広がった。
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